公開日 2009.08.31

大脳皮質における介在細胞タイプに依存した興奮性経路の選択的抑制

カテゴリ:研究報告
 大脳皮質機能研究系 大脳神経回路論研究部門
 

概要

大脳皮質の神経回路は興奮性の錐体細胞と抑制性の介在細胞から成り立っており、介在細胞によって興奮性ネットワークが制御されている。錐体細胞間では、皮質外投射先や発火様式に依存して特異的にシナプス結合がなされ、サブネットワークを形成していることが次第に明らかになってきている。しかし、多様な細胞タイプからなる抑制性介在細胞と興奮性サブネットワークとの関係はよく知られていない。

今回、5層介在細胞と興奮性サブネットワークとの関係について、ラットの前頭皮質スライス標本を用いて検討した。5層介在細胞は電気生理学的にFast Spiking (FS)細胞とnon-FS細胞に分類したが、記録したnon-FS細胞の多くは形態学的にマルティノッティ細胞であった。最初に層内での結合特異性を検討するために、5層の介在細胞と錐体細胞から同時にホールセル記録した。その結果、FS細胞と錐体細胞間では両方向性のシナプス結合が多くの細胞ペアで見られたのに対して、non-FS細胞と錐体細胞間では双方向結合は殆ど見られなかった。また、双方向結合していたFS/錐体細胞ペアの興奮性・抑制性シナプス電流の振幅は、一方向結合のものと比べて大きかった。次に異なる層からの興奮性入力パタンを検討するために、グルタミン酸刺激法を用いて2/3層錐体細胞から5層の介在細胞と錐体細胞に共通入力する確率について調べた。その結果、5層のnon-FS細胞と錐体細胞では、その間にシナプス結合があると2/3層錐体細胞から共通入力する確率が高くなったのに対して、5層FS/錐体細胞ペアに対する2/3層錐体細胞からの共通入力確率は5層細胞間の結合の有無に依存しなかった。

以上の結果から、5層の介在細胞は細胞タイプに依存して錐体細胞と層内・層間の異なるサブネットワークを形成しており、興奮性ネットワークの抑制様式が介在細胞タイプごとに異なることが示唆された(下図)。

論文情報

Otsuka T, Kawaguchi Y (2009) Cortical Inhibitory Cell Types Differentially Form Intralaminar and Interlaminar Subnetworks with Excitatory Neurons. The Journal of Neuroscience, 29(34), 10533-10540

【図1】 

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Schematic diagram of intra- and interlaminar subnetworks of pyramidal cells and interneurons. Line thickness represents connection probabilities. Triangles and circles indicate pyramidal cells and interneurons, respectively.