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脊髄に損傷を受けると手足の麻痺が生じるが、その後に運動機能の回復が見られることがある。機能回復の背景として、大脳皮質レベルの神経活動変化による機能代償がある(Nishimura Y, et al, 2007)。このような神経活動の変化を実現するために、大脳皮質において神経回路の再編成が生じていると考えられる。ただし、脊髄損傷後に大脳皮質レベルで神経回路の再編成が生じているという知見はこれまでにほとんど得られていなかった。
本研究では回復過程で生じる神経回路の変化を調べるため、神経突起の伸長に関わるタンパクであるGAP-43の遺伝子発現に着目した。すなわち、サル皮質脊髄路損傷後の機能回復過程におけるGAP-43遺伝子の発現変化を、大脳皮質運動関連領野において解析した(図A)。その結果、皮質脊髄路の損傷を受けたサルでは、回復時に両半球の第一次運動野(M1)のII-III層に存在する興奮性ニューロンにおいてGAP-43遺伝子の発現上昇がみられた(図B上)。またM1のV層に存在する大型ニューロンでも、両側性に発現の上昇がみられた(図B下)。さらに運動前野腹側部(PMv)や第一次体性感覚野(S1)においてもII-III層のニューロンでGAP-43遺伝子の発現上昇がみられた。これらの結果は、M1とPMv、S1を含む運動関連領野間の皮質間投射、および第一次運動野から皮質下への投射を担う神経細胞で可塑的な変化が生じていることを示す(図C)。
本研究成果は、脊髄損傷後に大脳皮質レベルの神経回路再編成が実際に生じており、それが機能代償に関与していることを示唆するものである。今後は回復過程で生じる投射レベルの変化や、神経回路変化を引き起こす遺伝子発現動態を明らかにしていく予定である。
Increased expression of the growth-associated protein 43 gene in the sensorimotor cortex of the macaque monkey after lesioning the lateral corticospinal tract.
Noriyuki Higo, Yukio Nishimura, Yumi Murata, Takao Oishi, Kimika Yoshino-Saito, Masahito Takahashi, Fumiharu Tsuboi, Tadashi Isa
The Journal of Comparative Neurology 516: 493-506 (2009)