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これまでの脳科学研究では“痛み”についての脳内メカニズムの研究は進んでいますが、“痒み”はどういったものか、脳の反応について、明確な回答は得られていませんでした。それは“痛み”と違って実験的に“痒み”を引き起こす方法が難しく、“痛み”とは異なる純粋な“痒み”に対する脳の反応を調べることができなかったからです。今回、自然科学研究機構 生理学研究所の柿木隆介教授、望月秀紀研究員らの研究グループは、新たに“痒み”を電気的に刺激する方法を開発し、それを用いて、“痒み”を感じる脳の部位を特定しました。“痒み”を感じる脳内メカニズムを明らかにし、“痛み”と“痒み”が異なることを明確にする研究成果です。アメリカ生理学会の神経生理学雑誌に発表されました(8月26日よりオンライン版で先行公開)。
これまでの“痒み”研究は“痛み”研究の延長線上にあり、実験的にはヒスタミンの皮下注入によって“痒み”を起こす方法がとられていました。しかし、この方法では、“痒み”以外の作用や快不快といった情動反応も引き起こすため、純粋に“痒み”の脳内メカニズムを特定することはできていませんでした。今回、研究グループは電気的に“痒み”を引き起こす方法(痒み刺激装置)を開発しました。二本の電極を手首の内側の皮膚上に隣り合わせに配置し、特定の電流刺激をくすぐるようにパルス状にあたえると、“痒み”を引き起こすことがわかりました。この刺激装置を用いて“痒み”を引き起こしたときの脳の中の反応を機能的MRIと脳磁図を用いて調べたところ、“痒み”の脳内認知は、“痛み”と共通部分もありますが、“痒み”独自の機構が存在することを初めて明らかにしました。具体的には、“痒み”の認知では特に頭頂葉内側部楔前部(けつぜんぶ)と呼ばれる部位の重要性が明らかになりました。この部分は体がうけた感覚情報をもとに情報処理する脳の部位ですが“痛み”認知の時には活動は見られません。
柿木教授は「“痒み”は“痛み”の軽いものという誤った説も根強く残っていたが、今回の発見で、“痒み”は“痛み”とは別の脳内メカニズムをもっていることが明らかになりました。今後“痒み”に特定した脳内反応を、どの感覚神経によって、いかにして引き起こさないようにするかなどの研究を進めることができるので、“痒み”だけを抑制する薬剤の開発などにつなげることができるかもしれない」と話しています。
本成果は文部科学省科学研究費補助金の支援を受けて行われました。
1.“痛み”とは異なる純粋な“痒み”を電気的に刺激する方法を開発しました。
2.機能的MRI や脳磁図によって、“痛み”と“痒み”は脳内認知は異なることが明らかになりました。とくに“痒み”の認知では頭頂葉楔前部(けつぜんぶ)など“痛み”とは違う脳の部位が重要な働きをしていた。
今回の実験で“痒み”を引き起こしたときに、脳の中で反応した部位をまとめました(赤色)。痛みなど他の感覚と共通する部分もありますが、頭頂葉内側部楔前部など“痒み”に特徴的に反応する部分を見つけました。
脳磁図(MEG)を用いて脳の反応を記録したときの頭頂葉内側部楔前部の痒みに特徴的な磁場反応。脳のてっぺんやや後ろ側、中央に、“痒み”に特徴的な反応がみられた(左の矢印の部位。右の写真の水色でしめされた部分を中心にして)。
今回開発した方法で“痒み”に特徴的な脳内反応を、機能的MRIと脳磁図を用いて調べたところ、“痛み”と共通な脳の部位だけでなく、“痒み”に特徴的な脳内反応を得ることができました。“痛み”は“痒み”の軽いものという誤解がありましたが、異なる脳内メカニズムで認知されていることを今回の実験結果が明らかにしました。
自然科学研究機構 生理学研究所 感覚運動調節部門
柿木隆介(カキギ リュウスケ)教授
〒444-8585 岡崎市明大寺町字西郷中38
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自然科学研究機構 生理学研究所 広報展開推進室
小泉 周(コイズミ アマネ)准教授
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