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自然科学研究機構・生理学研究所の箕越靖彦 教授および戸田知得 大学院生(総合研究大学院大学)の研究グループは、体内の脂肪細胞から出るホルモン「レプチン」が、脳に働き、それによってインスリンの働きを助け、糖尿病を防止する、その神経メカニズムを明らかにしました。糖尿病の新しい治療法に結びつく成果です。アメリカ糖尿病学会の専門学術雑誌“ダイアベテス(糖尿病)”に発表されます(電子版で公開されました)。
糖尿病は、膵臓から出るホルモン「インスリン」の作用が弱まることで血糖値が高く、重篤な障害が出る病気で、日本でも4〜5人に1人が糖尿病またはその疑いがあると言われています。糖尿病の治療法には様々なものが知られていますが、今回、研究グループは体内で脂肪を貯める脂肪細胞から出るホルモン「レプチン」(「肥満ホルモン」と呼ばれる)に注目。これまでにもレプチンは、ある種類の糖尿病に対する特効薬として使用されていますが、なぜこの「肥満ホルモン」で血糖値を下げることができるのか、そのメカニズムは知られていませんでした。今回研究グループはこのレプチンの脳への働きに焦点をあてて研究をすすめました。そして、レプチンが脳の視床下部の「満腹中枢」と呼ばれる部分に働き、交感神経を介して筋肉などでの糖の利用を高め、これにより血糖値の上昇を防止することを突き止めました。具体的には、レプチンが脳(視床下部)の満腹中枢に作用し、POMC(プロオピオメラノコルチン)神経と呼ばれる摂食調節神経を活性化。この働きで筋肉などでの糖の取り込みを促進し、血糖値の上昇を防いでいます。つまり、レプチンは脳(満腹中枢)に働くことで血糖の上昇を防ぎ、糖尿病の防止、治療につながります。
箕越教授は「今回の研究で、レプチンが脳(視床下部)の満腹中枢を活性化させ血糖値の上昇を防ぐ効果があることを明らかにしました。レプチンに似た物質などを投与して、今回発見された脳の神経回路を効率よく刺激できれば、糖尿病の新しい治療法に結びつくでしょう」と話しています。
本成果は文部科学省科学研究費補助金の支援を受けて行われました。
脳視床下部の中の満腹中枢にレプチンを注入すると、褐色脂肪細胞、心臓での糖の取り込みが促進しました。筋肉においても同様に糖の取り込みが促進しました。これによって血糖の上昇が抑えられ、糖尿病の発症を防止します。
レプチンは脳の視床下部の満腹中枢に作用して、POMC(プロオピオメラノコルチン)神経と呼ばれる摂食調節神経などの神経回路を活性化させ、交感神経を介して、筋肉や、褐色脂肪細胞、心臓での血糖の利用を促進します。
レプチンの抗糖尿病作用は、脳(視床下部)の満腹中枢に対する作用であることが明らかになりました。今回発見された脳の神経回路をより効率よく刺激できれば、糖尿病の新しい治療法に結びつけることができるでしょう。
実際、脂肪萎縮症の患者では重篤な糖尿病が起きることが知られています。これは脂肪細胞が委縮した場合、脂肪細胞からレプチンが放出されず、血糖を下げることができないため、糖尿病が起きるものと考えられます。レプチンをこの患者さんに投与すると糖尿病が著しく改善します。
Distinct effects of leptin and a melanocortin receptor agonist injected into medial hypothalamic nuclei on glucose uptake in peripheral tissues.
Chitoku Toda, Tetsuya Shiuchi, Suni Lee, Maya Yamato-Esaki, Yusuke Fujino, Atsushi Suzuki, Shiki Okamoto, Yasuhiko Minokoshi
アメリカ糖尿病学会糖尿病専門誌、Diabetes(ダイアベテス)電子版公開
生理学研究所 発達生理学研究系生殖 内分泌系発達機構
箕越 靖彦 教授 (みのこし やすひこ)
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