公開日 2009.12.14

青斑核ノルアドレナリン神経細胞におけるTRHの興奮作用

カテゴリ:研究報告
 発達生理学研究系 生体恒常機能発達機構研究部門
 

概要

青斑核に存在するノルアドレナリン神経細胞は、覚醒や痛みの制御などさまざまな役割を担っています。甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(Thyrotropin-releasing hormone:TRH)は視床下部で発見された神経ペプチドで、覚醒レベルの上昇や、痛み伝達の抑制などの作用があることが知られています。しかし、これらのTRHの作用機序は十分には明らかになっていませんでした。そこで今回私達は、ラットの青斑核から急性単離したノルアドレナリン神経細胞にパッチクランプ法を適用して、TRHの作用とそのメカニズムを検討しました。

青斑核ノルアドレナリン神経細胞は、単離した後も自発的な活動電位を発生しており、この単離神経細胞にTRHを投与したところ、TRHは活動電位の発生頻度を増加させました。種々の薬理学的ツールを用いた検討から、TRHのノルアドレナリン神経細胞に対する興奮作用は、TRHがホスホリパーゼC(PLC)を介してPIP2を加水分解し、その結果として、細胞膜中のPIP2 濃度が下がって、カリウムチャネルが閉じることが原因となっていることがわかりました。

ノルアドレナリン神経系は様々な生理的役割を担っていることから、TRHは青斑核ノルアドレナリン神経系を介して様々な中枢神経系の機能に影響を与えていると考えられます。

論文情報

Ishibashi H, Nakahata Y, Eto K, Nabekura J.
Excitation of locus coeruleus noradrenergic neurons by thyrotropin-releasing hormone.
J Physiol. 2009 Dec 1;587(Pt 23):5709-22.

【 図1 】

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(A)単離した青斑核ノルアドレナリン神経細胞。
(B) TRH による活動電位の発生頻度増加。
(C)細胞内シグナルメカニズム。TRHはホスホリパーゼC(PLC)を活性化することによりPIP2を分解する。細胞膜中のPIP2 濃度の減少によってカリウムチャネルが閉じて細胞膜が脱分極する。