公開日 2010.01.04

ATP受容体チャネルの膜電位と [ATP] に依存するゲート機構の構造基盤の同定

カテゴリ:研究報告
 分子生理研究系 神経機能素子研究部門
 

概要

我々は、これまでに、細胞外ATP によって活性化されるP2X2チャネルが、分子内に膜電位センサー領域を有しないのに、膜電位とATP に依存するゲートを示すことを明らかにしてきた。本研究では、膜電位に依存するゲートステップの一次構造上の基盤を明らかにすることを目的として、変異体解析を行った。(1) まず、ATP結合部位と同定されている領域の変異体の解析を行ったところ、K308Rでは、電荷が保存されているにも関わらず、コンダクタンス-膜電位関係が過分極側に大きくシフトしており、また、活性化速度が速かった。この性質は、ATP結合ステップと膜電位依存的ゲートステップからなる3ステートモデルにおいて、ゲートステップのkoffを増加させることによりシミュレートできた。(2) 次に、ATPによる活性化に関与することが知られている膜貫通部位の細胞外側端に位置するアミノ酸残基の変異体の解析を行った。T339S等は、低いATP濃度では遅い膜電位依存的活性化を示し、高いATP濃度では、膜電位に依存しない恒常的活性化を示した。この性質は、3ステートモデルにおいて、ゲートステップのkoffを減少させることによりシミュレートできた。(3) koff に逆向きの変化を与えたK308RとT339Sの2重変異体の解析を行ったところ、野生型P2X2に極めて近い性質を示した。以上の実験結果は、ATP受容体チャネルP2X2の膜電位依存的ゲートに、ATPとATP結合部位の複合体と、膜貫通部位細胞外側端が寄与していることを示す。ATP- ATP結合部位複合体がリンカー部分を経由して膜貫通部位細胞外側端に間接的に作用し、ゲート開口につながる膜電位依存的な構造変化をトリガーすることが示唆された。

論文情報

Batu Keceli and Yoshihiro Kubo
Functional and structural identification of amino acid residues of the P2X2 receptor channel critical for the voltage- and [ATP]-dependent gating.
Journal of Physiology 587: 5801-5818 (2009)

【 図 】 変異体解析により同定した膜電位依存的ゲートに重要なアミノ酸残基

Zebra fish P2X4 の結晶構造 (Kawate et al. (2009)) に基づいたhomology modeling による rat P2X2の構造上にマップした。

A:側面図

変異体解析により同定した、ATP 結合部位近辺に位置し、膜電位依存的ゲートに重要なアミノ酸残基を示した。

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B:膜貫通部位を細胞外側から観察した図

膜貫通部位の細胞外側よりに位置し、膜電位依存的ゲートに重要なアミノ酸残基を示した。

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