公開日 2010.03.30

冷涼環境における代謝調節

カテゴリ:研究報告
 細胞器官研究系 細胞生理研究部門
 

概要

生物は環境に順応しながら生きているが、とりわけ恒温動物は体温を一定に保つためにエネルギー代謝を調節している。恒温動物が寒冷環境(4-10℃)に暴露されると、熱産生による強いエネルギー消費を含めた代謝調節の起こることが知られている。本研究では、比較的軽微な温度低下、すなわち"涼しい"と言うべき環境に暴露された場合、どのような代謝調節が起こっているかを明らかにする目的で、20℃で10日間飼育したマウスを冷涼環境モデルマウスとし、その代謝機能について検討した。その結果、冷涼環境モデルマウスでは糖負荷に対するインスリン分泌能の低下とそれに伴う高血糖が認められた。またこのマウスは体重、体温に変化は認められなかったが、摂食量増大や血中遊離脂肪酸量低下などが認められた。さらに各脂肪組織を比較すると、皮下脂肪においてのみ脂肪合成が亢進しており、脂肪を蓄積していた。以上の結果より、マウスは軽微な温度変化をも感じて代謝機能を大きく変化させていることが明らかとなった。この変化は、体脂肪量を変化させることなくエネルギーを皮下脂肪に優先的に貯蔵するものであり、これはより気温が低下し体温維持のために強いエネルギー消費が必要となる場合に備えるための適応であると考えられる(参照)

論文情報

Metabolic adaptation of mice in a cool environment
Kunitoshi Uchida, Tetsuya Shiuchi, Hitoshi Inada, Yasuhiko Minokoshi, Makoto Tominaga
Pflugers Arch - Eur J Physiol (2010) 459:765-774

【図1】外気温の低下と代謝調節 

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通常、血糖降下ホルモンであるインスリンの作用により各臓器へグルコースが取り込まれる。「寒い環境」に暴露されると、褐色脂肪や筋肉では体温維持のために強い熱産生が起こり、多くのグルコースが取り込まれ消費される。その間に「涼しい環境」という段階があり、インスリン分泌は低下しているが、皮下脂肪において脂肪合成に関与する分子の発現量を上昇させて、脂肪を蓄積する。寒い環境ではこの蓄えたエネルギーを優先的に利用して体温を維持していると考えられる。