公開日 2010.04.27

PKD2L1/PKD1L3複合体がマウス3型味細胞でオフ応答を示す酸味受容体であることが初めて示された

カテゴリ:研究報告
 細胞生理研究部門
 

概要

我々は、5つの基本味(苦味、甘味、うま味、塩味、酸味)を舌で感じることが出来る。これまでに酸味レセプター候補として、ASIC(acid-sensing-ion-channel)など複数の候補があがっているが、どれもすべての事象をうまく説明できてはいない。我々は以前、新しい酸味レセプター候補としてPKD2L1/PKD1L3チャネル複合体について報告した。このチャネルは酸刺激が取り除かれた後でのみ活性化されるという特徴(我々はオフ応答と命名)を有していることを,HEK293細胞を用いた異所性発現系で示した(EMBO Rep, 2008) 。
今回我々は、マウスの味細胞で実際にPKD2L1/PKD1L3が酸に対するレセプターとして機能しているかどうかを、電気生理学的手法を用いて検討した。酸味レセプターが発現していると考えられる細胞(Ⅲ型味細胞)が蛍光標識されたマウス(GAD67-GFPノックイン マウス)を用いて実験を行った。マウス有郭乳頭から単離した味細胞を用いてカルシウムイメージング法で解析したところ、酸が洗い流された直後にオフ応答が確認された。さらにその後、その細胞に対して抗PKD2L1抗体で免疫染色を行った結果、オフ応答を示した細胞はPKD2L1を発現していることが確認された。また、パッチクランプ法を用いた解析でも同様にオフ応答を示す電流応答が確認された。最近、酸味のみ感じなくなった2人の患者の舌でASICとPKD2L1/PKD1L3遺伝子が欠損していることが報告された。こうした状況証拠から、酸味のレセプターとしてPKD2L1/PKD1L3が機能している可能性が考えられる。
この研究は、名古屋市立大学大学院耳鼻咽喉・頭頸部外科学(村上信五教授)、群馬大学大学院医学系研究科(柳川右千夫教授)、味の素株式会社ライフサイエンス研究所との共同研究です。

論文情報

Hitoshi Kawaguchi, Akihiro Yamanaka, Kunitoshi Uchida, Koji Shibasaki, Takaaki Sokabe, Yuchio Yanagawa, Shingo Murakami and Makoto Tominaga Activation of polycystic kidney disease-2-like 1 (PKD2L1)/PKD1L3 complex by acid in mouse taste cells.  J. Biol. Chem. 285(23): 17277-17281, 2010.

【図1】

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(A)Ⅲ型味細胞はGAD67(glutamate decarboxylase 67)を発現しているためにGAD67-GFPノックインマウスの 有郭乳頭から単離した味細胞では、GFPのシグナルによってⅢ型味細胞を同定できる。Ⅲ型味細胞が抗PKD2L1抗体によって染色されている。
(B)AでGFPシグナル陽性細胞の細胞内カルシウム濃度の変化  pH4の酸刺激開始直後に小さな細胞内カルシウム濃度上昇(オン応答)がみられ、酸刺激を止めた直後に大きな細胞内カルシウム濃度上昇(オフ応答)が見られる。脱分極応答陽性細胞である。左のトレースで示すポイント(aとb)での実際のカルシウムイメージング像を右に示す。
(C)平均化したカルシウム濃度変化(左)と代表的なパッチクランプ法による細胞膜電流(右) 保持電位-60mVで酸刺激中(オン応答)と後(オフ応答)に内向き電流が観察される。矢頭はゼロ電流レベルを示す。