公開日 2010.06.04

Cbln1とデルタ2グルタミン酸受容体の相互作用がシナプスの形成と維持に重要(計画共同研究)

カテゴリ:研究報告
 生理学研究所・脳形態解析部門
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概要

 脳の機能は神経細胞同士がシナプスを介して形成する神経回路により担われているので、シナプスの形成や機能発現がどの様にして調節されているかを明らかにすることは、脳の多様な働きがどの様に実現されているかを知る上で重要です。今回、協調運動や運動学習を司る小脳で特異的に発現しているCbln1とデルタ2グルタミン酸受容体(GluD2)の働きについて研究を行いました。この結果、Cbln1とGluD2はシナプスにおいて複合体を形成してシナプス前部と後部にそれぞれ働きかける極めてユニークな分子であること、また、この働きによりシナプスを介して神経細胞間の接着と成熟を促していることを解明しました。
 この研究は、慶応義塾大学医学部・生理学教室(柚崎通介教授)との生理研・計画共同研究として行われ、我々が得意とする電子顕微鏡レベルの定量的分子局在解析法(凍結割断レプリカ標識法:SDS-FRL)を用いて、平行線維-プルキンエ細胞シナプスのGluD2分布を解析しました(図1)。この解析により、Cbln1欠損マウスのシナプスではGluD2の発現密度が低いことが分かり、生体内でシナプス前から放出されるCbln1がシナプス後構造の分子構成を調節する働きを持つことを明らかにしました。

論文情報

Matsuda K, Miura E, Miyazaki T, Kakegawa W, Emi K, Narumi S, Fukazawa Y, Ito-Ishida A, Kondo T, Shigemoto R, Watanabe M, Yuzaki M.
Cbln1 is a ligand for an orphan glutamate receptor delta2, a bidirectional synapse organizer. Science 328:363-368, 2010.
http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/328/5976/363 
http://stke.sciencemag.org/cgi/content/abstract/sigtrans;3/118/ec118 

関連情報Web site
http://web.sc.itc.keio.ac.jp/physiol/yuzaki/index.htm

図1

20100604_shigemotolab1.JPG

SDS-FRL法を用いて平行線維―プルキンエ細胞間に形成される興奮性シナプス(図中、青線で囲まれた領域)におけるGluD2の分布を解析した。A, 野生型マウス、B, Cbln1欠損マウス。Cbln1欠損マウスのGluD2の標識(黒い点)は野生型マウスに比べて密度が低いことが分かる。