公開日 2010.09.22

脳の"覚醒"レベルを上げる神経メカニズムを解明

カテゴリ:プレスリリース
 生理学研究所 広報展開推進室
 

内容

我々の日々の高度な活動(車を運転したり、映画を見たり)には、覚醒を持続できる(起き続けられる)ことが重要です。これまでに、脳の中で働く“オレキシン”と呼ばれる神経タンパク質が、食欲などにかかわるほか睡眠や覚醒を制御することが知られていました。今回、自然科学研究機構生理学研究所の山中 章弘 准教授らは、このオレキシン自身によってオレキシンを産生する神経細胞同士で作用を高めあい、覚醒を維持する仕組みがあることを明らかにしました。居眠り防止や不眠の治療への応用も期待できる研究成果です。2010年9月22日(米国東部時間)発行の米国神経科学学会誌(ザ・ジャーナルオブニューロサイエンス)で報告されます。

山中准教授らは、脳の視床下部にあるオレキシンを放出する神経細胞(オレキシン神経細胞)に注目。オレキシン神経細胞は、覚醒物質として働くオレキシンを放出するだけでなく、オレキシンの刺激を受けとることができるオレキシン受容体(とくに、オレキシン2受容体)を持ち、お互いにその作用を高めあっていることを明らかにしました。オレキシン神経同士が互いに活性化しあうことで、オレキシン神経活動が高い状態に維持され、その間、覚醒が維持されることを明らかにしました。これまでオレキシン発見当初の研究成果から「オレキシン神経にはオレキシンは作用しない」という定説がありましたが、それを覆す発見です。

山中准教授は、「本研究によって、これまで明らかでなかった、覚醒を維持したり覚醒レベルを上げる神経メカニズムを解明しました。このメカニズムによって、オレキシン神経活動が高く維持されすぎることが不眠のメカニズムのひとつと考えられます。今回の研究成果は、今後、居眠り防止や不眠の治療に応用可能であると考えられます」と話しています。

本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)の「脳神経回路の形成・動作と制御」研究領域(研究総括:村上 富士夫 大阪大学 大学院生命機能研究科 研究科長)における研究課題「本能機能を司る視床下部神経回路操作と行動制御」(研究代表者:山中 章弘)の一環として行われました。

今回の発見

1.オレキシン2受容体がオレキシン神経自体に発現しており、オレキシン神経活動の維持に重要であった。
2.オレキシン神経同士が直接シナプス(神経と神経のつながり)を作り、オレキシン2受容体を介して互いに活性化することを見いだした。

図1 オレキシン神経同士でシナプス様構造を作っている(電子顕微鏡写真)

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2つのオレキシン神経細胞が、シナプス様構造(矢印部位)をつくっていることが分かった。このシナプス様構造には、オレキシン2受容体があることが明らかになった。

図2 オレキシン神経同士で作用を高めあうイメージ図

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脳の視床下部にあるオレキシン神経細胞(緑色)同士が手(軸索)を伸ばしあい、オレキシンを放出しあうことで、互いに活性化されていた。これによってオレキシン神経の活動が維持され、覚醒レベルを維持することができるものと考えられた。

この研究の社会的意義

1.オレキシン受容体拮抗薬が睡眠誘導薬として作用する際の作用機序を良く説明できる
 これまでに、オレキシン2受容体が覚醒に重要な役割を担っており、この受容体の作用を抑える物質が睡眠誘導剤として働くことは知られていましたが、そのメカニズムについては明らかになっていませんでした。今回の研究成果によって、オレキシン神経そのものがその受容体をもつことが明らかとなり、オレキシン受容体拮抗薬の作用機序を良く説明できます。

2.オレキシン神経の活動が高く維持され過ぎることが不眠のメカニズムのひとつと考えられる
 不眠のメカニズムについてはこれまでも様々な研究が行われていましたが、今回の発見で、オレキシン神経の活動が高く維持されすぎてしまうことが不眠のメカニズムの一つとして考えられます。今回の発見により、今後、居眠り防止や不眠の治療にも応用可能だろうと考えています。

論文情報

Orexin directly excites orexin neurons through orexin 2 receptor
“オレキシンはオレキシン2受容体を介してオレキシン神経を直接活性化する”
The Journal of Neuroscience

お問い合わせ先

<研究に関すること>
山中 章弘 (ヤマナカ アキヒロ)
自然科学研究機構 生理学研究所 細胞生理研究部門 准教授
TEL 0564-59-5287、FAX 0564-59-5285
E-mail: yamank@nips.ac.jp

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〒102-0075 東京都千代田区三番町5 三番町ビル
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