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網膜は目の中にある光を感じて脳に信号を送る神経組織です。これまで脳や神経の組織を生体から取り出して培養するためには、一つ一つの細胞をばらばらにするか、一部をスライスして切り取るしかありませんでした。しかし、網膜の場合には、バラバラにすると光を感じて信号を送り出す機能がなくなってしまうため、これまで有効な培養方法は開発されていませんでした(図1)。今回、自然科学研究機構 生理学研究所の小泉周准教授の研究チームは、おとなのネズミの網膜をバラバラにすることなく、組織のまま“まるごと”培養することに成功しました(図1、図2)。これによって、網膜の光を感じる機能を保ったまま、新たな薬剤のスクリーニングや遺伝子導入法の開発に活用することが出来ます。本成果は、米科学誌プロス・ワン(2010年9月23日号)電子版に掲載されます。
研究チームは、目の中から網膜を“まるごと”取り出し、独自に開発した培養皿にそのままのせて、一定の早さで培養液を揺らしつづけることで、光を感じる機能をなくすことなく、培養できることを明らかにしました(図2)。培養液を揺らし続けることで、本来なら循環する血液による栄養素の補給などを効果的に行うことができるのではないかと考えられました。通常、おとなの動物(哺乳類)の網膜は摘出して数時間以内には、光を感じる能力を無くしてしまいますが、今回の方法では、少なくとも4日間は健康な状態を保ったまま網膜を維持し続けることができました。さまざまな種類の遺伝子を培養網膜に導入することにも成功しました(図3)。
小泉准教授は「網膜疾患の治療にも役立つ可能性のある新たな遺伝子を、培養したネズミの網膜に発現させることも出来た。今後は、培養網膜を使った薬剤のスクリーニングや遺伝子導入法開発に活用していきたい」と話しています。
本研究は文部科学省科学研究費補助金の補助を受けて行われました。
1. おとなのネズミ(ラットやマウス)の網膜を“まるごと”取り出し、培養することに成功しました。
2. 培養した網膜は、取り出したあとも、少なくとも4日間は、光感受性を保っていました。
3. 培養した網膜に、様々な種類の遺伝子を導入することにも成功しました。
網膜は眼球の後ろに張り付いている神経細胞でできた“網の膜”で、光を感じ、視覚情報処理を行っています。従来は、網膜を取り出しバラバラな神経細胞にして培養するしか方法がありませんでしたが、今回、取り出した網膜を“まるごと”培養することに成功しました。これによって、網膜の光感受性や視覚情報処理能力を保ったまま培養することができます。
特殊な培養皿の上に網膜(赤矢印)を乗せ、培養を行った。この培養皿を皿ごと揺らし続けて培養を行う。
培養した網膜の神経細胞に遺伝子銃という特殊な機械を使って緑色蛍光タンパク質(GFP)を遺伝子導入した例。網膜の中で、神経細胞が複雑に突起を伸ばしている様子が、良くわかる。
1. 培養網膜を使った薬剤のスクリーニングや遺伝子導入法開発に活用
今回の方法によって、おとなの動物(哺乳類)の網膜をその機能を保ったまま培養することができるので、新たな薬剤のスクリーニングや遺伝子導入法の開発に活用できるものと期待されます。
Organotypic tissue culture of adult rodent retina followed by particle-mediated acute gene transfer in vitro
Satoru Moritoh, Kenji F. Tanaka, Hiroshi Jouhou, Kazuhiro Ikenaka, and Amane Koizumi
PLoS One(プロス・ワン), 2010年9月23日電子版
小泉 周 (コイズミ アマネ)
自然科学研究機構 生理学研究所 准教授
TEL 0564-55-7722、FAX 0564-55-7721
E-mail: amane@nips.ac.jp