公開日 2010.10.20

体温を感じる分子センサーがインスリン分泌を効果的に促進

カテゴリ:プレスリリース
 生理学研究所 広報展開推進室
 

内容

自然科学研究機構・生理学研究所の富永真琴 教授および内田 邦敏 研究員の研究グループは、膵臓の細胞からインスリンが分泌される際に働く体温感受性センサーTRPM2(トリップエムツー)の働きを明らかにしました。糖尿病の新しい治療法に結びつく成果です。アメリカ糖尿病学会の専門学術雑誌ダイアベテス(糖尿病)に発表されます(電子版で公開されました)。

糖尿病は、膵臓から出るホルモン「インスリン」が不足したり、「インスリン」の作用が弱まったりすることで血糖値が高くなり、重篤な障害が出る病気で、日本でも45人に1人が糖尿病またはその予備群であると言われています。糖尿病の治療法には様々なものが知られていますが、研究チームは今回、膵臓の細胞からインスリンが分泌されるメカニズム、とくに、体温を感じて働くTRPM2(トリップエムツー)という分子に注目しました。膵臓のインスリン分泌細胞では、TRPM2分子センサーは体温を感じているだけでなく、体温とともに糖やホルモンの刺激を受けることにより、細胞内へのカルシウムの流入を調整して、インスリン分泌を促していることを明らかにしました。これまでインスリンを分泌する刺激は様々なものが知られていましたが、TRPM2はこれまでとは異なる働きによってインスリン分泌に働いていると考えられます。実際、TRPM2を遺伝子的に失くしたマウス(TRPM2欠損マウス)は、インスリン分泌低下を伴う血糖調節異常を示しました。

富永教授と内田研究員は「TRPM2を効果的に刺激する物質がわかれば、これまでの薬剤とは違ったメカニズムで、膵臓のインスリン分泌をより効果的に促すことができるだろう」と話しています。

 この研究は、生理学研究所生殖・内分泌系発達機構研究部門(箕越教授)、自治医科大学統合生理学部門(矢田教授)、京都大学大学院工学研究科(森教授)との共同研究によるものです。
 本研究は文部科学省科学研究費補助金の補助を受けて行われました。

 ※本件につきましては、1020日(水曜日)記者会見後、報道していただけます。

 今回の発見

.膵臓のインスリン分泌細胞(膵臓β細胞)には体温を感じる分子センサーTRPM2が存在し、カルシウムを取り込み、インスリン分泌を促進させていました。

2.TRPM2を遺伝子的に失くしたマウス(TRPM2欠損マウス)は、インスリン分泌低下を伴う血糖調節異常を示しました。

3.TRPM2は、糖(グルコース)刺激および消化管ホルモン(インクレチン)刺激のどちらにも関与し、膵臓β細胞を刺激しているものと考えられました。

図1 マウスにおける糖(グルコース)経口投与後の血糖値変化とインスリン分泌

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 (左図)TRPM2欠損マウスでは、ふつうのマウスと比べて、糖(グルコース)を与えたときに血糖値の上昇が1.5倍程度に大きくなりました。(右図)また、TRPM2欠損マウスでのインスリン分泌は、ふつうのマウスの半分以下でした。

図2 糖(グルコース)及び消化管ホルモン(インクレチン)刺激による膵島からのインスリン分泌  


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TRPM2欠損マウスでは、ふつうのマウスと比べて、糖(グルコース)や消化管ホルモン(インクレチン)を与えてもインスリン分泌はそれほど増えませんでした。TRPM2分子センサーは、糖の刺激や消化管ホルモン(インクレチン)の刺激によるインスリン分泌の両方に関わっているものと考えられます。

 図3 TRPM2によってインスリン分泌が促されるメカニズム(模式図)

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 膵臓インスリン分泌細胞(β細胞)のTRPM2分子センサーは糖(グルコース)刺激や消化管ホルモン(インクレチン)刺激によるインスリン分泌の両方に関わっており、膵臓β細胞にカルシウムを流入させてインスリン分泌を促しているものと考えられます。

この研究の社会的意義


1.新たな糖尿病治療薬(インスリン分泌促進薬)の開発に光
 今回の研究によって、糖の刺激や消化管ホルモンの刺激どちらにも関与し、膵臓β細胞のカルシウム濃度を直接上昇させてインスリン分泌を促すという新しいメカニズムを解明しました。TRPM2分子センサーを効果的に活性化する物質がわかれば、これまでとは違う新しいメカニズムでインスリン分泌を促す薬剤の開発を行うことができるものと期待されます。


論文情報


Lack of TRPM2 impaired insulin secretion and glucose metabolisms in mice.
Diabetes (in press) online publication (Oct. 4, 2010)
Kunitoshi Uchida, Katsuya Dezaki, Boldbaatar Damdindorj, Hitoshi Inada, Tetsuya Shiuchi, Yasuo Mori, Toshihiko Yada, Yasuhiko Minokoshi and Makoto Tominaga
アメリカ糖尿病学会誌

お問い合わせ先

<研究について>
自然科学研究機構 生理学研究所
教授 富永真琴 (とみなが まこと)
研究員 内田 邦敏 (うちだ くにとし)
Tel: 0564-59-5286   FAX: 0564-59-5285 
email:
tominaga@nips.ac.jp,

 <広報に関すること>
自然科学研究機構 生理学研究所 広報展開推進室 准教授
小泉 周 (コイズミ アマネ)
TEL 0564-55-7722FAX 0564-55-7721 
pub-adm@nips.ac.jp