公開日 2010.11.02

2光子レーザー顕微鏡を用いたペナンブラにおける脳微小血管血流動態の観察

カテゴリ:研究報告
 生理学研究所・生体恒常機能発達機構研究部門
 

論文情報

The inhibitor of 20-HETE synthesis, TS-011, improves cerebral microcirculatory autoregulation impaired by middle cerebral artery occlusion in mice.
Marumo T, Eto K, Wake H, Omura T, Nabekura J.
Br J Pharmacol (2010) 161: 1391-1402

概要

 脳梗塞は世界的に罹患率の高い疾患であり、重い後遺症を伴い、寝たきりになる可能性の高い疾患である。脳梗塞の治療薬は、QOLの向上を含め、その開発が強く望まれている。
  本研究では、これまで生体レベルで捉えることが難しいと考えられていた、脳微小血管血流の経時的動態を、2光子レーザー顕微鏡を用いて観察する方法を開発した。脳梗塞の治療ターゲットとなるペナンブラにおいて、脳梗塞により障害された脳微小血管血流の変動をこの方法を用いて明らかにし、20-HETE産生酵素阻害剤(TS-011)の影響を検討した。中大脳動脈を閉塞/再灌流することにより脳梗塞を誘発したマウスでは、ペナンブラにおける微小脳血管血流の自動調節能が障害され、24時間にわたり血流が変動した。これに対し、TS-011を投与したマウスでは、脳梗塞後も脳微小血管血流の自動調節能が保たれ、血流の変動を抑制し、正常レベルに維持することができた。このとき、TS-011はマウスの脳梗塞体積を有意に縮小した。脳梗塞により増加する20-HETEは、脳微小血管を収縮させる作用があり、TS-011はこの作用を抑制することにより、脳梗塞後の血流を正常レベルに保つことにより脳保護作用を示したと思われる。本研究で検討した方法は、多数の微小血管の血流動態を一度に、かつ経時的に追うことが可能であり、その血流動態を観察するのに有用であると考える。

図1

 

図1JP.jpg

 
2光子レーザー顕微鏡にて脳微小血管の血流を測定するに当たり、従来は、一本一本の血流をラインスキャン法にて測定していた。よって、多数の脳微小血管に対する作用を捉えようとすると、血管毎にタイムラグが生じてしまう。そこで、血管内に蛍光色素(sulforhodamine 101)を注入し、その消失速度をもって血流量とする方法をとった。この方法で、脳虚血後のペナンブラ領域において、多数の脳微小血管血流量が減少する様子を同時に捉えることができ、薬効を評価することができた。

図2

 図2JP.jpg


中大脳動脈閉塞/再開させたマウスでは、ペナンブラにおける脳微小血管血流が、自動調節能が障害を受けたために不安定になっていることが確認された。これまでの報告通り、脳微小血管血流は、再灌流後4時間にわたり徐々に回復し、4時間後、及び24時間後においては過灌流の傾向が認められた。一方、再灌流後7時間に於いては、血流が再び低下していることが明らかとなり、これは今回初めて捉えられた現象である。脳微小血管収縮作用を持つ20-HETEの合成酵素阻害剤であるTS-011を投与されたマウスでは、脳梗塞後も脳微小血管血流の自動調節能が保たれ、血流の変動を抑制することができた。