公開日 2010.11.05

赤ちゃんの"笑顔"と"怒り顔"に対する脳反応
-"笑顔"はゆるやかに,"怒り顔"はあっという間に-

カテゴリ:プレスリリース
 学校法人 中央大学 
自然科学研究機構生理学研究所
 

概要

”笑顔”と”怒り顔”を見ている時の乳児の脳反応が異なることを,近赤外分光法(Near-Infrared Spectroscopy;NIRS)によって明らかにした。近赤外分光法(NIRS)は,脳内のヘモグロビン量の変化を計測する非侵襲の装置で,近年乳児の脳反応計測に広く用いられている。
今回の研究は,1)対人コミュニケーションの中で重要とされる表情識別に関する脳内メカニズムが,生後6-7ヶ月児の脳で明らかになったこと,2)他者に対して喜びを伝える”笑顔”と,警告を伝える”怒り顔”では,それぞれの表情から読み取れる情報に応じて,赤ちゃんの脳内で別々に処理される可能性を示唆するものである。
この研究は,中央大学文学部,中央大学研究開発機構(山口真美教授,仲渡江美研究員),自然科学研究機構・生理学研究所(柿木隆介教授,仲渡江美研究員)の共同研究により,NeuroImage 誌に掲載予定,Online版では9月17日に掲載された。

内容

 私たちの研究グループは,これまで近赤外分光法(NIRS)を用いて,生後5-8ヶ月の乳児の顔認知の機能について調べてきました(Otsuka et al., 2007; Nakato et al., 2009; Honda et al., 2010; Ichiwaka et al., 2010; Nakato et al., in press a ; Nakato et al., in press b).これら一連の研究から,生後1年未満の乳児の顔認知能力の発達を解明してきました。
今回は,人と人とが行う非言語的コミュニケーションの中で,最も重要な役割を果たす表情の認識について検討した研究成果を発表します。
この研究では,女性の“笑顔”と“怒り顔”を提示し,それを見ているときの生後6-7ヶ月児の脳の反応をNIRSで計測しました。

(1)    “笑顔”,“怒り顔”ともに,顔を見ている時に脳反応が大きく増加しました。
(2)    顔刺激の提示終了後,“笑顔”では脳反応の増加が継続していたのに対し,“怒り顔”では急速に脳反応が低下しました。
(3)    つまり,“笑顔”のときは脳の反応がゆっくりと長く続くのに対し,“怒り顔”のときは,脳の反応が急速に低下することが認められました。
(4)    また,“笑顔”では左側頭部,“怒り顔”では右側頭部で脳反応の増加が認められ,“笑顔”(ポジティブ表情)と“怒り顔”(ネガティブ表情)をそれぞれ左右の半球で別々に処理していることが示されました.これらの結果から,生後6ヶ月以降の赤ちゃんにおいて,ポジティブ表情とネガティブ表情で処理過程が異なることが明らかになりました。

これらの結果は,“笑顔”は,人に喜びの情報を伝えるので脳の活動が継続して活動するものの,“怒り顔”は,警告や危険を示す情報を伝え次に行動を移す必要があるため,脳の活動が急速に低下していくと考えられます。つまり,赤ちゃんは,それぞれの表情から読み取れる生物学的な意味を解釈し,情報に応じて脳内で別々に処理している可能性が判明しました。
今回の研究は,赤ちゃんの脳内でポジティブ表情とネガティブ表情に反応する神経基盤を明らかにした世界で初めての研究になります。

連絡先

<研究に関すること>
中央大学 文学部
山口 真美 (ヤマグチ マサミ) 教授
TEL /FAX: 042-674-3843
E-mail: ymasa@tamacc.chuo-u.ac.jp

自然科学研究機構 生理学研究所
柿木 隆介 (カキギ リュウスケ) 教授
仲渡 江美 (ナカト エミ) 研究員
TEL:0564-55-7815, 7810,  FAX:0564-52-7913
E-mail: kakigi@nips.ac.jp
nakato@nips.ac.jp

<広報に関すること>
中央大学 研究支援室 副課長 
川村 源太 (カワムラ ゲンタ)
TEL 03-3817-1602, FAX 03-3817-1677
E-mail: k-shien@tamajs.chuo-u.ac.jp


自然科学研究機構 生理学研究所 広報展開推進室 准教授
小泉 周 (コイズミ アマネ)
TEL 0564-55-7722、FAX 0564-55-7721
E-mail: amane@nips.ac.jp

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