公開日 2010.12.09

Met268Pro変異により、マウスTRPA1チャネルに対するカフェインの効果が活性化から抑制に変わる。

カテゴリ:研究報告
 分子生理研究系神経機能素子研究部門
 

概要

TRPA1 チャネルは、TRP チャネルファミリーに属するメンバーで、様々な侵害物質等により活性化される。我々は、先に、カフェインが、in vitro 発現系、および感覚神経節の神経細胞において、マウスTRPA1チャネルを活性化すること、対照的に、カフェインがヒトTRPA1チャネルを抑制することを見いだし報告した (Nagatomo K and Kubo Y, Proc Natl Acad Sci USA 105: 17373-17378 (2008))。今回、その応答の一次構造上の基盤の同定を目的として研究を行った。
マウスTRPA1とヒトTRPA1のカフェインに対する応答が質的に異なることを利用するため、両者のキメラ分子を系統的に作成した。ツメガエル卵母細胞発現系を用いて、それらの応答を電気生理学的に解析したところ、マウスTRPA1のN末端細胞内領域の231-287番目をヒトTRPA1に置き換えると、カフェインの効果が抑制に転ずることが明らかになった。この領域は、これまでに、マウスTRPA1を活性化する物質の作用部位として同定されている様々な部位と異なる新規のものであった。さらに、マウスTRPA1のこの領域内のアミノ酸残基をひとつずつヒト型に置き換えて機能解析したところ、Met268Proの一アミノ酸変異により、カフェインの効果が抑制に転じた。ただし、ヒトTRPA1に逆の変異を導入したPro267Met変異体では、カフェインは依然として抑制効果を示した。また、既知の種々のリガンド結合部位として知られているアミノ酸残基の点変異を導入したマウスTRPA1においては、カフェインの活性化効果は変化しなかった。以上の結果から、カフェインによる活性化に関与する一次構造上の基盤はN末端細胞内領域にあり、これまでに知られている種々のリガンド結合部位とは異なること、マウスとヒトのTRPA1チャネルのカフェイン応答の違いはこの残基の違いによることが明らかになった。

論文情報

The Met268Pro mutation of mouse TRPA1 changes the effect of caffeine from activation to suppression
Katsuhiro Nagatomo, Hiroshi Ishii, Tomomi Yamamoto, Koichi Nakajo and Yoshihiro Kubo
Biophysical Journal, 99: 3609-3618 (2010)

図1 マウスTRPA1とヒトTRPA 1のキメラのデザインと性質

図1デザインと性質.jpg

(A) マウスTRPA1とヒトTRPA 1のキメラのデザイン。N, Cは、それぞれ、N末端、C末端を意味し、TMは、膜貫通部位を意味する。(B) 野生型マウスTRPA1のカフェインに対する応答。活性化効果が見られる。(C) Mo-Hu(231-287)-Moキメラのカフェインに対する応答。抑制効果が見られる。

図2 マウスTRPA1の231-287領域にヒト型変異を導入した点変異体の機能解析

図2変異体の機能解析.jpg

 

(A) 231-287領域のマウスTRPA1とヒトTRPA1のアミノ酸配列の比較。星印がついていないところが異なっている。(B) 点変異体の機能解析。縦軸は、カフェイン投与後 /投与前の電流の比を表し、1未満だと、抑制を意味する。Met268Proで著明な抑制が見られる。