公開日 2010.12.15

「あっ、お母さんの顔だ!」:生後7-8か月の赤ちゃんの脳反応がお母さんの顔と他人の顔では違うことを脳科学的に証明

カテゴリ:プレスリリース
 生理学研究所・広報展開推進室 
 中央大学・研究支援室
 

内容

自然科学研究機構生理学研究所の柿木隆介教授および仲渡江美研究員と、中央大学の山口真美教授の共同研究グループは、生後7-8か月の赤ちゃんがお母さんの顔を見ている際の脳活動は,他の人の顔を見ている時とは異なることを明らかにしました。ちょうど7-8か月の赤ちゃんは「人見知り」を始めることがしられており、今回の研究成果によって赤ちゃんの人見知りのメカニズムを脳科学から説明することができます。認知科学専門誌であるEarly Human Development誌電子版に掲載されました。
今回、研究グループは、近赤外線分光法(NIRS)という手法を用いて生後7-8か月の赤ちゃんの脳活動を記録しました。赤ちゃんがお母さんの顔を観察中は左右の両側頭部で脳活動が増加しました。その一方で、見知らぬ女性の顔を観察中は右側頭部でのみ脳活動の増加が確認されました。大人では、見慣れた顔でも見慣れない顔でも、「顔」を見ている際には右側頭部の下部の領域(superior temporal sulcus; STS付近)が活動しているのですが、今回の結果では、赤ちゃんはお母さんの顔を見るときにだけ右側頭部のほかに反対側の左側頭部の活動も見られました。これは、赤ちゃんがお母さんの顔を見たときにだけ、左半球にある言語処理の脳領域を使って、コミュニケーションを図ろうとしているものと考えられます。
研究グループは「今回の発見によって、生後7-8か月の赤ちゃんはお母さんの顔と他人の顔を区別していることを明らかにできた。この時期に始まる“人見知り”を脳科学の面から上手く説明できる。」と話しています。

本研究は文部科学省科学研究費補助金の補助を受けて行われました。

今回の発見

1.生後7-8ヶ月児の赤ちゃんが,お母さんの顔を見ているときの脳反応の計測に成功しました.
2.お母さん顔を観察中は左右の両側頭部で脳活動が増加,一方で見知らぬ女性顔を観察中は右側頭部でのみ脳活動の増加が確認されました.
3.赤ちゃんがお母さんの顔を見ている際の脳活動は,他の人を見ているとは異なることが明らかになりました.

図1

お母さんの顔を見た時の赤ちゃんの脳の反応:近赤外線分光法(NIRS)による測定

 図1ヘモグロビン.jpg

 脳が活発に活動すると酸素が必要になります。そこで、血液中の酸素化ヘモグロビン(oxy-Hb)が増えて、酸素供給を行います。近赤外線分光法(NIRS)ではこの値を計測しています。特に酸素化ヘモグロビン(oxy-Hb)と総ヘモグロビン(total-Hb)が脳活動によって変化することが知られています。生後7-8か月の赤ちゃんは、お母さんの顔をみたときにだけ、他人の顔をみたときに比べて、脳の左側頭部におけるoxy-Hbとtotal-Hbの値がともに上昇しました。右側頭部でもoxy-Hbとtotal-Hbは上昇しましたが、これはお母さんの顔であろうとなかろうと「顔」をみただけで反応しました。
 

図2

生後7-8か月の赤ちゃんがお母さんの顔を見ている時には,脳の左右両側頭部の活動が増加

 図2ママ.jpg

本研究成果のイメージ写真。生後7-8か月の赤ちゃんがお母さんの顔を見ている時には,脳の右側頭部(顔認知に関わる脳の領域)だけでなく,左側頭部(言語に関わる脳の領域)でも活動が増加することが明らかになりました。

この研究の社会的意義

1.“人見知り”の脳内メカニズムの解明へ
生後7-8か月の赤ちゃんは、ちょうど人見知りを起こすことが知られています(心理学的に「8ヶ月不安」と言います)。今回の研究結果によって、その時期の赤ちゃんの脳では,お母さんの顔と他人の顔に対し異なる反応を示すことが脳科学的に明らかになったことから、脳科学的に“人見知り”の始まりを説明することができます。

2.赤ちゃんはお母さんを見た時に言語コミュニケーションを求めている
お母さんの顔をみたときだけ、赤ちゃんの脳の左側頭部の反応が増大しました。左側頭部には、言語を司る脳の領域があるため、お母さんの顔をみたときには赤ちゃんが言語コミュニケーションをとろうとしているものと考えられました。

論文情報

I know this face: Neural Activity during the Mother' Face Perception in 7- to 8-Month-Old Infants as investigated by Near-Infrared Spectroscopy.
Emi Nakato, Yumiko Otsuka, So Kanazawa, Masami K Yamaguchi, Yukiko Honda, Ryusuke Kakigi
Early Human Development, 電子版

お問い合わせ先

<研究に関すること>
自然科学研究機構 生理学研究所
柿木 隆介 (カキギ リュウスケ) 教授
仲渡 江美 (ナカト エミ) 研究員
TEL:0564-55-7815, 7810,  FAX:0564-52-7913
E-mail: kakigi@nips.ac.jpnakato@nips.ac.jp

中央大学 文学部
山口 真美 (ヤマグチ マサミ) 教授
TEL /FAX: 042-674-3843
E-mail: ymasa@tamacc.chuo-u.ac.jp

<広報に関すること>
自然科学研究機構 生理学研究所 広報展開推進室 准教授
小泉 周 (コイズミ アマネ)
TEL 0564-55-7722、FAX 0564-55-7721
E-mail: pub-adm@nips.ac.jp

中央大学 研究支援室 副課長 
川村 源太 (カワムラ ゲンタ)
TEL 03-3817-1602, FAX 03-3817-1677
E-mail: k-shien@tamajs.chuo-u.ac.jp