公開日 2011.01.21

栄養吸収の場である小腸絨毛の動きや機能を制御するシグナル伝達系を明らかにした
-上皮下線維芽細胞を介したサブスタンス-PとATP の相互作用-

カテゴリ:研究報告
 生理学研究所・脳機能計測支援センター・形態情報解析室
 

論文情報

Localization of NK1 receptors and roles of substance-P in subepithelial fibroblasts of rat intestinal villi.
Furuya S, Furuya K, Shigemoto R, Sokabe M.
Cell Tissue Res (2010) 342:243-259

概要

 消化管は栄養物の吸収器官であるのみならず、化学的、機械的刺激を感ずる知覚器官であり、又、外界からの微生物や種々の抗原に対する防御器官でもある。小腸絨毛の上皮下でアクチンに富みギャップ結合で繋がった細胞網を形成している上皮下線維維芽細胞は毛細血管、平滑筋、神経終末や免疫系細胞と接触しており、基底膜成分、成長因子やサイトカイン等を合成、分泌し、上皮細胞の分化、移動、摂食反射、腸管免疫など、絨毛における様々な機能に関与している。我々はこの小腸絨毛上皮下線維芽細胞が機械的刺激に応答してATPを放出するメカノセンサーであることを明らかにしてきたが、本研究では、この細胞がサブスタンスP受容体(NK1)を発現し、サブスタンスPに応答することを免疫電顕及びCa2+測光法で明らかにした。また、小腸絨毛上皮下線維芽細胞とシナプス様構造(close contact)を形成する神経終末の一部はサブスタンスP含有神経(知覚神経)であった。これらの結果は、食物や水などの摂取に伴う機械的刺激によって絨毛上皮下線維芽細胞からATPが放出され、ATP受容体を持つ知覚神経へのシグナル伝達が引き起こされるのみならず、知覚神経から放出されるサブスタンスPがNK1受容体を介して絨毛上皮下線維芽細胞に細胞内Ca2+の上昇を引き起こす相互的なシグナル伝達機構が存在し、絨毛における種々の機能を制御している可能性を示唆する。

図1の説明

 ラット十二指腸から単離培養した絨毛上皮下線維芽細胞はサブスタンスP (10nM)によって細胞内Ca2+が上昇しそれに引き続き細胞の収縮が見られた(A)。この反応はサブスタンスPの受容体NK1を介している事が薬理学的に示された(not shown)。また絨毛構造を保ったままの絨毛組織サンプル作成に成功した(B)。この絨毛サンプルはサブタンスPに応答しCa2+反応とともに絨毛の収縮が引き起こされた(B, C)。

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図2の説明

光顕(A)及び電顕(B)免疫組織化学によりNK1受容体(黒いDAB反応産物)が小腸絨毛部(villus)の上皮下線維芽細胞の細胞膜に局在することが明らかになった。陰窩部(crypt)の上皮下線維芽細胞には局在しない(A)。絨毛上皮下線維芽細胞はサブスタンスP含有神経終末(黒いDAB反応産物)と接触して(矢印)シナプス様構造を形成している。

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