公開日 2011.01.25

"ホヤ"の赤ちゃんはサカナと違った仕組みで上手に"泳ぐ"
筋肉を動かす仕組みの「進化」の歴史を考える上で重要な発見

カテゴリ:プレスリリース
 大阪大学医学部
生理学研究所・広報展開推進室
 

内容

大阪大学の西野敦雄助教(理学部)と岡村康司教授(医学部)の研究チームは、自然科学研究機構・生理学研究所における共同研究の結果、無脊椎動物“ホヤ”の赤ちゃんが、運動神経細胞が10個程度、筋細胞が36個しかない体で、魚とは異なる仕組みで魚やカエルのオタマジャクシと同じように上手に泳ぐことを発見しました。生物が地球上に誕生して以来の長い歴史の中で、人がたくさんの筋肉を協調させて動かせるように「進化」した成り立ちを考える上で重要な発見であり、米国科学アカデミー紀要(1月24日の週)に発表されます。 

ホヤという海にすむ無脊椎動物はオトナになると岩礁に固着して成長しますが、幼生期(赤ちゃんの時代)はオタマジャクシの形をしています。このホヤの赤ちゃん(体長1~2 mm)には筋肉の細胞が数えられるほど(36個)しかありませんが、今回研究チームは、数の少ない筋肉細胞を巧みに使って滑らかに強弱を付けて泳げることを、高速度カメラを使った研究で明らかにしました。また、より詳しく見てみると、脊椎動物であるサカナやオタマジャクシと同じように泳いでいるように見えるものの、泳ぐための筋肉を収縮させる仕組みは、全く異なっていることを突き止めました。具体的には、主に私たちヒトなどの哺乳類や、カエル、サカナなどの脊椎動物の筋肉は、神経細胞がさまざまなタイミングで指令をだして無数の筋肉細胞が異なった力を発揮するようにリズミカルに尾をふり泳ぐことができるようになっていますが、このホヤの赤ちゃんの筋肉は、一つ一つの筋肉細胞でカルシウムの量を調整し強弱を付けて収縮するという全く異なる仕組みを持つことを、世界で初めて解明しました。この発見は、筋肉を動かす仕組みが、古代の魚の祖先からヒトに到る過程で、少しずつ段階的に変化したことを示しており、人をはじめとする脊椎動物の筋肉を動かす仕組みとその進化の歴史を理解する上で重要と考えられます。

本研究成果のプレス発表は、大阪大学医学部と自然科学研究機構生理学研究所の共同記者発表です。

今回の発見

1.    無脊椎動物“ホヤ”の幼生も、運動神経細胞が10個程度、筋肉細胞が36個(片側には18個)しかない小さな体ながらも、脊椎動物“サカナ”とは異なる仕組みで、上手に泳ぐことを高速カメラで明らかにしました。
2.    ヒトなどの哺乳類や、カエル、サカナなどの脊椎動物の筋肉は、神経細胞がさまざまなタイミングで指令をだして無数の筋肉細胞が異なった力を発揮するようにリズミカルに尾をふり泳ぐことができるようになっていますが、このホヤの幼生の筋肉細胞は、一つ一つの筋肉細胞でカルシウムの量を調整し強弱を付けて収縮するという全く異なる仕組みを持っていました。

図1

ホヤの幼生は、数少ない筋肉で上手に“泳ぐ”

ほや図1.jpg

ホヤの幼生は、オタマジャクシのような形をしていますが、筋肉細胞が36個(片側18個)しかありません。この数少ない筋肉細胞が左右に協調して強弱をつけて運動することで上手に泳ぐことができます。これはサカナとは異なるメカニズムで、一つ一つの筋肉細胞がカルシウム量を調節し、それぞれの筋肉の収縮に強弱をつけているからということがわかりました。
 

図2

“泳ぎ”を生みだす筋肉を動かす仕組みの“進化”

ほや図2.jpg

脊椎動物であるサカナやカエルのオタマジャクシは、筋肉細胞がまとまって束になっており、それを神経が指揮してリズミカルに収縮するように調整することで、滑らかに泳いでいます。これに対して、ホヤの幼生は、数少ない筋肉細胞の一つ一つが、神経からの刺激の強さに応じてカルシウムの量を変化させ、微妙な強弱を作り出し、滑らかに泳ぐことができます。
 

この研究の社会的意義

「オーケストラ VS アンサンブル」 
筋肉を動かす基本的な仕組みも“進化”によって異なることが今回明らかになりました。

1.オーケストラ=脊椎動物(哺乳類や魚など)の“泳ぎ”

ほや図3.jpg脊椎動物であるサカナが泳ぐときは、神経細胞が指揮者となって、多くの筋肉細胞がまとまって決められたタイミングでリズミカルに左右に動き、泳ぐことができます。
 

2.アンサンブル=無脊椎動物“ホヤ”の幼生の“泳ぎ”(今回の発見)

ほやズ4.jpg数少ない筋肉細胞の一つ一つが、それぞれ強弱をつけてリズミカルに動き、泳ぐことができることが、今回の研究で明らかになりました。

論文情報

A Mechanism for Graded Motor Control Encoded in the Channel Properties of the Muscle ACh Receptor
Atsuo Nishino, Shoji A. Baba, Yasushi Okamura
米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)
1月24日の週に発表

お問い合わせ

○研究について
大阪大学大学院医学系研究科 統合生理学
岡村 康司 (オカムラ ヤスシ)
TEL 06-6879-3310, 06-6879-3311, FAX 06-6879-3319
E-mail:  yokamura@phys2.med.osaka-u.ac.jp

大阪大学大学院理学研究科生物科学専攻
西野 敦雄 (ニシノ アツオ)
TEL: 06-6850-6760。
E-mail: anishino@bio.sci.osaka-u.ac.jp

○広報に関すること
大阪大学医学系研究科総務課庶務係
菅野 智広 (スガノ トモヒロ)
Tel: 06-6879-3006 Fax: 06-6879-3347
E-mail: sugano-t@office.osaka-u.ac.jp

自然科学研究機構 生理学研究所 広報展開推進室 准教授
小泉 周 (コイズミ アマネ)
TEL 0564-55-7722、FAX 0564-55-7721
E-mail: pub-adm@nips.ac.jp