公開日 2011.02.25

パーキンソン病など:脳深部の神経活動の異常、患者で初めて記録
―脳外科的治療法である脳深部刺激療法(DBS)の精度向上へ活用―

カテゴリ:プレスリリース
 和歌山県立医科大学
生理学研究所・広報展開推進室
 

内容

パーキンソン病やジストニアといった筋肉の動きに異常を引き起こす病気では、大脳の奥深くにある大脳基底核と呼ばれる部分の神経活動に異常が生じることが知られています。この大脳基底核は、脳の表面にある大脳皮質と複雑な神経回路を作っており、これまで、ネズミなどの動物を用いた実験で、こうした大脳基底核と大脳皮質が作る神経回路の活動異常が、詳細に調べられてきました。しかし、より複雑な脳の構造を持つヒトで、実際にどうなっているのか、理解が進んでいませんでした。

今回、和歌山県立医科大学・脳神経外科の板倉徹教授、西林宏起助教と、自然科学研究機構・生理学研究所の南部篤教授および米国テネシー大学・解剖神経生物学の喜多均教授らが作る国際共同研究チームは、パーキンソン病患者やジストニア患者において大脳皮質に由来する大脳基底核の神経活動を記録することに世界で初めて成功。和歌山県立医大の倫理規定に基づく患者の同意のもと、患者に対する外科手術治療法の際に、大脳基底核から神経活動を記録し、大脳皮質の刺激に対する応答を調べました(図1)。これによれば、パーキンソン病では三相性の反応が見られ、ジストニアでは大脳皮質からの抑制性信号が強まっていることなどが観察されました(図2)。このような反応は、モデル動物の反応と一致しています。患者でこのような神経記録が記録されたことはこれまでなかったことであり、モデル動物での最新の研究成果が患者でも同様に見られることが世界で初めて確認されました。

研究チームの南部教授(生理学研究所)は、「これまではっきりしてなかったパーキンソン病やジストニアなどの患者の脳の神経信号の異常を世界ではじめて明らかにできた。本質的には、実際の患者でもこれまでの最新の研究成果と同じ異常が明らかになったことで、今後の治療方法の開発に活かすことができる」とその意義を強調しています。

本研究は文部科学省科学研究費補助金の補助を受けて行われました。

今回の発見

1.世界で初めて、パーキンソン病患者やジストニア患者から、大脳皮質に由来する大脳基底核の神経活動の異常を記録した。
2.外科的治療法である定位脳手術の際、大脳基底核から神経活動の記録を行い、とくに大脳皮質に由来する神経活動の異常を記録した。
3.パーキンソン病患者では三相性の反応が見られ、ジストニア患者では大脳皮質からの抑制性信号が強まっているなど、これまでのモデル動物における反応と同じような反応異常が記録できた。

図1

今回の研究の概要図

 

パーキンソン図1.jpg

パーキンソン病患者やジストニア患者に対する脳外科的治療法の一つとして、大脳基底核の一部に小さく手を加えたり電気刺激を加える脳深部刺激療法(DBS, Deep Brain Stimulation)がある。手術の際、狙いを決めるのに、神経活動の記録を行う。その際、大脳皮質を刺激し、大脳基底核の反応を記録することができた。
 

図2

パーキンソン病患者、ジストニア患者からの電気記録

パーキンソン図2.jpg

大脳皮質を刺激した際の大脳基底核からの神経活動記録(大脳皮質に由来する大脳基底核の神経活動)。パーキンソン病患者では、三相性の応答が見られ、ジストニア患者では大脳皮質からの抑制性信号が強まっていることなどが確認できた。

この研究の社会的意義

1) パーキンソン病患者やジストニア患者において大脳皮質に由来する大脳基底核の神経活動を初めて記録
 今回、これまで明らかとなっていなかった患者において、大脳皮質に由来する大脳基底核の神経活動を直接記録することに成功しました。これまでのモデル動物における研究成果と同じような知見が得られたことで、これまでに得られた研究成果を今後の患者の治療法開発に活かすことができます。

2) 脳外科的治療法である定位脳手術の精度向上
 脳深部刺激療法、定位脳手術は、脳深部の大脳基底核を狙って、その部位に電極を埋め刺激を加えたり、その部位に小さく手を加える外科治療法です。今回のように、大脳皮質を刺激し大脳基底核から神経活動を記録することによって、狙う部位を特定することができるなど、脳外科手術の際の精度向上に役立たせることができます。

論文情報

Cortically Evoked Responses of Human Pallidal Neurons Recorded During Stereotactic Neurosurgery
Hiroki Nishibayashi, Mitsuhiro Ogura, Koji Kakishita, Satoshi Tanaka,
Yoshihisa Tachibana, Atsushi Nambu, Hitoshi Kita, Toru Itakura
Movement Disorders (2011年2月10日電子版掲載)

お問い合わせ先

<研究について>
和歌山県立医科大学 脳神経外科
教授 板倉 徹(イタクラ トオル)
助教 西林 宏起 (ニシバヤシ ヒロキ)
Tel:  073-441-0609  Fax:  073-447-1771
email: hirokin@wakayama-med.ac.jp

自然科学研究機構 生理学研究所 
教授 南部 篤 (ナンブ アツシ)
Tel:0564-55-7771    FAX: 0564-55-7773 
email: nambu@nips.ac.jp

<広報に関すること>
和歌山県立医科大学
総務課副課長:宮西晴久
tel: 073-447-2300(内線5717)
e-mail: miyanisi@wakayama-med.ac.jp

自然科学研究機構 生理学研究所 広報展開推進室 准教授
小泉 周 (コイズミ アマネ)
TEL 0564-55-7722、FAX 0564-55-7721
pub-adm@nips.ac.jp