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脳の中の神経細胞は、電気信号を伝える電線の役割をはたしています。この電線が、さまざまなつなぎ目(シナプス)をもってつながることで、脳の様々な機能が生まれています。一つの神経細胞も、その突起上のたくさんのシナプスで信号を受け取り、その電気信号を統合して機能を生み出しています。今回、自然科学研究機構・生理学研究所の窪田芳之准教授らの研究チームは、この神経細胞の微細な突起構造の特徴を、最先端の電子顕微鏡技術を駆使して明らかにしました。神経細胞は突起の形状によって「遠い信号はより受け取りやすく、近くの信号はそれなりに」均一化されて受けとることができる仕組みを持っていることを見出しました。英国ネーチャー(Nature)誌の姉妹誌であるサイエンティフィック・レポート(Scientific Reports)誌に掲載されます(2011年9月13日電子版)。
研究チームが注目したのは、脳の大脳皮質にある4種類の神経細胞(大脳皮質の非錐体細胞)。神経細胞は樹状突起と呼ばれる突起で他の神経細胞から信号をうけとります。この樹状突起の正確な構造を最先端の電子顕微鏡技術を駆使して連続的に撮影し、その3D立体構造を正確にコンピューター上で再構築することに成功しました。これによれば、樹状突起の形状にはいくつかの普遍ルールがあり、遠くの信号を伝える樹状突起はより太く、より信号を伝えやすいように工夫されていることがわかりました。
窪田准教授は「今回の電子顕微鏡による立体再構築技術は他の神経細胞に応用することもできます。たとえば、統合失調症、自閉症、うつ病、老年性痴呆症等をはじめとする各種の脳変性疾患によって樹状突起の微細な形状がどのように変化するのか分かれば、その病態解明にも貢献する可能性が考えられます」と期待をよせています。
本研究は文部科学省・科学研究費補助金による支援をうけて行われました。また、本研究成果の一部はJST戦略的創造研究推進事業(CREST)の研究領域「脳神経回路の形成・動作原理の解明と制御技術の創出」(研究総括:小澤 瀞司 高崎健康福祉大学 健康福祉学部 教授)における研究課題「大脳領域間結合と局所回路網の統合的解析 」により得られました。
※なお、2011年11月5日の生理学研究所一般公開では、この最先端の電子顕微鏡技術で明らかにした樹状突起の微細構造の3D立体画像をお土産に差し上げます。
1.最先端の電子顕微鏡技術で連続的に神経細胞の微細な樹状突起構造を撮影し、3D立体画像構築に成功しました。
2.脳の大脳皮質の4種類の神経細胞(非錐体細胞)では、樹状突起の太さを決めるいくつかの普遍的なルールがあることを明らかにしました。
3.この樹状突起の太さのルールによって、「遠くの信号はより受け取りやすく、近くの信号はそれなりに」均一化されて受け取る仕組みがあることがわかりました。
4種類の神経細胞の形と最先端の電子顕微鏡技術による3D立体画像構築
脳の大脳皮質の4種類の神経細胞(非錐体神経細胞)の連続的な電子顕微鏡写真から、コンピューター上で正確に樹状突起の微細構造を3D立体画像として再構築することに成功しました。
※最先端の電子顕微鏡技術とは?
今回の実験では、生理研の誇る世界有数の連続切片・透過型電子顕微鏡(TEM)技術と、新型の集束イオンビーム - 走査型電子顕微鏡装置(FIB-SEMクロスビーム装置)(ドイツとの共同研究)を用いて実験を行いました。
樹状突起の微細構造(360度回転画像とステレオグラム)
1マイクロメートル(1mmの千分の一)よりも細かい解像度で3D立体構築することによって、微細な樹状突起の太さの違いなど、突起の形状の詳細を明らかにすることができました。下の図は、ステレオグラムになっています。左の絵を右目、右の絵を左目で見る交差法をつかうと、こちら側に飛び出して立体に見えます。
※今回発見した樹状突起の太さの「普遍ルール」
(a) 樹状突起の太さは、先端方向にある全ての樹状突起の長さの総和に比例する。「長ければ長いほど太い」
(b) 樹状突起の分岐部で、親樹状突起の断面積は2つの娘樹状突起の断面積の和になる。
「分岐すると約半分の太さに」
(c) 樹状突起の断面は正円ではなくていびつな楕円形である。
遠くても近くても、神経細胞が受け取る信号の大きさは均一化される
上述した「普遍ルール」によって、遠くの信号をうけとる樹状突起はより太くなっていました。これによって、「遠くの信号はより受け取りやすく、近くの信号はそれなりに」均一化されて受け取る仕組みがあり、神経細胞の細胞体ではほとんど同じ大きさの信号となることがわかりました。
※ここでいう“信号”とは電気信号です。樹状突起の太さが太いほど抵抗が低くなり、電気信号も伝わりやすくなります。
“遠くの信号は受け取りやすく、近くの信号はそれなりに“
遠くの信号をとらえる樹状突起は太くなっており、より信号を受け取りやすくなっていることがわかりました。
1.脳変性疾患による神経細胞の形態異常の解明にも活用
今回の電子顕微鏡による立体再構築技術は他の神経細胞に応用することもできます。たとえば、統合失調症、自閉症、うつ病、老年性痴呆症等をはじめとする各種の脳変性疾患によって樹状突起の微細な形状がどのように変化するのか分かれば、その病態解明にも貢献する可能性が考えられます。これらの疾病は、正常な信号の伝達ができないことが原因と考えられていますが、樹状突起の形態異常が影響を与えているかもしれません。将来的には、これらの疾病のモデル動物や死後の患者の神経細胞の形態を、本研究と同様に正確に測定解析する事で、これらの病気の本質解明に一つの灯明をともすかもしれません。
Conserved properties of dendritic trees in four cortical interneuron subtypes
Yoshiyuki Kubota, Fuyuki Karube, Masaki Nomura, Allan T. Gulledge, Atsushi Mochizuki, Andreas Schertel and Yasuo Kawaguchi
Scientific Reports, 2011年9月13日電子版
※Scientific Reportsは、本年新しく発行された英国Nature誌の姉妹誌で、玄人好みする非常に優れた論文を電子版のみで紹介するオンライン雑誌です。
<研究について>
自然然科学研究機構 生理学研究所
准教授 窪田 芳之 (クボタ ヨシユキ)
Tel: 0564-59-5282 FAX: 0564-59-5284
E-mail: yoshiy@nips.ac.jp
<広報に関すること>
自然科学研究機構 生理学研究所 広報展開推進室 准教授
小泉 周 (コイズミ アマネ)
TEL 0564-55-7722、FAX 0564-55-7721
pub-adm@nips.ac.jp