公開日 2012.09.20

マキシアニオンチャネルとパネキシンヘミチャネル:これらは独立した別個の分子として共に細胞外ATP放出の通路を与える

カテゴリ:研究報告
 細胞器官研究系・機能協関研究部門
 

概要

 ATPは細胞内エネルギー源としてのみならず、細胞外シグナルとしての役割も果たしている。細胞は種々の刺激やストレスを受けて細胞外へとATPを放出して、細胞膜外表面に露出した受容体を介して、その細胞自らを(オートクリン的に)刺激するか、あるいは周辺の細胞を(パラクリン的に)刺激してシグナル伝達する。この細胞からのATP放出は、ATPを含んだ細胞内小胞膜の細胞膜への融合(エキソサイトーシス)によって行われるか、あるいは細胞質内のATPを細胞膜のチャネル蛋白質のポアを透過させて行われる。非神経細胞で主として見られる後者に関与するATP放出性チャネルとしては、通常は2細胞間でギャップジャンクションを形成するコネキシン(Cx)が単一細胞膜上で形成するヘミチャネルや、パネキシン(Px)が形成するヘミチャネルや、巨大単一チャネルコンダクタンス(即ち大きなポア)を持つマキシアニオンチャネル(Maxi-Cl)が知られている。Maxi-Clの分子実体は未同定であるので、最近CxやPxがその候補として注目されていた。
 今回のIslam外国人研究員らの論文は、線維芽L929細胞(通称L細胞)において、次のような結果を世界で初めて報告しました。①細胞膨張したときに見られるATP放出には、エキソサイトーシスや本細胞に発現するCx43やPx2は関与せず、Maxi-ClとPx1の両方が独立した別個の分子として並列的に関与する。②放出されたATPは細胞が膨張後に元の大きさに戻るための容積調節(Regulatory Volume Decrease: RVD)に不可欠であり、この細胞においてこの役割を果たすのはPx1から放出されたATPではなく、Maxi-Clから放出されたATPの方である。即ち、RVDを実現する装置の近傍にあるのは、Px1ではなく、Maxi-Clであるものと考えられる(図参照)。③Maxi-ClはPx1、Px2、Cx43とは別個の分子である。

 本論文を掲載した米国生理学雑誌2012年11月1日号は、本論文成果を注目すべきものとして同号のEditorial Focus記事(下記)でトピックス紹介し、マキシアニオンチャネルの分子同定の重要性を指摘しています: Dubyak GR (2012) Function without form: An ongoing search for maxi-anion channel proteins. Am J Physiol Cell Physiol 303: C913-C915 (doi:10.1152/ajpcell.00285.2012)

論文情報

Islam MR, Uramoto H, Okada T, Sabirov RZ & Okada Y (2012) Maxi-anion channel and pannexin 1 hemichannel constitute separate pathways for swelling-induced ATP release in murine L929 fibrosarcoma cells. Am J Physiol Cell Physiol 303: C924-C935 (doi:10.1152/ajpcell.00459.2011)
 

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