公開日 2013.10.25

はじめて明かされたウイルス感染生活史の全容:位相差電子顕微鏡の金字塔

カテゴリ:プレスリリース
 生理学研究所・広報展開推進室
 

内容

 電子顕微鏡の一技術として、急速凍結法が近年開発され、氷に封じられた細胞やウイルスを生状態で観察できるようになった。ホルマリン漬けにしたり、重金属で染色したりする破壊的試料作成法を避ける画期的手法であるが、像のコントラストが弱く微小形態の特定が困難であった。この問題は生理研の永山教授らが開発した位相電子顕微鏡法により解決され、共同研究者のWah Chiu教授率いるベイラー医科大のグループにより、地球上炭酸ガス固定の主役シアノバクテリア中でのウイルスの立体構造形成の解明に応用された(図1)。感染初期にまずウイルスの外殻ができ、次にDNAゲノムがその中に封入され、最後に角や尾が出来る形作りの過程(図2)が明らかにされ、ウイルス感染の生活史モデルが提出された(図3)。


 無染色で透明な生きた細胞の微細観察を最初に可能としたのは、光学顕微鏡の位相差法で、オランダのFritz Zernikeにより発明され1953年のノーベル物理学賞に輝いた。同じ方法を電子顕微鏡に応用する試みは50年以上続けられてきたが、その成功は21世紀になりはじめて生理研永山教授のグループにより達せられた。鍵となったのは、位相差法の心臓部である薄い炭素膜でできた位相板の帯電防止法の確立だった。今回のウイルス感染生活史研究はこの位相差電子顕微鏡が医学生物学研究に真に役立つ強力な方法であることを実証する金字塔といえる。

永山教授は「今回の研究で、10年来地道に続けてきた位相差電子顕微鏡の開発研究が医学、生物学分野で正しく評価されることを期待している。」と話しています。

本研究は国際共同研究として行われました。参照:(https://www.bcm.edu/news/biochemistry-and-molecular-biology/tecnique-sharpens-view-of-phage-assembly)

今回の発見

1.シアノバクテリア内のウイルス感染生活史は地球上炭酸ガス固定の主役シアノバクテリアの生態系を明らかにする。
2.今回のウイルス感染生活史全容解明と同等のことがヒト細胞で可能となれば、ウイルス感染対策の前進が期待される。
3.位相差電子顕微鏡が医学生物学研究の最先端を切り拓く有力な方法であることが実証された。

図1 シアノバクテリアと感染したウイルス(バクテリオファージ)の立体像。金色の楕円構造がバクテリアの細胞壁。バクテリア内にちらばる赤紫色粒子がウイルス

nagayama-press20131025-1.jpg急速凍結法により氷に閉じ込められたシアノバクテリアについて、位相差電子顕微鏡より内部のウイルスを含めたシアノバクテリアの微細立体構造が明らかとなった。(ベイラー医科大のホームページより)

図2 感染過程で変わるのウイルスの立体構造(左側:位相差電子顕微鏡像、右側:ウイルス立体構造モデルー下から上に成人型)


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感染初期にシアノバクテリアに注入されたウイルスのゲノムDNAはその遺伝情報を使い、シアノバクテリアにウイルスの蛋白質外殻(キャプシド)を作らせる。そのキャプシドがDNAを内包し最後に角や尾を付加する感染生活史の全容が、各段階の立体構造解明により明らかになった。(Nature論文より)

図3 細胞内でのウイルス感染生活史モデル

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図2に示す各段階の立体構造がどのような順序でウイルス形成に関わるのか。その形成過程を示す生活史モデルが構築された。(Nature論文より)

この研究の社会的意義

 地球上炭酸ガス固定の主役シナノバクテリアのウイルス感染生活史解明を通じ、CO2問題の解決につながる期待および位相差電子顕微鏡法によりヒトウイルス感染の詳細が解明され、予防や治療につながる期待がある。

論文情報

Visualizing virus assembly intermediates inside marine cyanobacteria. 
Wei Dai, Caroline Fu, Desislava Raytcheva, John Flanagan, Htet A. Khant, Xiangan Liu, Ryan H. Rochat, Cameron Hasse-Pettingell, Jacqueline Piret, Steve J. Ludtke, Kuniaki Nagayama, Michael F. Schimid, Jonathan A. King & Wah Chiu.
Nature.   2013年10月31日号

お問い合わせ先

<研究について>
自然科学研究機構 生理学研究所 特別研究
特任教授 永山國昭 (ナガヤマクニアキ)
Tel: 0564-59-5212   FAX: 0564-59-5212 
email: nagayama@nips.ac.jp, knagayama100@gmail.com 

<広報に関すること>
自然科学研究機構 生理学研究所 広報展開推進室
TEL: 0564-55-7722、FAX: 0564-55-7721 
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