imaging geneticsの大規模データ解析
 
統合失調症、気分障害、発達障害などの精神疾患の病態メカニズムは依然不明であり、客観的な診断法にも乏しいため、MRI を中心とする脳画像の客観的指標としての可能性が期待される。しかし、これらの疾患と脳画像から得られる指標との関連は、小規模の研究例が散見されるものの結果が一致せず、大規模なサンプルによる研究が必要であった。これらの背景のもと、我々は、国内の精神科関連研究機関で構成されるCOCORO(認知ゲノム共同研究機構)に参加し、日本全国の研究機関で収集された計6000 例を越す健常者及び精神疾患患者のMRI 画像を対象に比較解析を実施している。全ての画像データを生理研に集積しデータベースを構築した後、自然科学研究機構計算科学研究センターの大規模計算機システムに脳画像解析系を実装し、並列化による高速化を図った。また、解析プラットフォームの統一による単一データ処理を可能にしたことで、海外先行研究より誤差の少ない高い解析精度を実現し、従来型のメタアナリシスをメガアナリシスに発展させた。
精神疾患における脳構造の共通性と差異を明らかにすることは、病態生理を理解する上で重要である。我々は、大脳白質の神経線維束に焦点をおき,拡散テンソルMRI 計測による各種拡散パラメーターと白質微細構造変化における疾患横断的研究を実施した。国内12 施設で収集された健常者,統合失調症(SZ),双極性障害(BP),自閉症スペクトラム障害(ASD),大うつ病性障害(MD)(各1506, 696, 211, 126, 398 名の計2937 名)の拡散強調MRI 画像を用いて,白質神経束微細構造を比較した。健常者との比較では,SZ,BP,ASD は共通して脳梁に,SZ とBP は脳弓や帯状回など大脳辺縁系に類似の変化がみられた。一方,MD では有意差が見られなかった。これらより,SZ とBP の病理学的特徴は類似しているが,MD の生物学的特徴は健常者に近いと思われた。これらの知見は,精神科疾患の病理学的特徴を明らかにするとともに,病態生理のさらなる理解を促すものである。これらの知見は、国際的な画像遺伝学研究コンソーシアム(ENIGMA: Enhancing Neuro Imaging Genetics Through Meta Analysis)で先行するメタアナリシス研究の結果を再現しており、近年の脳イメージング研究で注目される再現性問題の観点からも重要な知見となった(Koshiyama et al. 2020)。
一方、多施設脳画像研究では、施設間や装置間にみられる差異の考慮が重要である。我々、voxelbased morphometry を用いて統合失調症患者541 名と健常ボランティア1252 名を対象に、MRI スキャナの違いを考慮した上で年齢、性別、頭蓋内体積を考慮して鑑別特徴量を算出し、統合失調症と対照者の鑑別に使用できるシンプルなモデルを考案し、統合失調症と対照群を中程度に鑑別することに成功した(Nemoto et al. 2020)。また,ENIGMA で推進される複数のプロジェクトに画像解析を含め参加し、数万人規模のサンプルデータを対象とする脳画像のメタアナリシスを分担し、15q11.2BP1-BP2 の欠失および重複CNV と皮質および皮質下の脳形態および認知課題遂行能力との関連性(Van Der Meer et al. 2020)、ヒトの大脳皮質構造に影響を与える特定の遺伝子座、神経解剖学的多様性の多遺伝子構造が確認され、SNPs は脳の領域体積の分散の40%から54%を捉えていること等を明らかにした (Biton et al. 2020)。