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計算機事始め

3部  計算機と計測


いろいろな計測器に計算機が使われている。特に電気生理学の実験の場合、電流や電圧の変化を記録するために、pClamp(Axon Instruments)やPulse (HEKA)などの計算機測定パッケージが用いられる。これらの測定に用いられるシステムは、多くの場合アナログ量のデータをデジタル化し、計算機に取り込んでいる。また計算機による制御にはデジタルデータをアナログに変換して行う場合とデジタルデータのまま制御に用いる場合がある。

電気生理の計測装置の場合、特にアナログデジタル変換機(AD converter)とデジタルアナログ変換機(DA converter)が重要である。これらの機器は通常コンピューターに差し込むボードとして市販されている。


ADコンバーターは、アナログ量の電位をデジタル化しメモリーに貯えるとともに、デジタル化が完了したことを計算機に知らせる。計算機はADコンバーターのメモリーを読み出す。ADコンバーターはこの操作を繰り返す。デジタル化を行う間隔(sampling interval)は、ボードの性能によるが、 最小3 μs程度である。通常のデータ取得には、10 μs (すなわち100 kHz)から100 μs (すなわち10 kHz)程度である。

ADコンバーターの入力電圧は、-10 Vから+10 Vまでのものが標準的である。pClampに用いられているDigidata 1200ボードは -10.24 Vから+10.24 Vである。-5 Vから+5 Vまで、-1 Vから+1 Vまでのボードもある。またプログラムによって入力電圧の範囲を変えることができるボードもある。

ADコンバーターは通常12 bitのものが使用される。212= 4096であるから、Digidata 1200ボードの場合、ADコンバーターの1 unitは、5 mVに相当する。したがって微小な信号をデジタル化するには、ADコンバーターに入力する前に適当な増幅を行うことが必要である。

pClampの場合、デジタル化された12bitsは、2 byte-dataの最上位ビットから12bitsを使用し、下位の4 bitsはデジタルデータの保存に使用されている。HEKAのPulseの場合は、下位の12 bitsがデータとして使用されている。

2 byte-dataの場合、どちらのbyteを最上位とするかは、CPUの種類により異なる。これは4-byteの整数などの場合と同じ。
Intel系のCPUでは、低いメモリの位置にあるbyteが最上位バイトとなる。Power PCを含めモトローラ系のCPUは、高いメモリにあるbyteが最上位となる。このbyteの並びの違いは通常意識する必要はないが、MacIntoshのシステムで得たデータをWindowsのシステムで解析する場合、またはその逆の場合は、byteを並び替えなければならない。Igorではbinaryデータを読み込むときにSwap bytesというオプションがある。

ADコンバーターから得られたデータは、binaryデータとしてファイルに保存される。sampling intervalや増幅のgainなどの情報は、別に貯えなくてはならない。pClampのデータの場合、Axon binary formatといわれるファイルでは、ファイルの最初の2048 bytesが情報を保存するために用いられる。それ以降は電流あるいは電圧のbinary dataが並んでいる。

HEKA Pulseシステムの場合は、.pulファイル、.pgfファイル、.datファイルの3種類のファイルがセットとしてデータの保存に作られる。sampling intervalやcommand pulse電位の情報などは.pgfファイルに、1 sweepの大きさなどの情報は.pulファイルに保存される。電流・電位のbinary dataは.datファイルに保存される。
 
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