メルマガハッシン!<オシロロジー Mail Magazine Vol.5>を発行しました。

平成28年8月25日発行

「非線形発振現象を基盤としたヒューマンネイチャーの理解(オシロロジー)」  関連の皆様

大変お世話になっております。 オシロロジー広報・アウトリーチ委員会です。 早涼の候、皆様におかれましては変わらずご壮健のことと存じます。

メルマガVol.5です。 さっそくですが、今号の目次です。

--◆オシロロジー Mail Magazine Vol.5目次◆--

【1】計画班研究代表・公募班の先生方の自己紹介(★注目★)

   各班間のさらなる連携を目指して。

【2】2016年度事業実施報告

   2016年度に実施された事業について。

【3】論文紹介

   福田敦夫先生(浜松医科大学神経生理学講座、A01班)より論文publishのご報告。

【4】今後の行事予定

   2016年度に予定されている行事について。

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【1】計画班研究代表・公募班の先生方の自己紹介(★注目★) 各班間のさらなる交流・連携を目指して、前回から連載を開始しました。 引き続き毎号、計画班研究代表の先生1名と公募班の先生方2名の 紹介を予定しております。

今回は、 1. 津田一郎先生(北海道大学理学研究院数学部門、B03班代表) 2. 松井広先生(東北大学大学院医学系研究科、C04班) 3. 濱田雅先生(東京大学医学部附属病院神経内科、C04班) の3名の先生方をご紹介させて頂きます(原文通り)。

<< 1. 津田一郎先生(北海道大学理学研究院数学部門、B03班代表)>> 京大大学院時代に富田和久研究室に入り、非線形非平衡統計物理を専攻した。 当時は助教授に蔵本由紀氏、助手に相澤洋二氏がおられ、京大富田研究室は まぎれもなくこの分野の日本の中心であった。 ここで、カオス現象をはじめ非線形現象の不思議さに心を奪われる。 周りの環境が非常によくて、小さな発見でも"豚もおだてりゃ木に登る"式に褒められ、 うれしくなって研究に励んだ。

当時は現象の時系列データを見て力学系のカオスか確率過程によるランダム現象かを 瞬時に見分けることができるくらいカオス力学系に親しんだ。 ある先輩から"一級カオス鑑定士"の称号をいただく。カオスにひそむ不可能問題に 対する認識から、自然知能(脳と心)と人工知能の認識限界がどこにあるかに 興味が移り、脳研究を志す。

現JSTのERATOプロジェクトで東大の清水博研究室に居候し、 矢野雅文氏、山口陽子氏らと志を同じくする。 同時に、東大物理の金子邦彦氏、池上高志氏、統数研の伊庭幸人氏らと 複雑系研究を開始する。 私は脳を複雑系の典型例として数学的に研究する方向性を見出す。

脳研究との関連ではこれまでに、「脳の解釈学」、「複雑系のカオス的シナリオ」、 「カオス的脳観」、「カオス遍歴」、「海馬におけるエピソード記憶形成に関するカントル コーディング仮説」(その後ラット海馬のスライス実験のレベルでは実証された)、 「記憶のカオス遍歴仮説」、「カオスの情報理論」、「サルの推論実験」、 「ヘテロ複雑システムにおけるコミュニケーション理解のための神経機構の解明」 (新学術領域研究・領域代表、平成21年―25年、平成26年度取りまとめ研究)、 「拘束条件付き自己組織化原理」などを提案し実施してきた。

現在、本領域において実験グループとの共同研究を開始したところである。 データを数学的に解析することでネットワーク病の数理マーカーを見出し、 臨床研究、生理研究に役立てたいと考えている。

所属学会は、日本数学会、日本物理学会、日本応用数理学会、日本神経科学会、 日本神経回路学会、日本生物物理学会、AAAS(USA)、SIAM(USA)など。 日本学術会議連携会員(第3部会数理科学分科会数学委員会)。 趣味はクロスカントリースキー。1級。 日本スキー連盟公認・クロスカントリースキー部門指導員。

<< 2. 松井広先生(東北大学大学院医学系研究科、C04班)>> 生理学研究所から東北大学大学院医学系研究科に異動して3年が経ちました。 おかげさまで、ポスドク研究員と大学院生にも恵まれ、総勢7名の小さな 研究室ながら、充実した研究生活を送ることができています。 今後も、少数精鋭のラボ運営をしていきたいと思いますが、毎年1名くらいの 大学院生のコンスタントなフローが得られれば、先輩が後輩を教えながら、 技術の継承もでき、研究の発展も加速すると考えています。 皆様のところに意欲ある学生がいらっしゃいましたら、ぜひ、下記ホームページを ご紹介の上、お声掛けいただけると幸いです。

東北大学・松井広研究室 http://www.ims.med.tohoku.ac.jp/matsui/

さて、私は、本領域に応募するにあたり、オシロロジーを単純に解釈して、 脳波などで観察される神経細胞集団の周期的同期的発火と捉え、 その最も極端な例として、てんかん発作に注目しました。 これまでの研究や実験を通して、神経細胞やグリア細胞の活動を光で操作することで、 脳波に現れる発振状態をいかようにでも変化させることができると分かってきました。 今後は、この技術を活用して、てんかんの制御を試みます。 また、発振現象を変化させると、どのような影響が脳機能に及ぶか調べていきたいと思います。

私たちの研究室のコア技術は、急性脳スライス標本にパッチクランプ法を適用し、 二つの神経細胞間のシナプス伝達等を解析する方法です。 これに、光遺伝学技術を加えたり、in vivoでの脳波解析などを組みわせたりして、 神経やグリアなどの個々の細胞間の相互作用が、どのようにして、脳全体の機能に 波及していくのかを調べます。 究極の目標は、私たちの心の成り立ちをひも解くことです。脳はいかにして 心という機能を生むのか。この深遠な謎に、一緒に挑んでみませんか。

<< 3. 濱田雅先生(東京大学医学部附属病院神経内科、C04班)>> このたびオシロロジー公募班に加えていただきました、 東京大学医学部附属病院神経内科の濱田雅です。

私は2001年に東北大学を卒業しその後東大病院および関連病院で研修後、 当時はまだ神経内科講師でいらっしゃった、福島県立医科大学神経内科の 宇川義一教授が主催していた生理グループの門をたたきました。 大学院では経頭蓋磁気刺激などの非侵襲的脳刺激法を用いた脳神経細胞可塑性誘導に 関して日本学術振興会特別研究員として研究生活をおくりました。 2010年から3年間は、英国UCL神経学研究所のJohn Rothwell教授の元に 日本学術振興会海外特別研究員として留学し、磁気刺激について研究をしてきました。

磁気刺激は、コワい!危ない!脳を刺激するなんて!という印象がまだまだ強いのかも しれませんが、うまく使うとなかなかに味のある結果が得られるというのが私の実感です。 将来的には非侵襲的脳刺激法によるパーキンソン病などの神経疾患の治療応用の確立を 目標としていますが、それ以上に磁気刺激はいったい何を刺激しているのか? ということに興味があり、研究を進めていきたいと思っております。

どうぞよろしくお願いいたします。

津田一郎先生、松井広先生、濱田雅先生、誠にありがとうございました。

自己紹介は原稿を頂いた順番に、紹介させて頂いております。 既に原稿をお送り頂いておりますが、今回ご紹介させて頂けなかった先生方、 ご理解賜れましたら幸いです。

まだ原稿をお送り頂いていない計画班研究代表・公募班の先生方、 お待ちしておりますのでどうかよろしくお願いします。 (小林勝哉 31258a[at]kuhp.kyoto-u.ac.jp まで、お送り下さい。)

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【2】2016年度事業実施報告

2016年度に新たに実施された事業です。

□ 第39回日本神経科学学会サテライトシンポジウム 「大脳基底核の機能と疾患:基礎と臨床」 Basal Ganglia in Health and Disease

パシフィコ横浜での第39回日本神経科学学会のサテライトシンポジウムとして、 7月19日(火)に南部(A02班)と笹岡(公募班C04)が シンポジウム「大脳基底核の機能と疾患:基礎と臨床」を開催しました。

Chairpersons 笹岡 俊邦 / Toshikuni Sasaoka ( 新潟大学脳研究所生命科学リソース研究センター 動物資源開発研究分野 / Niigata University Brain Research Institute ) 南部 篤 / Atsushi Nambu (生理学研究所 生体システム研究部門 / Division of System Neurophysiology, National Institute for Physiological Sciences)

1. Updating dopamine reward signals Wolfram Schultz (Department of Physiology, Development & Neuroscience, University of Cambridge)

2. Cortico-basal ganglia networks and cognitive control of action Eiji Hoshi (Frontal Lobe Function Project, Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science)

3. Hyperdopaminergic activity and abnormal auditory processing in a cytokine-induced schizophrenia model Hiroyuki Nawa (Brain Research Institute, Niigata University)

4. Basal Ganglia pathophysiology and the etiopathogenesis of Parkinson's disease Jose A. Obeso (Centro Integral de Neurociencias AC (CINAC), Fundacio?n HM-Hospitales de Madrid , and CEU- San Pablo University)

5. Primate models for elucidating the circuit pathology of nigrostriatal dopamine system. Ken-ichi Inoue (Systems Neuroscience Section, Primate Research Institute, Kyoto University)

6. How do the basal ganglia control thalamocortical activity? Satomi Chiken1, 2, Atsushi Nambu1, 2 (1. Division of System Neurophysiology, National Institute for Physiological Sciences, 2. Department of Physiological Sciences, SOKENDAI)

7. Regulation of the protein levels of tyrosine hydroxylase by tetrahydrobiopterin in the brain. Hiroshi Ichinose (Tokyo Institute of Technology, School of Life Science and Technology)

8. Teleost fish models of Parkinson's disease Hideaki Matsui (Department of Neuroscience of Disease, Center for Transdisciplinary Research)

9. Normal and pathological activity patterns of the subthalamo-pallidal network model during cortical slow wave activity Katsunori Kitano (Ritsumeikan University)

10. The motor cortical plasticity and dopamine: healthy and patients with PD Yoshikazu Ugawa (Department of Neurology, Fukushima Medical University)

(2016年7月19日、パシフィコ横浜)

□ 第39回日本神経科学学会シンポジウム 「ドーパミン機能の新たな理解:正常と疾患」 New understanding of dopaminergic functions in health and disease

パシフィコ横浜で行われた第39回日本神経科学学会において、 7月21日(木)に笹岡(公募班C04)と南部(A02班)が シンポジウム「ドーパミン機能の新たな理解:正常と疾患」を開催しました。

Chairpersons 笹岡 俊邦 / Toshikuni Sasaoka ( 新潟大学脳研究所生命科学リソース研究センター 動物資源開発研究分野 / Niigata University Brain Research Institute ) 南部 篤 / Atsushi Nambu (生理学研究所 生体システム研究部門 / Division of System Neurophysiology, National Institute for Physiological Sciences)

1. Transient attention and definitive reward coding by the two phasic dopamine response components Wolfram Schultz (University of Cambridge)

2. 認知的運動制御における大脳基底核と前頭葉の特異的な役割 Distinct roles of the basal ganglia and the frontal cortex in cognitive control of action 星 英司 / Eiji Hoshi (東京都医学総合研 / Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science)

3. Vulnerability of dopaminergic cells in Parkinson's disease Jose A. Obeso (Centro Integral de Neurociencias AC (CINAC), Fundacion HM-Hospitales de Madrid and Ciberned)

4. モノアミンニューロンの機能と神経・精神疾患の病態 The monoamine neurons - its physiological role and related neuropsychological diseases 一瀬 宏 / Hiroshi Ichinose (東京工大院 生命理工 / Grad Sch Biosci & Biotech, Tokyo Inst Tech)

5. 大脳基底核内情報伝達と運動制御におけるドーパミン神経伝達の機能 Dopaminergic transmission maintains dynamic activity changes in the basal ganglia to appropriately control movements 知見 聡美 / Satomi Chiken:1 南部 篤 / Atsushi Nambu:1,2  (1:生理研・生体システム / Div System Neurophysiol, National Inst for Physiological Sci, Okazaki, Japan  2:総研大・生理科学 / Dept Physiol Sci, SOKENDAI)

(2016年7月21日、パシフィコ横浜)

皆様、新たに関連事業がございましたら、 事務局までご連絡頂けますようよろしくお願いします。

また、共同研究のための打ち合わせ、セミナー、会議等開催に際しては、 オシロロジーHP内会員ページの「書類(申請・報告)」 にある書類をご提出下さい。

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【3】論文紹介 福田敦夫先生(浜松医科大学神経生理学講座、A01班)より論文publishの ご報告を頂きました。

A novel GABA-mediated corticotropin-releasing hormone secretory mechanism in the median eminence. Keisuke Kakizawa, Miho Watanabe, Hiroki Mutoh, Yuta Okawa, Miho Yamashita, Yuchio Yanagawa, Keiichi Itoi, Takafumi Suda, Yutaka Oki, Atsuo Fukuda. Science Advances. Vol. 2, no. 8, e1501723.

さて、今回は本日パブリッシュ(online)された、我々の論文 (Science Advances 2, e1501723, 2016)の紹介をいたします。 グルココルチコイドの放出機構における新たな経路の発見に関するものです。

副腎皮質から分泌されるグルココルチコイドの分泌は脳下垂体から分泌される 副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)によって促進され、そのACTHの分泌は さらに上位の視床下部室傍核の副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)に よって促進されるという、いわゆる視床下部―下垂体―副腎系で調節されます。

今回、我々は視床下部弓状核から、CRHの放出部位である正中隆起へ投射する 抑制性神経伝達物質のγアミノ酪酸(GABA)作動性線維が、意外にも興奮性に作用して CRH分泌を促進していることを証明しました。

視床下部の弓状核は、摂食行動制御の中心であり、摂食行動を促進する ニューロペプチドY (NPY)/アグーチ関連ペプチド(AgRP)を産生する神経細胞と、 摂食行動を抑制するα-メラノサイト刺激ホルモン(α-MSH)を産生する プロオピオメラノコルチン(POMC)神経細胞が存在します。

このうち、GABA作動性神経はNPY/AgRP神経細胞で、脂肪細胞が分泌するレプチンや インスリンにより抑制され、胃から分泌されるグレリンや血糖低下により興奮されるなど、 個体の栄養状態をモニターしており、この細胞の室傍核への投射が、 摂食行動に重要であることが知られています。

さらに、糖質コルチコイド受容体ももっているので、今回新たに見つかった経路が、 視床下部-下垂体-副腎皮質系の未知のフィードバックループである可能性もあります。 この経路は、精神的・肉体的ストレスよりも、むしろ食欲や栄養状態に関連した ストレスホルモン放出に重要ではないかと思われます。

その意味から、生活習慣病や神経性食思不全症などとの関連を 今後積極的に研究していく必要があると思います。

Science Advancesの以下のリンクからダウンロードできます。 http://advances.sciencemag.org/content/2/8/e1501723.full

ただ問題はオシレーションとの関係です。 これは、視床下部―下垂体―副腎系が関わるうつ病とかのストレス病や食思不全などの ネットワーク病における、従来型のネガティブフィードバックに基づくモデルに新たな フィードバックループが加わることで一石を投じることができる、とか言えるといいのですが。 今後ともどうぞよろしくお願いいいたします。

福田敦夫先生、誠にありがとうございました。 大学広報向けにまとめられた原稿も頂戴しておりまして、 こちらはオシロロジーHPにメルマガをアップする際にリンクさせて頂く予定です。

論文紹介に関しまして、 今後論文数が多くなりましたら、メルマガでは簡単な紹介にとどめ、 オシロロジーHPのニュース欄等で詳しい情報を掲載させて頂くなど、検討中です。

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【4】今後の行事予定 今年度(2016年度)に予定されている行事です。

■ 包括脳全体集会 (2016年12月19-21日、学術情報センター(一橋講堂、東京))

□「脳と心のメカニズム」ワークショップ (2017年1月11-13日、ルスツリゾート(北海道))

皆様奮ってご参加の程、よろしくお願い致します。

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最後まで読んで頂いた皆様、誠にありがとうございました。 今後も月1回のメルマガで情報を発信させて頂ければと思います。 次号は2016/09/25 発行予定です。

次号も、計画班研究代表・公募班の先生方の自己紹介を 連載させて頂きたいと考えております。

皆様引き続きよろしくお願い致します。

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文部科学省新学術領域研究(H27-31) 「非線形発振現象を基盤としたヒューマンネイチャーの理解」 Mail Magazine Vol.5 2016/08/25 発行(毎月25日発行) 発行・編集人:小林勝哉(広報・アウトリーチ委員会)・小野健太郎(総括班事務局) 京都大学医学研究科附属脳機能総合研究センター内 〒606-8507 京都市左京区聖護院川原町54 *本誌に関するご意見・お問い合わせは oscillology[at]nips.ac.jp までお寄せ下さい。

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