メルマガハッシン!<オシロロジー Mail Magazine Vol.20>を発行しました。

「非線形発振現象を基盤としたヒューマンネイチャーの理解(オシロロジー)」

関連の皆様

大変お世話になっております。

オシロロジー広報・アウトリーチ委員会です。

メルマガVol.20です。

さっそくですが、今号の目次です。

今年度から、新企画として、班員の方々にご執筆いただいた原稿の連載を開始しております。

今号の原稿ご担当は、総括班の石橋遼(いしばし りょう) 先生です。

石橋先生、お忙しいなか原稿ご執筆まことにありがとうございました。

==◆オシロロジー Mail Magazine Vol.20目次◆==

【1】石橋遼先生・海外出張報告(★注目★)

【2】2016-2017年度事業実施報告 2016-2017年度に実施された事業について。

【3】その他の行事予定 今後予定されている行事について。

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【1】石橋遼 先生・海外出張報告(★注目★)

領域班:総括班

渡航目的:共同研究計画の推進

渡航期間:2015/8/9-31

滞在先:エジンバラ大学哲学・心理学・言語科学研究科

(University of Edinburgh, School of Philosophy, Psychology and Language Sciences)

国:イギリス

活動報告:

2015年の8月にエジンバラ大学のRobert Logie教授の研究室に滞在し、同教授らの開発した

心理学的実験手法であるEdinburgh Virtual Errand Test(EVET)を用いた共同研究計画について、

同教授らと詳細な議論を行いました。

EVETは3Dの仮想空間上で、新聞などのオブジェクトを別の場所に届ける、

建物内の特定の部屋で人に会うといった日常的に行うような用事(errands)を実行させる課題です。

このような未来の予定に関する情報を保持し、実行する機能は「展望的記憶」の研究として

主に実験心理学の領域で研究が行われてきました。

一方、神経心理学領域では脳梗塞等による前頭葉損傷によって

日常的な課題の遂行ができなくなることが知られています。

特に前頭前野BA10の吻側領域が日常的課題の情報保持や遂行に重大な役割を果たすのではないかと

考えられています(Gilbert et al., 2006)。

しかし血管障害や外傷等による脳損傷では損傷領域は広範にわたり、

かつ損傷周辺領域の機能の自然回復・患者さん自信の生活におけるストラテジーの変更などの

生理的・行動的な変化も多く生じていることから、

特定の損傷領域と行動の因果関係の推定は容易ではありません。

さらに日常的な課題を実験的に調べるために自然な生活環境(居住する病棟や商業施設など)が必要となることから、

その研究は例えば実在するショッピングモールの建物を使用するような大掛かりなものとなり(Shallice & Burgess, 1991)、

実験室内で実施可能な他の課題を用いる記憶研究に比べて研究進展が限られるという側面がありました。

EVETでは3D仮想空間を使用することで、現実に近い自然な日常的場面を再現しつつ、

簡易にかつ統制された条件で日常的課題の心理的実験を行うことができます。

滞在中にはこの課題を構築しているプログラム群の把握と、それを利用した日本語版EVETの作成を第一の目標に据え、

Logie教授および共同研究者と議論を重ねました。帰国後課題を完成させ、現在データを取得して分析しています。

将来的にこのEVETと大脳皮質の非侵襲皮質刺激法を組み合わせて用い、

BA10吻側と日常的課題遂行の間の関連を明らかにできると考えています。

特に経頭蓋直流電流刺激(tDCS)によってBA10吻側とその周辺領域の脳活動を一時的に変調させることで

日常的課題の想起が容易になる促進的効果が認められる可能性があります。非侵襲皮質刺激の記憶機能への影響は、

tDCSによるワーキングメモリの向上(Minamoto et al., 2014)や0.75Hzの振動性のtDCSをADHD児に適用して

学習情報の長期記憶への定着が促進されるなどの報告(Prehn-Kristensen et al., 2014)が上がっています。

これらは統制のきいた実験室環境で皮質刺激の効果を確認したものですが、

より日常的場面に近い状況・課題内容で同様の効果を確かめることが、

将来的に同手法の臨床的・実践的応用につなげるために重要なステップであると見込んでいます。

滞在中には受け入れ先のRobert Logie教授および

そのご子息でプログラマーでもあるMatthew Logieさんに大変お世話になりました。

Logie教授は人間を対象としたワーキングメモリ研究で世界的に著名ですが、

温厚かつ誠実な人柄で国際共同研究の経験も豊富であり、

展望的記憶領域の知識に欠ける私の質問にも毎回丁寧に答えてくださいました。

共同研究者であるMatthewさんにもプログラム面で多大な協力をいただき、

三週間という短い滞在期間であったにもかかわらず、EVET日本語版の完成に早期にこぎつけることができました。

今後もこの共同研究関係を維持・発展させ、非侵襲皮質刺激の実生活応用につなげられるような

基礎的研究を積み重ねていきたいと意気込んでおります。

引用文献

Gilbert, S.J., Spengler, S., Simons, J.S., Steele, J.D., Lawrie, S.M., Frith, C.D., & Burgess, P.W. 2006

Functional specialization within rostral prefrontal cortex (Area 10): A meta-analysis.

Journal of Cognitive Neuroscience, 18, 932-948.

Minamoto, T., Azuma, M., Yaoi, K., Ashizuka, A., Mima, T., Osaka, M., Fukuyama, N., & Osaka, N. 2014

The anodal tDCS over the left posterior parietal cortex enhances attention toward a focus word in sentence.

Frontiers in Human Neuroscience, 8, Article 992.

Prehn-Kristensen, A., Munz, M., Göder, R., Wihelm, I., Korr, K., Vahl, W., Wiesner, C.D., & Baving, L. 2014

Transcranial oscillatory direct current stimulation during sleep improves declarative memory consolidation in children

with attention-deficit/hyperativity disorder to a level comparable to healthy controls.

Brain Stimulation, 7, 793-799.

Shallice T., & Burgess, P.W. 1991

Deficits in strategy application following frontal damage in man.

Brain, 114, 727-741.

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【2】2017年度事業実施報告

2017年度に新たに実施された事業です。

□A03班共同研究

2017年10月13-14日に、A03班(松本・山尾)がProf.Marco Catani(King's College London)と

名古屋国際会議場において共同研究の打合せを行いました。

1次運動野、感覚野間の機能ネットワークを解明するには、皮質だけでなく白質線維路の同定も必要である。

難治性てんかん患者で慢性硬膜下電極を留置した患者を対象に、

術前後のMRIで可視化した白質線維と硬膜下電極から施行した単発電気刺激を直接脳皮質から記録した発振現象および

術前後の安静時脳機能画像での発振現象を組み合わせ、1次運動野、感覚野間の機能の同定について討議を行いました。

※Prof.Marco Catani・・・2017年7月17~28日 国際共同研究加速基金(国際活動支援班)にて招聘

□A05-C04班共同研究

2017年4月25-26日に、A05班(木津川)とC04班(笹岡・藤澤・小田)が

新潟大学脳研究所動物資源開発研究分野において共同研究会議を開催しました。

C04班(笹岡)とA05班(木津川)が共同で実施している、

ドーパミン受容体の遺伝子改変マウスを用いた運動調節と報酬学習/忌避学習と

記憶の行動解析の研究に関する討論を行い、

併せて研究用遺伝子改変マウス ( D1Rノックダウンマウス ) の受け渡しを行ないました。

2017年9月28-29日に、A05班(木津川)とC04班(笹岡・藤澤・小田)が

新潟大学脳研究所動物資源開発研究分野において共同研究会議を開催しました。

C04班(笹岡、藤澤、小田)、A05(木津川)が共同で実施している、

ドーパミン受容体の遺伝子改変マウスを用いた運動調節と学習記憶の行動解析の研究に関して、

木津川らが新たに開発した報酬学習に関する行動解析機器を用いた解析に関する打ち合わせを行いました。

□C04班共同研究

2017年5月31日に、C04班(笹岡・藤澤・小田・齊藤)と

一瀬宏教授 (東京工業大学大学院生命理工学研究科分子生命科学専攻)が、

新潟大学脳研究所動物資源開発研究分野において共同研究を行いました。

C04班(笹岡・藤澤・小田・齊藤)と一瀬宏教授が共同で実施している、

ドーパミン受容体の遺伝子改変マウス ( D1Rノックダウンマウス, D1Rノックアウトマウス、D2Rノックアウトマウス) を用いた

ドーパミンと代謝物の生化学的解析に関する研究に関する討論と実験打合せを行いました。

□A02-C04班共同研究

2017年7月1-2日に開催された、第32回日本大脳基底核研究会において、

A02班(南部・知見・佐野)とC04班(笹岡)が共同研究会議を開催した。

A02班(南部・知見・佐野)、C04班(笹岡)、一瀬宏教授(東京工業大学大学院生命理工学研究科分子生命科学専攻)、

小山内実准教授(東北大学大学院医学系研究科 医用画像工学分野)らが共同で実施している、

ドーパミン受容体の遺伝子改変マウスを用いた、ドーパミン及び代謝物の解析に関する研究、

及び全脳レベルの神経活動解析の実験成果と今後の研究計画に関する討論を行いました。

併せて、第32回日本大脳基底核研究会に参加の研究者と研究交流を行いました。

皆様、共同研究のための打ち合わせ、セミナー、会議等開催に際しては、

オシロロジーHP内会員ページの「書類(申請・報告)」

にある書類をご提出下さい。

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【3】その他の行事予定 今後予定されている行事について。

12月7日(木):オシロロジー共催「Challenges in understanding Dynamics of Emergent Intelligence」

12月20日(水)〜 22日(金):次世代脳 冬のシンポジウム

12月23日(土・祝):2017年度第2回領域会議

以下、詳細です。

□ オシロロジー共催「Challenges in understanding Dynamics of Emergent Intelligence」

12月7日(木)にオシロロジー共催「Challenges in understanding Dynamics of Emergent Intelligence」が、

理化学研究所脳科学総合研究センター東棟1階セミナー室で開催されます。

オシロロジーメンバーも多数参加致しますので、ご興味のある方はぜひご参加ください。

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研究会名

創発知能の理解ダイナミクスの課題

日時:12月7日(木)13:00~15:45

場所:BSI東棟1階セミナー室

スケジュール

12:30-12:50

佐藤直行(公立はこだて未来大:公募B04研究代表者)

Computational modeling of human episodic memory in the hippocampus


12:50-13:10
坂本一寛(東北医科薬科大・医:計画C01連携研究者)

Looking back on synchronization and oscillation


13:10-13:30
北城圭一(理研BSI:計画B02研究分担者)

Unraveling nonlinear human brain dynamics by perturbational approaches

13:30-13:50
川崎真弘(筑波大院・知能機能システム)

Modulation of human EEG synchronization by brain stimulation and
psychiatric disorders


13:50-14:10
水原啓暁(京大院情報学:公募A05研究代表者)

Neural oscillations: a unified theoretical framework for understanding "
communication"


14:10-14:20
coffee break


14:20-14:40
多賀厳太郎(東大院・教育学)

Beyond self-organization - early human development of brain and behavior


14:40-15:00
中谷裕教(理研BSI)

Quick thought process in board game expert : a possible role of the
cerebellum in cognitive function


15:00-15:20
我妻広明(九工大院・生命体工学:公募B04研究代表者)

Brain-inspired robotics and nonlinear dynamics to think about embodiment

and global entrainment

15:20-15:45 山口陽子(理研BSI:総括班)

What is dynamics of emergent intelligence? - Problems solved and unsolved

研究会ウェブサイト:http://www.dei.brain.riken.jp/?p=731&lang=en

□ 次世代脳 冬のシンポジウム

12月20日(水)- 22日(金)一橋大学一橋講堂

(〒101-8439 東京都千代田区一ツ橋 2-1-2)

12月20日の午前には、オシロロジーを含む4領域合同若手シンポジウムが開催予定です。

ご都合のつく方はぜひご参加ください。

□ 2017年度第2回領域会議

12月23日(土・祝)学術総合センター

(〒101-8439 東京都千代田区一ツ橋 2-1-2)

計画班を中心とした成果発表を行う予定です。班員の方々は参加必須ということでよろしくお願い申し上げます。

開催概要を会員ページ内に掲載しましたので、領域関係者の方々はログインして確認してください。

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最後まで読んで頂いた皆様、誠にありがとうございました。

今後も月1回のメルマガで情報を発信させて頂ければと思います。

次号は2017/12/25 発行予定です。

皆様、本年も引き続きよろしくお願い致します。

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文部科学省新学術領域研究(H27-31)

「非線形発振現象を基盤としたヒューマンネイチャーの理解」

Mail Magazine Vol.19 2017/11/25 発行(毎月25日発行)

発行・編集人:武山博文(広報・アウトリーチ委員会)

京都大学医学研究科附属脳機能総合研究センター内

〒606-8507 京都市左京区聖護院川原町54

*本誌に関するご意見・お問い合わせは oscillology[at]nips.ac.jp までお寄せ下さい。

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