運動学習中の視床軸索の神経活動に関する研究成果がNeuron誌に掲載されました(A05班 田中康裕)

何度も繰り返し訓練することで効率よい運動スキルが身につくということは、日常的にもよく経験されます。運動学習中には脳活動にも様々な変化が起きているため、領域間の情報のやり取りを調べることが重要です。

今回、東京大学 大学院医学系研究科・田中康代特任助教、田中康裕助教(A05班)、松崎政紀教授らの研究チームは自然科学研究機構 生理学研究所・川口泰雄教授らとの共同研究により、2光子顕微鏡によるカルシウムイメージング法を用いてマウス大脳皮質運動野に投射する視床皮質軸索のシナプス前部(ブトン)の神経活動を計測しました。マウスが新しい道具を使って運動課題を学習する際の計測を通して、視床から運動野へ送られるシグナルが2種類あり、互いに異なる時間変化(ダイナミクス)を示すことを明らかにしました。これら2種類のシグナルは「運動課題の成功率」あるいは「運動の安定性」と、それぞれ関連していました。シグナルは大脳皮質のどの部位に入力するかによってダイナミクスが異なり、それぞれが大脳基底核あるいは小脳に強い影響を受けますが、その一方でどちらのシグナルを作り出すにも大脳基底核と小脳の両方の活動が必要であることも見いだされました。

本研究は脳全体の理解ひいては運動失調・運動障害疾患の病態理解にも不可欠な、脳領域間ネットワークの視点から運動学習や運動制御のメカニズムの一端を明らかにしました。視床を介して運ばれた、ダイナミクスの異なる2種類の情報が運動野でどのように統合されるかは今後の大きな課題です。

Thalamocortical Axonal Activity in Motor Cortex Exhibits Layer-specific Dynamics during Motor Learning
Yasuyo H. Tanaka#, Yasuhiro R. Tanaka#, Masashi Kondo, Shin-Ichiro Terada, Yasuo Kawaguchi,
Masanori Matsuzaki. (#equally contributed)
Neuron誌
DOI: https://doi.org/10.1016/j.neuron.2018.08.016
2018年8月30日電子版


所属機関のプレスリリース:
http://www.m.u-tokyo.ac.jp/news/admin/release_20180831.pdf