2005年プレス発表一覧表  ホーム

2005年度 プレス発表

第三領域「神経回路機能」


     
氏  名
所  属
雑 誌 名
研究タイトル
掲載新聞
狩野方伸
大阪大学大学院医学系研究科 Proc Natl Acad Sci U S A 2005 Dec 27;102(52):19180-5 AMPA型グルタミン酸受容体を介するシナプス後細胞活動によるシナプス前機能の維持 朝日新聞(2005/12/22大阪版)
成熟マウスの小脳において、一旦出来上がったシナプスの機能を維持するために は、そのシナプスを使い続ける必要があることを示した。フグ毒のテトロドトキシン またはAMPA型グルタミン酸受容体拮抗剤のNBQXを、成熟マウスの小脳に持続的に数日 間投与し、神経活動または興奮性シナプス後活動を遮断すると、シナプス機能の低下 とシナプス前線維の形態的退縮がおこった。シナプス機能の低下は、シナプス前終末 からのグルタミン酸が放出されにくくなったためであった。NBQXは伝達物質放出には 影響しないので、この結果は、神経伝達物質の受け手のニューロンから、送り手のニ ューロンに逆向きに何らかの情報が送られていることを示唆する。この「逆向き」の 情報は、シナプスを使い続けていれば絶えず送られていて、シナプスの機能と形態を 維持していると考えられる。脳では、このような仕組みで、一旦獲得した神経回路を 維持するのだろうと推測される。

森 憲作
東京大学大学院医学系研究科
Neuron Volume 46, Issue 2, Pages 285-296(2005) 大脳嗅皮質でのにおい感覚のゲーテイングの発見
朝日新聞(2005/4/21)
毎日新聞(2005/5/4)
目覚めているときには「におい」を感じるが、眠っているときには感じない。このような感覚のゲーテイングは、視覚や聴覚などほとんどの感覚系では視床が担当するが、視床を経由しない嗅覚神経系では大脳嗅皮質自身がおこなうことを、私達は発見した。すなわち、嗅皮質神経回路は覚醒状態では、鼻に吸い込んだにおいによって活性化する嗅球の「におい地図」を読んでいるが、徐波睡眠中や深麻酔下ではこの「におい地図」を無視し、異なった情報処理モードに切りかわる。 この研究は、これまでまったく未知であった「におい感覚のゲーテイング」の神経メカ二ズムの解析に新たな道を開くものである。

野口光一 兵庫医科大学 J. Clin. Invest 2005 September 1; 115(9): 2393-2401 一次知覚ニューロンにおいて炎症及び神経障害後に増加するTRPA1の冷刺激に対する痛覚過敏に対する役割 読売新聞(2005/8/19夕刊)
近年、次々と発見されている温度感受性イオンチャネルはTRPスーパーファミリーの一部として整理されており、その中でTRPM8、TRPA1は冷刺激受容体として知られている。本論文では、complete Freund's adjuvantを用いた慢性炎症モデルや神経障害モデルにおいて、一次知覚ニューロンにおけるTRPA1の発現変化の慢性痛病態における生理的意義を検討した。末梢組織の炎症モデルやニューロパチックペインモデルの非損傷ニューロンにおいて、脊髄後根神経節でのTRPA1の発現は明らかな増加を示した。両モデルにおいてTRPA1のアンチセンスを髄腔内に投与すると, 冷刺激に対する痛覚過敏が有意に抑制された。また、こうした変化は内因性NGFの増加を介したp38MAPKにより制御されていることを明らかにした。これらのことより, 一次知覚ニューロンにおいて発現が増加するTRPA1がこれら慢性痛モデルにおける冷刺激に対する痛覚過敏に関与していると考えられた。