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2009年度プレス発表

(新聞社・掲載日順)

領域 氏名 所属 新聞社・掲載日 発表タイトル 発表論文
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尾藤 晴彦new
竹本−木村 さやか
田川 義晃(班友)*
東京大学大学院医学系研究科

*京都大学・大学院理学研究科
The Journal of Neuroscience 誌2010年2月24日号 (30巻8号2807-2809頁)におけるJournal Club記事(Michigan 州立大学の大学院生・ポスドク有志による紹介記事)

Control of cortical axon elongation by a GABA-driven Ca2+/calmodulin-dependent protein kinase cascade

GABA依存的CaMKカスケードによる軸索伸長制御機構

The Journal of Neuroscience 29 (43)、13720- 13729(2009)

Ageta-Ishihara N, Takemoto-Kimura S, Nonaka M, Adachi-Morishima A, Suzuki K, Kamijo S, Fujii H, Mano T, Blaeser F, Chatila TA, Mizuno H, Hirano T, Tagawa Y, Okuno H, Bito H

 軸索の発達障害、機能不全は記憶・学習機能の破綻や多くの神経・精神疾患をもたらす。しかし、軸索発達のメカニズムはいまだ深いなぞに包まれている。今回私たちは、生前・生後の脳発達期の大脳皮質の軸索伸展に重要な役割を果たす酵素を同定した。これまで大脳発達初期には、本来抑制性伝達物質であるGABAが、幼弱神経細胞に対して興奮性作用を有し、神経回路形成を促進することが知られていた。我々は、このGABA作用を神経細胞内で実行するメカニズムが、カルシウム/カルモデュリン依存性タンパク質リン酸化酵素のカスケードの働きによるものであることを明らかにし、特に、本機構が大脳皮質の軸索発達を特異的に制御することを明らかにした。私たちの発見したメカニズムは、脳発達過程における突起の長さを決定する生理的な軸索伸展機構として寄与する以外にも、神経再生や神経損傷からの回復過程にも働いている可能性があると考えている。
 
new1 駒井章治

奈良先端科学技術大学院大学・バイオサイエンス研究科

Neurology Today(7 January 2010 - Volume 10 - Issue 1 - p 14-15)

移植神経幹細胞の機能的分化誘導―ニューロリハビリテーションに向けた試み― 2009年北米神経科学学会大会発表内容に対する雑誌社の独自取材

荒井光徳、駒井章治

様々な原因で損傷した脳組織を正確に回復させることを目的とした研究発表です。in vitroの研究に於いて興奮性、抑制性神経細胞への化誘導因子としての機能を持つとされるNeurogenin 2やMash-1を、事前に調整しておいた神経幹細胞に対してウイルスベクターを用いて強制発現させます。Neurogenin 2の導入によりdoublecortin陽性の未熟な神経細胞数の増加が見られ、Mash-1の導入ではNeuN陽性の成熟した神経細胞、特に抑制性の神経細胞数の増加を誘導することが明らかとなりました。この際グリア細胞数に変化は見られなかったことから、これら神経転写因子により個体の脳内においても神経細胞への分化が促進されたことを示すと考えられます。
今後はこれら因子を事前に発現させておいた神経幹細胞を大脳皮質一次体性感覚野に移植し、rich environmentへの暴露や様々な感覚刺激、感覚刺激奪取を付加することによって移植神経細胞の生着率や分化過程にいかなる影響を与えるのか生理行動学的に解析したいと考えています。こういった方法を利用することで、損傷した脳機能を神経幹細胞を移植することによって正確に回復させることができるようになるかもしれません。

 
new2 柿木 隆介 生理学研究所 日本経済新聞、Yahoo Newsその他地方紙多数(2009年9月1日) 宇宙では聴覚領域鋭敏に 無重力状態に脳が適応 Experimental Brain Research
193(2): 255-265(2009).

Miki K, Watanabe S, Takeshima Y, Teruya M, Honda Y & Kakigi R

 宇宙生活においては、どこが上でどこが下だか分からないような絶えず無重力で回転している状態となっている。こうした無重力状態においてクルクルと回転しつづけているような状況では様々な感覚に影響が出ることが考えられる。国際宇宙ステーション「きぼう」船内のバーチャルリアリティー画像を作成し、こうしたクルクルと回転しているような視覚刺激が、他の感覚、とくに音に対する反応である聴覚にどのような影響を与えているか、その脳の反応を脳磁図(MEG)を用いて調べた。すると、クルクルと回転しているような画像を見続けている場合には、脳の中の音への反応(聴覚)が過敏になることが明らかになった。
無重力状態のような上か下かが分からなくなるようなクルクル回転する視覚情報を受け続けると、脳の中の音を感じる聴覚に対して、直接または平衡感覚を介した間接的な影響が出るものと考えられます。無重力状態では視覚によって上下を判断することができなくなり、脳の中で視覚に頼れなくなり、聴覚のような他の感覚が過敏になるのかもしれない。

 
new2 柿木 隆介 生理学研究所 読売新聞、毎日新聞、日本経済新聞、中日新聞、その他地方紙多数(2009年9月25, 26日) 「かゆみ」感じる脳部位特定 Journal of Neurophysiology
102(5):2657-2666(2009).

Mochizuki H, Inui K, Tanabe HC, Akiyama LF, Otsuru N, Yamashiro K, Sasaki A, Nakata H, Sadato N & Kakigi R
 電気的に“痒み”を引き起こす新しい方法(痒み刺激装置)を開発した。この刺激装置を用いて“痒み”を引き起こしたときの脳の中の反応を機能的MRIと脳磁図を用いて調べたところ、“痒み”の脳内認知は、“痛み”と共通部分もあるが、“痒み”独自の機構が存在することを初めて明らかにした。具体的には、“痒み”の認知では特に頭頂葉内側部楔前部の重要性が明らかになった。この部分は体がうけた感覚情報をもとに情報処理する脳の部位だが“痛み”認知の時には活動は見られない。
  “痒み”は“痛み”の軽いものという誤った説も根強く残っていたが、今回の発見で、“痒み”は“痛み”とは別の脳内メカニズムをもっていることが明らかになった。今後“痒み”に特定した脳内反応を、どの感覚神経によって、いかにして引き起こさないようにするかなどの研究を進めることができるので、“痒み”だけを抑制する薬剤の開発などにつなげることができるかもしれない。
 
new3 小田 洋一 名古屋大学・大学院理学研究科 日刊工業新聞(2009年5月28日) Functional Role of a Specialized Class of Spinal Commissural Inhibitory Neurons during Fast Escapes in Zebrafish The Journal of Neuroscience
29(21)
6780-6793(2009)


Chie Satou,1,2 Yukiko Kimura,1 Tsunehiko Kohashi,3 Kazuki Horikawa,4 Hiroyuki Takeda,4 Yoichi Oda,3 and Shin-ichi Higashijima1,2

1National Institutes of Natural Sciences, Okazaki Institute for Integrative Bioscience, National Institute for Physiological Sciences
2Department of Physiological Sciences, Graduate University for Advanced Studies ,
3Division of Biological Science, Graduate School of Science, Nagoya University,
4Department of Biological Sciences, Graduate School of Science, University of Tokyo,

中日新聞(2009年5月28日)
毎日新聞(2009年5月28日)
日経新聞(2009年5月28日)
読売新聞(2009年5月28日)
nature japan jobs (2009年8月)
 外敵や危険から逃れる逃避運動は、動物の生存に必須の運動である。硬骨魚の後脳に1対ある巨大ニューロン、マウスナー(M)細胞は、一方が活動すると反対側への逃避運動(図2A)を駆動する。本研究では、M細胞が活動したとき脊髄で行われる情報処理に注目した。
ゼブラフィッシュの脊髄にあるコロ細胞は、M細胞によって活動し、反対側の脊髄回路を強力に抑圧する交差性の抑制性介在ニューロンである(図1)。コロ細胞の役割を調べるため、全てのコロ細胞が緑色蛍光タンパク(GFP)を持つトランスジェニックゼブラフィッシュを用いて、コロ細胞をレーザー照射で破壊して、逃避運動に及ぼす影響を解析した。両側のコロ細胞を破壊した稚魚に振動刺激を与えると、正常な逃避運動に加えて、しばしば両側の胴筋が一斉に収縮し、尾が硬直して曲がらない異常な逃避運動が見られた(図2)。振動刺激は時折両方のM細胞をほぼ同時に活動させることがあるが、反対側の脊髄回路の活動を抑えるコロがないために、運動異常が起こったのである。この結果は、運動を決定する仕組みが、脳だけでなく脊髄にも備わっていて、精度を上げていることを示している。すなわちサカナの逃避運動は、通常は片方のM細胞の活動によって駆動されるが、たとえ両方のM細胞が活動しても、コロ細胞によってわずかに(〜100マイクロ秒)先に活動したM細胞の出力を優先して逃げることができると結論された。
 
new
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金子 武嗣

宮川 剛
京都大学大学院医学研究科

藤田保健衛生大学総合医科学研究所
朝日新聞(2009年12月28日朝刊) 大脳新皮質に新しい神経前駆細胞を発見 Nature Neuroscience
Online publication
2009 (2010年2月号に掲載予定)

Koji Ohira1,5, Takahiro Furuta2, Hiroyuki Hioki2, Kouichi C Nakamura2,5, Eriko Kuramoto2, Yasuyo Tanaka2, Nobuo Funatsu, Keiko Shimizu3, Takao Oishi3, Motoharu Hayashi3, Tsuyoshi Miyakawa1,5, Takeshi Kaneko1,5, Shun Nakamura4,5

1藤田保健衛生大学総合医科学研究所システム医科学、2京都大学大学院医学研究科高次脳形態学教室、3京都大学霊長類研究所、4東京農工大学工学府生体分子構造学、5CREST
毎日新聞(2009年12月28日朝刊)
日本経済新聞(2009年12月28日朝刊)
中日新聞(2009年12月28日朝刊)
時事通信(2009年12月28日配信)
 これまでに、記憶の形成に重要な海馬や側脳室の脳室下帯では、大人になっても神経細胞が作られることが明らかになっています。一方、認識・思考・意識などといった高度な脳機能を生みだす大脳新皮質において、大人になっても神経新生が生じるかどうかは、100年以上前から議論が続く大きな問題でした。
 本研究グループは今回、細胞分裂している細胞に蛍光たんぱく質を作らせることにより、新しい神経細胞を作ることができる神経前駆細胞がラットの大脳新皮質の表層に存在することを発見しました。さらに脳に虚血(脳虚血)を起こすと、この細胞は、てんかんや過剰な神経活動を抑えることのできる抑制性神経細胞を盛んに産生することも分かりました。「大脳新皮質の第1層にある神経前駆細胞」という英語の頭文字を連ねて「L1-INP細胞」と名付けました。
 今後、虚血によらずとも、薬剤などの投与により、これらのL1-INP細胞の増殖や新しく産生された神経細胞の生存を促進させることで、てんかんや 認知機能の低下を防ぐ新しい治療法の確立につながる可能性があります。また、統合失調症などの精神疾患では大脳新皮質の抑制性神経細胞が減少する中間表現型が知られていますが、抑制性神経細胞を増殖・維持させることにより、精神疾患の治療にも結びつく可能性を持っています。
 
new4 上村 匡 京都大学生命科学研究科

京都新聞(平成2009年12月26日夕刊)

神経突起の切断を防ぐ遺伝子を発見

Development 136, 3757-3766(2009)[表紙に掲載]

Asako Tsubouchi, Taiichi Tsuyama, Makio Fujioka, Haruyasu Kohda, Keiko Okamoto-Furuta, Toshiro Aigaki, and Tadashi Uemura

木の枝のように複雑に伸びる神経細胞(ニューロン)の「樹状突起」の切断を防いでいる遺伝子を発見した。神経細胞は、樹状突起で信号を受け取って情報を処理している。突起が十分に発達しないと正確に情報を受け取れないため、さまざまな障害が生じる。preli遺伝子が失われたニューロンは、樹状突起が根元からちぎれたり、加齢とともに縮んでしまうことを見つけた。preli遺伝子が作るタンパク質は、細胞内でエネルギーとして使われるATPを作るミトコンドリアに分布しており、preli 遺伝子がないとATPを作る酵素の働きが低下した。ATPが足りなくなることで細胞内の物質輸送が滞り、突起がもろくなって、ちぎれたりする原因になるらしい。ミトコンドリアの異常は、パーキンソン病などの神経変性疾患とのかかわりが指摘されている。preli遺伝子は人にもあり、疾患と関係している可能性がある。

 
new4 榎本 和生 国立遺伝学研究所・神経形態研究室 静岡新聞紙面(2009年10月30日朝刊) 感覚ニューロンの受容領域を規定する新たな分子メカニズムの解明 EMBO Journal 28,3879-3892(2009).


Koike-Kumagai, M., Yasunaga, K., Morikawa, R., Kanamori, T. and Emoto, K.
日経BTJ(2009年10月30日オンライン版)
EMBO Journal “Have you seen…?”「Dendritic tiling through TOR signalling」28: 3783-3784

ニューロンは、軸索と樹状突起という機能的・構造的に異なる2つの神経突起を使って、神経情報の受け渡しを行ないます。樹状突起は主として他のニューロンや感覚器からの神経シグナルの入力を受け、軸索は他のニューロンの樹状突起への出力を行います。ニューロンが正しいネットワークを形成し、適切な神経シグナルの入力を受ける為には、各ニューロンの受容領域(入力部分)となる樹状突起を適切なサイズに作り上げる事が重要だと考えられますが、その制御メカニズムは不明でした。今回、私達は、ショウジョウバエ神経系を用いた研究から、TOR(Target of Rapamycin)というリン酸化酵素が、異なる複合体(TORC1とTORC2)を巧みに使い分ける事により、樹状突起の「伸長・分岐(アクセル)」と「停止(ブレーキ)」の協調的な制御を行なうことを発見しました。

 
4 古川 貴久 (財)大阪バイオサイエンス研究所 日本経済新聞(2009年12月1日・13版・朝刊・社会面 目の明暗識別仕組みを解明

Proc Natl Acad Sci USA
Epub ahead of print(2009).

Koike C, Obara T, Uriu Y, Numata T, Sanuki R, MiyataK, Koyasu T, Ueno S, Funabiki K, Tani A, Ueda H, Kondo M, Mori Y,Tachibana M, Furukawa T.

視覚情報は明暗の情報に応じて、網膜の双極細胞において初めてONとOFFという経路に分かれることが明らかとなっており、視覚情報処理においてはこの明暗の情報処理(ON, OFF)が決定的に重要であることから、双極細胞のイオンチャンネルの実体が注目されてきました。この明暗を区別するON/OFF応答は双極細胞に発現しているイオンチャネルの性質に依存していることが知られていましたが、応答の大部分を占めるON型応答を司るイオンチャネルが何であるかは明らかとなっていませんでした。
私たちは網膜に特異的に発現している遺伝子をスクリーニングし、そのひとつであるTRPM1に注目しました。私たちはTRPM1が双極細胞に特異的に発現していることを見いだし、双極細胞の未知の視覚伝達チャネルを制御すると考えられてきたグルタミン酸受容体のひとつmGluR6と共局在することを明らかにしました。TRPM1の発現を欠損する遺伝子改変マウスを作製したところ、網膜の発生・分化は正常であるが、視覚情報伝達機能に異常があることが明らかとなりました。詳細な解析を行った結果、TRPM1欠損マウスにおいては視細胞は正常に機能しているものの、双極細胞、中でもON型双極細胞の機能のみが特異的に欠損していることを明らかとなりました(OFF型は正常)。
さらに培養細胞を用いた強制発現系により、TRPM1がON型双極細胞の未知の視覚伝達チャネルが持つと予想されていた、非選択性の陽イオンチャネルという性質をもち、mGluR6シグナル経路により制御を受けることを明らかとしました。

 
5 三浦 正幸 東京大学大学院薬学系研究科 日刊工業新聞(2009年10月14日) カスパーゼ阻害タンパク質の時空間的な代謝による神経細胞運命の制御 Journal of Cell Biology 187,219-321 (2009).


古藤日子、倉永英里奈、三浦正幸
日経産業新聞(2009年10月16日)
科学新聞(2009年10月23日)
JCB 187巻2号表紙 (from the Cover)
システインプロテアーゼであるカスパーゼが細胞死の実行のみならず、細胞骨格の制御等の非細胞死機能を発揮するための調節機構として、カスパーゼ抑制因子であるIAPタンパク質の分解、及び安定化が経時的に厳密に制御されることが重要であることを明らかにした。この研究は、ショウジョウバエ末梢外感覚器形成の全過程を、新たに作製した蛍光プローブを用いた生体メージングにより明らかにしたもので、細胞死シグナル動態と機能を、生体において単一細胞レベルで解明した初めての報告である。生体イメージングによって明らかとなったもう一つの驚きは、細胞死抑制に必須と考えられてきたDIAP1が感覚器形成過程において消失することであり、この結果は、カスパーゼ活性化制御が多段階的に行われることを示唆している。終分化した神経細胞ではカスパーゼ活性化因子Apaf-1の発現が低下しており、様々なストレスによってDIAP1の代謝や分解が影響されるが、そのような状況下においても神経細胞は安定した生存を維持する仕組みを獲得していることが明らかになった。
 
3 坂野 仁 東京大学大学院理学系研究科 日経産業新聞(2009年7月10日P11) 神経地図がつくられるメカニズムの解明 - 神経地図は軸索同士の相互作用によってつくられる - Science.31;325(5940):585-560.(2009).

Imai T, Yamazaki T, Kobayakawa R, Kobayakawa K, Abe T, Suzuki M, Sakano H.
産経新聞朝刊(2009年8月3日 朝刊)
Science・preview(2009年7月31日)
Nature Reviews Neuroscience・Research Highlight(2009年9月)
Science Signaling・EDITORS' CHOICE(2009年8月4日)
脊椎動物の脳では、感覚情報はしばしば「神経地図」として二次元的に展開される。スペリーの化学親和性仮説以来、神経地図形成の際には、軸索は投射先の軸索ガイダンス分子の絶対量を読み取ることで軸索の投射位置を決めていると考えられてきた。しかしながら、マウス嗅覚系を用いた本研究により、軸索ガイダンス分子は軸索間でも作用しており、その結果、軸索ガイダンス受容体の相対的な発現量に応じて軸索投射位置が決まることが明らかになった。
 

2

入來 篤史 理化学研究所 象徴概念発達研究チーム 日経産業新聞(2009年10月6日)* *道具使う訓練で脳の体積増加 理研などサルで実験
*2猿、道具の訓練で脳膨張 − 理研など MRI使い発見

米国科学アカデミー紀要電子版 (2009)

M. M. Quallo, C. J. Price, K. Ueno, T. Asamizuya, K. Cheng, R. N. Lemon, and A. Iriki

日刊工業新聞(2009年10月16日21面)*2

* 理化学研究所の入來篤史チームリーダーらと英ロンドン大学の共同研究チームは、道具を使う訓練を繰り返すと、脳の一部の体積が増加することを、サルを使った実験で確かめた。道具を使うときに働く事が知られている領域が大きくなっていた。訓練で脳が大きくなることが実証されたのは初めてという。
3歳程度のニホンザル3匹に、くま手のような道具を使って遠くのえさを取る訓練を2週間にわたって実施した。訓練中やその前後などに特殊な磁気共鳴画像装置(MRI)を使って脳の大きさを調べたところ、道具を使う時に働く大脳皮質の領域である「頭頂間溝部皮質」と「上側頭頂溝部皮質」「第二体性感覚野」の体積がそれぞれ訓練後には膨張していた。
人間では音楽家など特殊な訓練を積んだ人では、そうでない人と比べて脳の部位が微妙に大きくなることが知られていた。ただ、実際に訓練の前後で脳の体積が変化することを示した例はなく、今回の共同研究チームが初めてという。

*2理化学研究所と英ロンドン大学は猿に道具を使う訓練をさせることで、脳が膨張することを世界で初めて発見した。4テラスの磁場を持つ高解像度の磁気共鳴断層撮影装置(MRI)とロンドン大が独自に開発した脳の画像解析技術により可能になった。ヒトの知性が進化したメカニズムの解明が期待できる。詳細は米科学アカデミー紀要の電子版に掲載された。
猿をいすに座らせ、シートベルトの様なもので固定。長さ30cm程度の熊手でテーブルに置いた餌をとらせる訓練を2週間行うと、サルは熊手で餌が取れるようになった。訓練前後と訓練中の脳をMRIで撮像し、「VBM法」という画像解析技術を使い検討した。訓練した猿の大脳皮質のうち、こめかみの付近の頭頂間溝部皮質などのMRI信号強度が訓練前に比べ、訓練後に最大で17%増えた。
併せて、訓練により小脳と脳のほかの部分を繋ぐ神経線維の束が太くなることも確認した。

 
3 五十嵐 道弘 新潟大学医歯学系分子細胞機能学 新潟日報(2009年9月29日12版日刊26面(社会面)) 成長円錐の機能的分子マーカー群の同定

*「胎児の脳発達に必須の遺伝子群:新潟大が特定」

PNAS (Proc Natl Acad Sci USA)
106(40): 17211-17216(2009).

野住素広、五十嵐道弘(他9名)

 

日経産業新聞(2009年10月27日朝刊15面)*

PNAS 106巻40号表紙 (from the Cover)

 脳の神経回路形成の基本的枠組みは遺伝子のプログラムに従って、発生の際に自動的に出来上がる。ここで必須の役割を果たすのが、成長円錐と呼ばれる、発達期の神経細胞の先端に形成される運動性に富んだ構造である。成長円錐の機能は古くから非常に注目されていたが、どのような遺伝子がその機能を支配・調節しているのか、十分にはわからなかった。
  今回、われわれはプロテオミクスに基づいて、成長円錐に存在する蛋白質を約1,000種類同定し、その中で定量的免疫染色イメージングで特に成長円錐に強く濃縮され(選択的に局在し)、網羅的RNAiによってその機能が神経成長に必須である分子群を17種類同定することに成功した。これらの多くは、これまで神経成長との関連性がほとんど着目されていない分子であり、われわれの結果は方法論の革新性に基づく新しい発見であることは論を俟たない。成長円錐の機能を支配する遺伝子群を一括して明らかにした今回の研究は、脳の発達を支配する分子群の働きの解明につながることが期待される。

 
4
平林 祐介

東京大学分子細胞生物学研究所

毎日新聞(9月10日夕刊10面) 大脳ニューロンが生後に作られなくなる仕組みを解明 ― 再生医療へ道 Neuron
63, 5, 600 - 613(2009)

平林祐介、鈴木菜央、壷井將史、遠藤高帆、豊田哲郎、信賀順、古関明彦、Miguel Vidal,後藤由季子
共同通信(9月10日配信)
日本経済新聞(9月13日朝刊34面)
朝日新聞(9月15日朝刊23面)
日経産業新聞(9月17日朝刊12面)
Cell139, 1, 7 Leading edge
大脳皮質は哺乳類の高度な生命機能を司る器官で、脳内ではニューロンにより複雑なネットワークが作られています。この複雑なネットワークが正確に構成される為には、ネットワークの素子となるニューロンの数が厳密に制御されていると考えられます。哺乳類の大脳皮質のニューロンは主に胎児期に作られ、生後になるとほとんど追加されません。今回、大脳の神経幹細胞において、ポリコーム分子群というタンパク質がニューロン産生能力を生後に抑制する原因であることを世界で初めて見いだしました。この発見は、幹細胞が色々な細胞に分化出来る能力を持つ仕組みの解明や、再生医療におけるニューロンの効率的な産生を可能にする成果だと期待されます。
 
5
(1)
宮川 剛 藤田保健衛生大学 読売新聞(2009年9月7日) 「滑脳症」改善成功

Nature Medicine
15 (10): 1202-7(2009).

Yamada M, Yoshida Y, Mori D, Takitoh T, Kengaku M, Umeshima H, Takao K, Miyakawa T, Sato M, Sorimachi H, Wynshaw-Boris A, Hirotsune S.

大阪市立大学、京都大学
藤田保健衛生大学、福井大学など

脳表面のしわがほとんど見られず、てんかんや精神遅滞を起こす疾患「滑脳症(かつのうしょう)」の症状を改善することにマウスの実験で成功した。 滑脳症は、脳などの中枢神経が形成される際に、「LIS1」という遺伝子の異常によって必要なたんぱく質が働かず、神経細胞が機能すべき場所へ移動できないことで起こる。当研究グループはLIS1が「カルパイン」という酵素で分解されていることを発見した。遺伝子操作でLIS1を減らしたマウスに、カルパインの働きを阻害する薬を与えると、LIS1の分解が抑えられて神経細胞の働きがほぼ回復し、脳を詳しく調べると、滑脳症の症状が改善されたことが確認された。

 
4 影山 龍一郎 京都大学ウイルス研究所

朝日新聞(8月15日夕刊 8面)

振動遺伝子Hes1が胚性幹細胞の多様な分化応答に寄与

Genes & Development
23.16.1870-1875(2009).

小林妙子、水野浩彰、今吉格、古澤力、白髭克彦、影山龍一郎

 

京都新聞(8月15日夕刊 8面)

毎日新聞(8月15日夕刊 7面)

読売新聞(8月15日夕刊 2面)

日本経済新聞(8月16日 34面)

 胚性幹(ES)細胞の分化の方向やタイミングは個々の細胞でばらついている。この不均一な分化様式がどのようなメカニズムで制御されているのかは、全く分かっていなかった。我々は、マウスES細胞における抑制型転写因子Hes1の機能を解析し、Hes1の発現レベルが細胞内で振動していること、振動が細胞間で同調していないため発現が不均一に見えることを示した。また、転写因子Hes1が制御する下流遺伝子を同定し、それらの遺伝子発現もHes1の制御下で変動していることを見いだした。さらに、Hes1の発現が低い細胞はより神経系に分化しやすく、Hes1の発現が高い細胞はより中胚葉系に分化しやすい性質を持つことがわかった。一方、Hes1ノックアウトES細胞は、より均一に神経系に分化した。以上の結果から、転写因子Hes1の遺伝子発現の振動は、自律的に、不均一な細胞集団を作り出すメカニズムの一つであることが明らかになった。

 
3 狩野 方伸 東京大学大学院医学研究系研究科 日経産業新聞(2009年7月17日朝刊)

Translocation of a ‘‘Winner’’ Climbing Fiber to the Purkinje Cell Dendrite and Subsequent Elimination of ‘‘Losers’’ from the Soma in Developing Cerebellum.

発達期の小脳プルキンエ細胞におけるシナプス刈り込み:一本の“勝ち組”登上線維の樹状突起への選択的移行と“負け組”の細胞体からの除去

Neuron Vol. 63・No. 16・pp106-118(2009).


Kouichi Hashimoto, Ryoichi Ichikawa, Kazuo Kitamura, Masahiko Watanabe, Masanobu Kano

Department of Neurophysiology, Graduate school of Medicine, University of Tokyo
朝日新聞(2009年7月24日全国版朝刊)
読売新聞(2009年7月27日大阪地域版朝刊)

誕生直後の動物の小脳では、複数の登上線維がプルキンエ細胞の細胞体を支配しているが、成熟すると、1本の登上線維がプルキンエ細胞の近位樹状突起を支配するようになる。この事実は、生後発達の過程で登上線維の投射位置が細胞体から樹状突起に移行することを示している。本研究では、電気生理学と形態学を組み合わせ、登上線維の樹状突起への移行が生後発達のどの時期にどのようにして起こるのかを調べた。誕生直後にはプルキンエ細胞を支配する複数の登上線維はほぼ同じ強さを持っているが、生後7日までに、このうち1本の登上線維のみが選択的に強化された。この時期には、全ての登上線維はプルキンエ細胞の細胞体上に投射していた。生後9日以降になると、選択的に強化された1本の登上線維のみが樹状突起に移行を開始した。それ以外の登上線維は細胞体近傍に残存し、生後15日までに除去されることが分かった。この結果は、複数の登上線維間の競合はプルキンエ細胞の細胞体上で起こり、競合の結果選ばれた登上線維のみが樹状突起に移行することを示している。

 
4
深田 正紀

自然科学研究機構 生理学研究所
生体膜研究部門

日経済産業新聞第9705号日刊1(2009年7月14日1面)
科学新聞(2009年7月24日1面)
日刊工業新聞(2009年7月30日22面)
Faculty of 1000 Biology(2009年9月14日Must Read(4.9)として配信)
The Journal of Cell BiologyのComment (186(1):7-9, 2009)に取り上げられた
パルミトイル化酵素群によるシナプス伝達の制御機構 Mobile DHHC palmitoylating enzyme mediates activity-sensitive synaptic targeting of PSD-95 The Journal of Cell Biology
186・1・147-160(2009)

Noritake J, Fukata Y, Iwanaga T, Hosomi N, Tsutsumi R, Matsuda N, Tani H, Iwanari H, Mochizuki Y, Kodama T, Matsuura Y, Bredt DS, Hamakubo T, Fukata M.
 神経細胞は自身の活動(発火)が低下すると、シナプス伝達に関わるイオンチャネル(AMPA受容体)のシナプスにおける数を増やそうとする恒常性を示す。本研究ではこのシナプスの恒常性維持機構にAMPA受容体制御蛋白質PSD-95にパルミチン酸を付加させる「パルミトイル化脂質修飾酵素」が関わっていることを見出した。また、23種類のパルミトイル化酵素群が外界刺激の下流で分子種により異なる制御をうけることをはじめて明らかにした。23種類のパルミトイル化酵素群は遺伝学的に精神発達遅滞や統合失調症などと関連していることから、この知見は、シナプス伝達に異常がみられる難治性神経疾患の病態解明や治療薬の開発にも貢献できるものと考えられる。
 
5
長谷川成人

東京都精神医学総合研究所

読売新聞(2009年7月12日朝刊2面)
朝日新聞(2009年5月2日夕刊)
「認知症」「ALS」の原因抑える物質発見 1. Hum Mol Genet 18: 3353-3364(2009)
2. FEBS Lett 583: 2419-24(2009)

1. Nonaka T, Kametani1 F, Arai T, Akiyama H, Hasegawa M,
2. Yamashita M, Nonaka T, Arai T, Kametani F, Buchman VL, Ninkina N, Bachurin SO, Akiyama H, Goedert M, Hasegawa M
筋肉が動かなくなる難病である筋萎縮性側索硬化症(ALS)や若年性認知症の一種である前頭側頭葉変性症の患者を発症した患者の脳や脊髄には、TDP-43と呼ばれるタンパク質が異常を起こして蓄積していることがわかっており、これが細胞の死滅や病気発症の原因になると考えられている。当研究チームは、培養細胞に異常なTDP-43を作り出す遺伝子を組み込み、患者の細胞でおこっていることを再現することに成功した。この細胞を使って、様々な薬の効果を確かめたところ、2008年にアルツハイマー病に対する第2相試験で有効性が報告された2種類の化合物が異常TDP-43の産生を減少させることが観察された。また2剤を併用するとその効果はより強く検出され、異常TDP-43の産生を約80%減少させた。この2つの薬剤は患者の細胞内の異常タンパク質の産生を減らすことで、ALSや認知症の進行を抑える可能性がある。
 
2 田中 啓治

独立行政法人理化学研究所

脳科学総合研究センター
時事通信(2009年7月3日) 高度な脳機能、部分毎に解明 - 全体像把握へ第一歩

Science
Vol.325・52-58(2009)


Mark J,Buckley, Farshad A.Mansouri, Hassan Hosa, Majid Mahboubi, Phillip G.F.Browning, Sze C.Kwok, Adam Phillips, Keiji Tanaka

NIKKEI NET(2009年7月3日)
日刊工業新聞(2009年7月3日夕刊22面)
夕刊フジ(2009年7月6日22面)
科学新聞(2009年7月10日1面)

 前頭連合野は大脳皮質の中でも霊長類で著しく発達した部分であり、行動の高次制御において重要な役割を果たす脳部位である。私達は、前頭連合野内の領域の間の機能の違いを明らかにするために、脳損傷患者の医学臨床現場でよく用いられるウィスコンシンカード分類テストと呼ばれる臨床心理テストを単純化した行動課題を開発し、サルに訓練した。そして、前頭連合野の5個の領域を選択的に破壊し、課題遂行への影響を調べた。その結果、前頭連合野の主溝領域は状況に最も適合した行動規則をワーキングメモリーに保持することにより、眼窩部は報酬経験により規則の主観的価値を素早く高めることにより、また前帯状溝皮質は今有効な規則の作業記憶を行為決定のために能動的に参照することにより課題遂行を助けていることが分かった。これらの結果は、一見分解不可能に見える行動の高次制御機能が複数の機能要素から構成されることを示した。

 
4 山森 哲雄 基礎生物学研究所 日本経済新聞(2009年6月30日夕刊18面) 霊長類の大脳皮質で両眼視に関わる新しい構造を発見

米国科学アカデミー紀要電子版(2009)


Toru Takahata, Noriyuki Higo, Jon H. Kaas and Tetsuo Yamamori

基礎生物学研究所/産総研/Venderbilt 大学
科学新聞(2009年7月10日1面)

我々の脳は、右眼と左眼それぞれから入力される情報を1つの像に統合する情報処理の仕組みを持っている。基礎生物学研究所の高畑亨研究員(現バンダービルト大)と山森らの研究グループは霊長類(マカクザル)を用いて、左右の眼の視覚入力バランスが大きく崩れた時、大脳皮質の一次視覚野で神経活動が変化し、今まで知られていなかった眼優位性カラム内の神経ネットワーク構造が可視化されることを新たに見出した。この構造は、両眼視の情報処理と密接な関連があることが示唆される。今後、この成果をきっかけとして、一次視覚野での情報処理ネットワークの可塑性の全容解明に一歩近づくことが期待される。また、今回の発見はケガや病気などにより網膜が損傷した際に、脳の情報処理機能にどのような補償が生じるのかを理解する上でも重要な知見となる可能性がある。この成果は、米国科学アカデミー紀要電子版にて公表された。

 
1 池中 一裕 生理学研究所

中日新聞(2009年7月1日夕刊3面)

Mice with altered myelin proteolipid protein gene expression display cognitive deficits accompanied by abnormal neuron-glia interactions and decreased conduction velocities.

The Journal of Neuroscience
29巻26号:p.8363-8371.(2009).

Hisataka Tanaka, Jianmei Ma, Kenji F. Tanaka, Keizo Takao, Munekazu Komada, Koichi Tanda, Ayaka Suzuki, Tomoko Ishibashi, Hiroko Baba, Tadashi Isa, Ryuichi Shigemoto, Katsuhiko Ono, Tsuyoshi Miyakawa, Kazuhiro Ikenaka,

藤田保健衛生大学/東京薬科大学/京都府立大学

日本経済新聞(2009年7月2日朝刊38面)

科学新聞(2009年7月17日4面)

オリゴデンドロサイトに特異的に発現する遺伝子(PLP1)が過剰発現する遺伝子改変マウスを用いて研究を行ったところ、脱髄は全く観察されないにもかかわらず神経伝導速度が半減していた。この機能障害はランビエ絞輪付近の微細形態異常が原因で起こり、グリア細胞の異常が神経細胞機能、特に軸索の機能障害を引き起こすことが明らかになった。このマウスの網羅的行動解析によって、運動や痛みに対する応答は正常であるが、マウスの認知機能が低下していることが分かった。オリゴデンドロサイト特異的に発現する遺伝子が統合失調症の感受性遺伝子として再現よく報告されているものの、それがどのような表現型に関与するのか分かっていなかったが、この報告によってグリア細胞、特にオリゴデンドロサイトの機能変化によって認知障害が起こることが初めて示された。

 
2 酒井 邦嘉 東京大学大学院総合文化研究科 朝日新聞(2009年7月24日朝刊25面)

失語症でなくとも左前頭葉の一部損傷で文法障害が生じることを実証

―脳腫瘍患者のMRI診断で特定―

Brain & Languageオンライン版
平成21年7月1日

酒井 邦嘉
日本経済新聞(2009年7月1日夕刊18面)
日刊工業新聞(2009年7月1日 23面)
日経産業新聞(2009年7月1日12面)

 左前頭葉の一部「文法中枢」)に脳腫瘍がある患者で純粋な文法障害が生じることを実証しました。左前頭葉に脳腫瘍を持つ患者に文法判断テストを実施し、その腫瘍部位を磁気共鳴映像法(MRI))で調べたところ、左前頭葉の一部である「文法中枢」に腫瘍がある患者では、左前頭葉の他の部位に腫瘍がある患者より誤答率が高くなりました。臨床的には失語症)と診断されていないにもかかわらず、今回のように顕著な文法障害(「失文法」))が特定されたのは初めてのことです。本成果は、150年来の失語症研究に関する論争に決着をつけ得るものです。
これまでの研究により、母語としての日本語はもちろん、外国語としての英語の文法処理においても、左前頭葉の文法中枢の活動が明らかとなっています。一方、同部位の損傷で文法に選択的な障害が生じるかについては明らかになっていませんでした。
今回、成人の脳腫瘍患者を対象として、絵と文を用いた文法判断のテストに加えて、腫瘍部位をMRIで正確に同定し、その関係を詳細に分析しました。その結果、左脳の「下前頭回」または「運動前野外側部」の損傷が文法判断に伴う成績低下を選択的に引き起こすという因果関係が分かりました。さらにこの脳の部位は、以前本研究グループが語学の習得期間や適性に関連した脳部位を調べる実験で明らかにしてきた文法中枢と完全に一致しました。
今回の成果は、文法中枢の機能を直接的に証明する脳科学データであり、言語リハビリの改善や、人間に固有な脳機能の解明へとつながるものと期待されます。

 
5 内匠 透 大阪バイオサイエンス研究所

毎日新聞(6月26日 朝刊27面)

マウスで自閉症を再現

Cell
137・7・1235-1246(2009).

Nakatani J, Tamad K, Hatanaka F, Ise S, Ohta H, Inoue K, Tomonaga S, Watanabe Y, Chung YJ, Banerjee R, Iwamoto K, Kato T, Okazawa M, Yamauchi K, Tanda K, Takao K, Miyakawa T, Bradley A and Takumi T 

Osaka Bioscience Institute/Kyoto University/Banyu Pharmaceutical Co. Ltd./RIKEN Brain Science Institute/Fujita Health University/The Welcome Trust Sanger Insitute/Hiroshima University

日本経済新聞(6月26日 朝刊42面)

中国新聞(6月26日 朝刊1面)

中日新聞(6月26日 朝刊3面)

西日本新聞(6月26日 朝刊33面)

共同通信(6月26日配信 北海道新聞他全国地方紙朝刊)

日刊工業新聞(6月26日 23面)

日本農業新聞(6月26日)

科学新聞(7月3日 1面)

産経新聞(7月6日 朝刊11面)

広島大学新聞(7月20日 1面)
Journal Club in Nature (Nature 461, 451, 2009)

自閉症のリスクとして染色体異常が知られている。ヒト染色体15q11-13の重複は、自閉症の細胞遺伝的な異常としてもっとも多いものとして知られている。我々は、染色体工学的手法を用いて、マウス染色体7番の相同領域に6.3Mbにわたる重複を作製することに成功した。父性重複マウスは、社会的相互作用の障害、常同様運動、超音波啼鳴の異常、不安等を示した。重複領域内にある MBII52 snoRNAの発現上昇は、セロトニン2c受容体のRNA editingに影響を与えていることが示唆され、また初代培養神経においてセロトニン2c受容体のアゴニストによる反応性を変化させた。本染色体工学的手法によるマウスモデルは、ヒトの表現型妥当性をみたすだけなく、ヒト自閉症と同じ染色体異常を有するという構成的妥当性をも充たし、コピー数多型の疾患モデルである。本モデルは、今後発達障害の前向き遺伝学的解析および治療法の開発にとり有効なモデルとなる。

 
1
岡部 繁男

東京大学・大学院医学系研究科

日経産業新聞(2009年6月23日11面) 脳内の酵素の機能をなくすことによって、著しい「記憶障害」マウスを開発-記憶のメカニズムの解明へ前進、記憶障害の治療法開発へ期待-



Journal of Neuroscience
29,7607-7618(2009)

Yamagata, Y.(1,6), Kobayashi, S.(2), Umeda, T.(3), Inoue, A.(3), Sakagami, H.(4), Fukaya, M.(5), Watanabe, M.(5), Hatanaka, N.(1), Totsuka, M.(6), Yagi, T.(7), Obata, K.(1), Imoto, K.(1), Yanagawa, Y.(6,8), Manabe, T.(2,6) and Okabe,S. (3,9)

(1) National Institute for Physiological Sciences (2) Institute of Medical Science, University of Tokyo (3) Tokyo Medical and Dental University (4) Kitasato University School of Medicine (5) Hokkaido University School of Medicine (6) CREST (7)Graduate School of Frontier Biosciences, Osaka University (8) Gunma University Graduate School of Medicine (9) Graduate School of Medicine, University of Tokyo
学習や記憶の形成には脳の中の様々な情報伝達分子が連携して働くが、大脳皮質・海馬ではカルシウム・カルモジュリンキナーゼIIaが中心的な役割を果たすと考えられている。しかしながら、このタンパク質は脳内に非常に多く存在し、キナーゼ活性以外にも構造を維持するなどの様々な機能を持っているため、従来のノックアウト法では、その酵素活性が単独でどの程度学習や記憶に役割を果たしているか明確にすることができなかった。今回、このタンパク質の酵素機能だけを抑えたノックインマウスを開発し、細胞から行動に至るすべてのレベルで学習・記憶に関連する解析・評価を行った。この遺伝子改変マウスでは、このタンパク分子の刺激依存的なシナプス移行は起こるものの、スパインの体積増加も電気生理学的な長期増強も起こらなかった。さらに海馬依存的な記憶学習試験における障害も著明なことから、今回の「カルシウム・カルモジュリンキナーゼIIaの構造的役割は保持するが、キナーゼ活性は消失したマウス」を作製することによって得られた結果は、学習・記憶における前脳、特に海馬でのタンパク質リン酸化の重要性をはじめて示した研究成果である。
 
2 酒井 邦嘉 東京大学大学院総合文化研究科 毎日新聞(2009年4月28日夕刊10面)

語学の適性に関係する脳部位は左前頭葉の「下前頭回」にあることを解明

−脳の局所体積を測るMRI実験で特定−
「Human Brain Mapping」オンライン版
平成21年4月27日発行(2009).

酒井邦嘉
日本経済新聞(2009年4月28日朝刊30面)
日経産業新聞 (2009年4月30日10面)
Nikkei Business Publications Inc.(2009年4月30日)
NIKKEI NET (2009年4月30日)
科学新聞(2009年5月1日1面)
東京新聞 (2009年5月4日朝刊22面)
産経新聞 (2009年5月4日)

英語の文法能力と高い相関を示す脳の局所体積の個人差を磁気共鳴映像法(MRI)で調べたところ、語学の適性と密接に関係する脳部位を特定することに成功しました。その脳部位は、左前頭葉の「下前頭回」にありました。
これまでの研究により、外国語としての英語が約6年の習得期間で定着するに従って、左前頭葉の「文法中枢」)の活動が高まり、維持・節約されるというダイナミックな変化を遂げることが明らかとなっています。一方、文法能力などの語学の適性が脳のどのような構造的な特徴と関係があるかについては明らかになっていませんでした。
今回、英語を外国語として習得中の中高生(日本人)と成人(海外からの留学生)を対象として、英語文の文法性の判断能力の調査に加え、脳の局所体積をMRIで測定し、その個人差を詳細に分析しました。その結果、脳の下前頭回という部位の局所体積において、右脳の対応部位より左脳の対応部位の方が大きいという“非対称性”の程度が、文法課題の成績に比例することが分かりました。さらにこの脳の部位は、以前本研究グループが語学の習得期間に関連した脳活動を調べる実験で明らかにしてきた「文法中枢」と一致しました。
語学の適性に関係する脳部位を、年齢や習得期間と独立した要因として特定したのは初めてのことで、脳の局所的な構造が言語の機能に影響を与えることが強く示唆されます。今回の成果は、各個人の語学の適性を知る上で最初の脳科学データであり、語学教育の改善や、脳の左右差という謎の解明へとつながるものと期待されます。

 
4
大隅 典子

東北大学・大学院医学系研究科

毎日新聞(2009年4月8日14版朝刊)
アラキドン酸が神経新生促進と精神疾患予防に役立つ可能性を発見 PLoS ONE.
4 (4): e5085(2009)
PMID: 19352438

Maekawa M, Takashima N, Matsumata M, Ikegami S, Kontani M, Hara Y, Kawashima H, Owada Y, Kiso Y, Yoshikawa T, Inokuchi K, Osumi N.

河北新報(2009年4月12日16版3面朝刊)
化学工業日報(2009年4月14日8面)
化学新聞(2009年4月17日1面週刊)
東北大学学生新聞(2009年4月20日2面)
朝日新聞(2007年9月24日24面朝刊)
読売新聞(2007年9月30日16面朝刊)
他新聞社 35社掲載
テレビ局 28社で放映
 本研究は、多価不飽和脂肪酸の一種であるアラキドン酸が神経新生を促進し、ラットにおいて精神疾患様行動を改善する効果があることを発見しました。
統合失調症などの精神疾患の患者では、周囲の不必要な雑音などが意識に上らないようにシャットアウトする感覚フィルター機能が弱まる症状が見られます。この感覚フィルター機能は、驚愕音への反応を弱めるプレパルス抑制(prepulse inhibition:PPI)という生理学的な検査で評価することができます。
今回、脳の発生・発達に重要な遺伝子であるPax6に変異のある動物や、薬剤の投与によって神経新生を低下させた動物モデルにおいて、神経新生の低下がPPIの低下と相関することを見いだしました。これに加えて、これまでに見いだした多価不飽和脂肪酸に結合するたんぱく質が神経新生に関わるという研究結果から、多価不飽和脂肪酸の一種であるアラキドン酸に神経新生向上効果があるのではないかと考えました。
そこでさらに、野生型のラットを生後4週までアラキドン酸を含む餌を与えて飼育し、神経新生の様態を解析したところ、対象群よりも約30%神経新生が向上することが分かりました。また、Pax6変異ラットにもアラキドン酸含有餌を投与したところ、やはり神経新生は向上し、PPIの低下に改善傾向が認められました。これらのことから、アラキドン酸が神経新生を向上させ、精神疾患様行動を改善する可能性が示されました。アラキドン酸を摂取することが、PPIの低下を伴う精神疾患の発症予防や治療に役立つものと期待されます。
 
2 藤田 一郎 大阪大学・大学院生命機能研究科

読売新聞夕刊(2009年3月11日)

Spinogenesis and pruning scales across functional hierarchies.

(スパインの生成と刈り込みの量と変化速度は大脳皮質の階層構造に依存する)
Journal of Neuroscience
29(10): 3271-3275(2009).

Elston, G.N., Oga, T., and Fujita, I.

 日刊工業新聞(2009年3月13日)

科学新聞(2009年3月20日1面)

Nature asia-pacific website特集記事(2009年5月15日)
産経新聞朝刊(2009年5月26日)

サルをモデル動物として扱った実験で、脳神経回路を構成するシナプスについて、個体の誕生時における数、発達過程での生成と減少の度合い、そして大人になってからの数が、脳の場所によって異なることを明らかにしました。脳の精密な神経回路は、生後、シナプスを生成したり、取り除いたりすることで完成する。これまでは、脳神経細胞の発達過程において、「使うシナプスほど強化され、使わないシナプスは削除する」という見解が広く受け入れられてきた。しかし、今回、サルの大脳皮質の3つの領域におけるシナプス数の生後変化を調べることで、より高度な情報処理に関わる脳の部位ほど、生まれた時から多くのシナプスを持ち、生まれた後により多くのシナプスを形成し、さらにその後、より多くのシナプスが刈り込まれるということを突き止めた。これらのことから、神経回路の精密化の過程は、脳の中の場所によって異なることが示された。

 
2 関 和彦

生理学研究所

日経産業新聞(2009年4月24日全国版・朝刊11面 脊髄刺激によって手指の動きを効率的に制御する方法を発見 2008年北米神経科学学会大会発表内容に対する新聞社の独自取材
サルの脊髄にあり指の動きを制御する部分に直径30μmの電極を刺入し、指の運動を観察した。数ミリ秒の間隔をあけて60μAの電流を流すと、同時に流した場合より指の運動を誘発する閾値が四分の一にまで低下した。また、多数の電極において同様な実験を行うと、脊髄の吻側-尾側方向において上記の効果を誘発する特定の組み合わせが存在することが明らかになった。このような神経刺激効果の非線形的加重は大脳皮質においては報告がなく、脊髄固有の性質に由来すると考えられた。
通常は神経組織を電気刺激すると電極近傍の組織が損傷するため、効果が薄れてより強い電流を流さなければならなくなる。従って、より弱い電流で大きな反応を引き出す必要があった。本方法は脊髄損傷で動かなくなった手指の機能の再現するためのブレイン・マシン・インターフェースの開発に役に立つと期待される。