2005年プレス発表一覧表  ホーム 

2005年度 プレス発表

第五領域「病態脳」


     
氏  名
所  属
雑 誌 名
研究タイトル
掲載新聞
祖父江 元 名古屋大学医学部神経内科 Nature Medicine 2005 Oct;11(10):1088-1095 Hsp90阻害剤である17-AAGは、ポリグルタミンによる運動ニューロン変性を抑制する

NHKニュース放映(2005/9/12)
読売新聞(2005/9/12朝刊)
日本経済新聞(2005/9/12夕刊)
毎日新聞(2005/9/12夕刊)
中日新聞(2005/9/13朝刊)
朝日新聞(2005/9/13朝刊)

Hsp90阻害剤である17-AAGは、腫瘍関連タンパク質の選択的な分解を促進するという優れた薬理効果を有し、新規抗癌剤としてその臨床応用が期待されている薬剤である。球脊髄性筋萎縮症(SBMA)の病因タンパク質は、ポリグルタミン鎖が異常伸長したアンドロゲン受容体(AR)であるが、今回はこのARがHsp90の働きを必須とするクライアントプロテインであることに注目した。SBMA培養細胞およびマウスモデルにてその薬理作用を検討したところ、ポリグルタミン鎖が異常伸張した変異型ARは17-AAGにより選択的に分解されることが分かった。さらに17-AAGの連続投与により、SBMAモデルマウスの運動機能障害は抑制され、生存率の有意な延長効果が認められた。治療群マウスには薬剤投与による明らかな副作用は認められなかった。AR以外の神経変性疾患の病因タンパク質や、病態に深く関与するタンパク質もHsp90のクライアントである可能性があり、17-AAGはSBMA及び他の神経変性疾患の有望な分子標的治療薬になる可能性を秘めている。

祖父江 元 名古屋大学医学部神経内科
Proc Natl Acad Sci U S A 2005 Nov 15;102(46):16801-16806 GGAによる分子シャペロン誘導は、ポリグルタミンによる運動ニューロン病を改善する 日経産業新聞(2005/11/11朝刊)
球脊髄性筋萎縮症(SBMA)は遺伝性の運動ニューロン疾患であり、ポリグルタミン鎖が異常伸長したアンドロゲン受容体(AR)が、神経細胞内で不溶性の凝集体を形成する過程で神経毒性を有すると考えられている。近年、ポリグルタミン病をはじめとする神経変性疾患に対して、分子シャペロンによる治療効果が示されつつある。Geranylgeranylacetone (GGA)は経口投与によりHsp70などの分子シャペロンの発現を誘導することが知られている。SBMAマウスモデルにGGAの経口投与を行ったところ、神経組織でシャペロン群の有意な発現増強が認められ、異常ARの核内凝集を有意に抑制し、運動機能や寿命の改善が認められた。GGAの神経変性疾患への臨床応用には投与量の至適設定が課題となるが、GGAは抗潰瘍薬としてすでに患者に使用されており、毒性が極めて低いことから、ポリグルタミン病などの神経変性疾患の治療薬として期待される。

有賀寛芳
北海道大学大学院薬学研究科
  北大がパーキンソン病薬の有力候補発見、大学化合物ライブラリーもとにin silicoで 日経BP:2005-12-07 15:46:29
家族性パーキンソン病PARK7原因遺伝子DJ-1は、抗酸化ストレス、転写因子、プロテアーゼ、ミトコンドリア機能調節能を有し、その機能破綻が家族性のみならず弧発性パーキンソン病発症に関与していると考えられる。パーキンソン病モデルラット中脳にDJ-1タンパク質を注入すると、神経細胞死と行動異常が劇的に改善される。そこで、DJ-1の活性中心である106番目のシステインに結合する化合物をDJ-1への結合強度を指標に、大学化合物ライブラリー3万化合物をバーチャルスクリーニングした。得られた複数の化合物は不活性型であるDJ-1の酸化を抑制し、活性酸素を除去することで酸化ストレス誘導神経死を抑制した。従来のパーキンソン病治療薬がドーパミン欠乏を補う対症療法に対して、これらの化合物は神経細胞死抑制を行う根本的治療薬候補になりうると考えられる。

内匠 透 大阪バイオサイエンス研究所
Current Biology Vol 15, 587-593, 29 March 2005 RNA不足で統合失調症? 高知新聞(2005/8/26夕刊6面)
宮崎日日新聞(2005/8/27朝刊)
神経細胞の特定部分にリボ核酸(RNA)が運ばれないと統合失調症の発症につながる可能性があることをマウス実験で突き止めた。RNAが不足すると、情報伝達を担う神経細胞のスパインの形態や機能が異常になるためである。薬を使い統合失調症と同様の症状にしたモデルマウスを普通のマウスと比較し、RNAと結合するTLSが少ないことに注目。TLSはスパインに集まり、運んできたRNAよって、スパインなどの形成に必要な蛋白質が合成される。神経伝達情報物質の受け渡しは、スパインからなるシナプスで行われるため、スパインの形成に欠かせないRNAが足りないと異常なスパインができ、情報伝達障害が発生する。TLSの遺伝子を欠損させたマウスは生存できず、樹状突起が少なかった。TLSの量は、培養神経細胞の実験でグルタミン酸の増減に応じて量が決まると判明した。ヒトでもスパインの異常が精神疾患の原因となっている可能性がある。