2.凍結割断レプリカ免疫標識法

重本 隆一 (脳形態解析部門)

 凍結割断レプリカ法は細胞膜の二次元的な形態を電子顕微鏡で観察する方法としてギャップジャンクションやタイトジャンクションなどの観察には優れた方法であったが、膜表面の形態情報が少ない事や脳などの細胞構築が複雑な組織では細胞種の同定が必ずしも容易ではないことから、その応用は比較的狭い領域に限られていた。

 しかし、1995年になり故藤本和博士によりSDS処理凍結割断レプリカ標識法(SDS-digested Freeze-fracture Replica Labeling, SDS-FRL法)が開発され、膜内粒子等の膜表面レプリカ形態に加え複数種の分子を金コロイド標識によって同定できるようになり、凍結割断レプリカ法の応用範囲は広がった。

 この方法により膜内粒子だけでは同定できなかった膜ドメインに存在する各種受容体、チャネル、トランスポーター、接着分子、細胞膜の裏打ち分子などの膜蛋白質や足場蛋白質がレプリカ上で検出できる。また特にSDS-FRL法の特徴として、特定の脂質成分の分布を検出することにより、膜ドメインの可視化が可能になった事が挙げられる。

 我々の部門では脳組織を用いて、グルタミン酸受容体、GABA受容体、グルタミン酸トランスポーター、GABAトランスポーター、イオンチャネル、水チャネル、伝達物質放出関連蛋白など100種を超える機能分子についてSDS-FRL法によるスクリーニングを行ってきた。その結果、この方法が従来の免疫電顕法に比べ数々の有利な点をもっており、従来法を補完する方法として大変優れている事を見出した。特に、細胞膜蛋白質分子がレプリカ膜裏面に2次元的に露出される事から標識効率がきわめて高く、非常に定量的な分布解析が可能である。またグリッドマップ法や単一膜由来の相補的なレプリカ膜面を対応させる方法によって、さらに得られる情報は増大する。

 今回はそれらの経験に基づいてSDS-FRL法の実際、利点、欠点、応用例について実験を行いながらご紹介し、この方法の有用な利用に結び付けていただければと考えている。


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