4.超高圧電子顕微鏡による生物試料の立体観察

有井 達夫 (脳機能計測センター 形態情報解析室)

 生体の生理機能を解明する際、その形態を観察することはきわめて重要である。通常の電子顕微鏡の加速電圧は 100 kVである。この10倍の1,000 kVの高い加速電圧を用いて発生させた電子線は透過能が高く、色収差による像のぼけも少なくなるので厚い試料(〜 5 μm )でも構造が選択的に染色されていれば、比較的高い解像度(〜15 nm)で観察することができる。このとき結像に用いている電子線の開き角は狭いので、適当な倍率では、切片内の構造はほとんどぼけることなく結像する。そこで、これらの試料を傾斜させて撮影した2枚の写真(±θ°傾斜)を立体視することにより光学顕微鏡をはるかに上回る解像度で3次元的な形態を明瞭に識別することができる。

 生理学研究所の超高圧電子顕微鏡(H-1250M 型)は、日立製作所の協力を得て昭和 55, 56 年度の2ヵ年の予算を使用して製作され、昭和57年3月に研究所に導入されている。最高印加電圧 1,250 kV(常用1,000 kV )という高エネルギーの電子線を用いて細胞の超微細形態を観察する大型装置(高さ 8m、重さ 17t)である。導入以来各種改良を加えており、医学生物学用の超高圧電子顕微鏡としてはわが国唯一、世界でも最高性能の装置である。立体像観察が容易に行える点にも特徴を持っている。

 昭和57年度後半より、超高圧電子顕微鏡を用いた共同利用実験の課題を全国に公募しており、全国の医学生物学研究者が積極的に利用し多大の成果をあげてきている装置である。 そこで当研究所の医学生物学用超高圧電子顕微鏡(H-1250M:常用加速電圧1,000kV)を、より有効に利用していただくために、この実習コースを用意している。この実習を行なえば、通常の透過電子顕微鏡の動作原理に対しても理解が深まることが期待される。

  1. 超高圧電子顕微鏡の真空排気系の理解
    透過電子顕微鏡の排気系の動作原理を理解することを目的にして実際に超高圧電子顕微鏡を操作する。真空を実現する各種排気ポンプの仕組みと動作原理および真空度を計測する各種真空計についても理解を深める。
  2. 超高圧電子顕微鏡による結像の仕組みの理解
    照射系の光軸合わせと結像系の光軸合わせを行う。次に、膜穴および金薄膜などの標準試料を用いて超高圧透過電子顕微鏡像と電子回折模様を撮影することにより、電子顕微鏡の結像の仕組みについて理解を深める。
  3. 培養細胞の全載標本の超高圧電子顕微鏡用試料の作製および観察
    臨界点乾燥装置を用いて培養細胞の全載標本を作製する。真空蒸着装置を使用してカーボン蒸着を行なう。傾斜像を撮影する。またゴルジおよび免疫染色をした試料の例を用いて試料作製への理解を深めるとともに、この超高圧電子顕微鏡像を撮影する。
  4. フィルムスキャナーを用いて撮影した傾斜像のデジタル画像を得る。
    これらの画像を立体写真として観察する。また連続的な傾斜像をコンピューター処理するソフトを試用する。
生理学研究所の超高圧電子顕微鏡を右図に示す。

加速管内部と1階にある超高圧電顕の鏡体内部は3台のイオンポンプと5台のターボモレキュラーポンプを用いて超高真空に近い真空度 7×10−6Pa(1気圧の 140億分の1)を実現している。

試料上部に、2個の照射系レンズがあり、これを用いて試料上の電子線照射量を制御することができる。試料下部に5個の結像系レンズがある。     

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