14.麻酔下動物での電気生理実験

伊佐 正 (認知行動発達機構部門)

 麻酔下の動物で神経回路を構成する細胞間の結合関係や神経回路の動的特性、また個々のニューロンの細胞内電位や膜特性を計測する実験は1950年代から微小電極法の開発に伴って急速に進歩し、1960ー70年代までは神経生理学における主要な実験技術のひとつとされてきました。その過程で様々なノウハウが蓄積されてきたといえます。

 しかし1970年代からは、無麻酔動物での行動中の神経活動の記録法が発展してきたこと、また単離培養細胞やスライスなどのin vitroでのパッチクランプ法などの実験系がより洗練されてきたこと、さらには機能的MRIなど非侵襲的脳機能イメージング法が発展してくるに従って、麻酔下の動物での電気生理実験は「辛くて大変な割にはあまり大したことがわからない実験」として敬遠され、すっかり下火になってしまっていた感があります。

 ところが、近年遺伝子改変動物の開発によって分子生物学が、より個体機能を目指すようになってき、さらには培養細胞やスライスで解析できることの限界が認識されるにおよんで、麻酔下個体動物での神経回路の電気生理学的実験の必要性が再認識されるようになってきています。

本コースでは麻酔下動物での電気生理実験の最も基本的な実験手技を習得することを目的として、麻酔下ラット、マウスにおいて、

  1. 錐体路などの主要な脊髄伝導路の神経伝導(伝導速度、不応期など)の計測
  2. 感覚刺激や中枢神経系の局所的電気刺激に対する大脳皮質や上丘におけるフィールド電位や単一ニューロンの応答を記録する手法

を実習します。

 特に麻酔下で動物の全身状態を良好に保つことが実験を成功させる秘訣です。生体機能のモニターに注意を払いながらより良い実験データを取得する方法を学びます。


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