研究内容

Research

1.霊長類認知ゲノミクス研究に基づいた霊長類モデル動物の開発

ヒト高次認知機能および精神・神経疾患病態解明を目指した霊長類モデル動物の開発のために,数百頭規模のマカクザルおよびマーモセットの精神・神経疾患関連遺伝子の網羅的配列決定を行い,高次認知機能遂行および精神・神経疾患関連遺伝子機能喪失変異を自然発症的に有する個体および家系の同定を行っています.

関連研究費

科学研究費補助金 新学術領域:
「多様な「個性」を創発する脳システムの統合的理解」(「個性」創発脳」)
「イメージングゲノミクス解析による個性創発機構の解明と細胞・脳の個性計測技術開発」(計画研究)
文科省委託事業 革新脳:
「霊長類脳の構造・機能をささえる分子基盤解明にむけたマーモセット全脳遺伝子発現動態・エピゲノム動態解析」
科学研究費補助金 挑戦的萌芽:
「霊長類疾患モデル作製にむけた霊長類パーソナルゲノム・トランスクリプトーム解析」
自然科学研究機構グラント:
「脳とこころの多様性理解にむけた実験的イメージングゲノミクス研究の展開」(平成27年度)
「脳とこころの個性・多様性の解明を目指した実験的認知ゲノミクス研究の展開」(平成26年度)
「ヒト精神・神経疾患病態解明を目指した霊長類認知ゲノミクス研究〜相関から因果律解明へ〜」(平成25年度)

霊長類における実験的認知ゲノミクス研究をすすめるにあたっての二つの戦略.ゲノム情報以外の表現型情報を有する家系・個体からその原因遺伝子の同定を行う“Phenotype-Driven Approach”と,ヒトの精神・神経疾患関連遺伝子として同定されている遺伝子とマカクザル・マーモセットにおける相同遺伝子の変異解析を行う“Genotype-Driven Approach”の両面から,現在研究を実施しています.

2.ヒトと類人猿の死後脳における比較トランスクリプトーム・エピゲノム解析

ヒト化(hominization)の最大の特徴である脳の複雑化,特に前頭前野を中心とした大脳新皮質の形態進化と機能進化の分子基盤を解明するために,ヒトと類人猿(チンパンジー・ゴリラ・オランウータン・テナガザル)の死後脳における比較トランスクリプトーム・比較エピゲノム解析を,領野単位,皮質層単位,単一細胞の各レベルで行っています.

関連研究費

科学研究費補助金 基盤研究B(一般):
「ヒト特異的な脳細胞は果たしてあるのか?シングルセル比較トランスクリプトーム解析」
「ヒトとチンパンジーの選択的スプライシングの多様性解析とその脳内表現」
科学研究費補助金 若手研究(A):
「ヒトを特徴づけるゲノム基盤解明のための脳比較トランスクリプトーム・エピゲノム研究」

3.霊長類における発達脳比較トランスクリプトーム・エピゲノム解析

ヒトおよび類人猿は,侵襲的な実験や実験的な操作が不可能であるため,得られた結果の妥当性の検証に限界があります.また,発達の時間軸に沿った研究を行なうことも極めて困難な現状です.そこで,脳神経系の構造マップの作成や脳の発達にともなう機能変化の分子基盤を明らかにするために,実験動物としてのマカクザルとマーモセットに注目し,新生児からアダルトに至る各発達段階における複数領野(マカクザル(12領野),マーモセット(30領野))の比較トランスクリプトーム・比較エピゲノム解析を行っています.

関連研究費

科学研究費補助金 新学術領域研究:
「グリアアセンブルによる脳機能発現の制御と病態」(グリアアセンブリ)
「霊長類脳におけるニューロン・グリア細胞の時空間アセンブル表象の解明」(公募研究)
科学研究費補助金 挑戦的萌芽:
「マカクザル実験動物化に向けた脳発達オミックス解析」
文科省委託事業 革新脳:
「霊長類脳の構造・機能をささえる分子基盤解明にむけたマーモセット全脳遺伝子発現動態・エピゲノム動態解析」

マカクザル脳における発達段階および領域間の遺伝子発現解析.異なる領野間の発現比較(右図)からは小脳(CEC)が最も顕著に他の領野と発現動態が異なるのに対して,大脳新皮質間の発現パターンは非常に類似していることがわかります.

4.チンパンジー親子トリオゲノミクス・トランスクリプトミクス

「ヒトとは何か?生物学的にどのように定義されるのか?」という命題にたいして,ヒト以外のアウトグループとしてのチンパンジー親子トリオを対象とした比較ゲノム・比較トランスクリプトーム解析を行い,ヒトにおける結果との比較解析を多階層で行っています.

関連研究費

科学研究費補助金 若手研究(B):
ヒトとチンパンジーの比較トランスクリプトーム・メチローム研究

チンパンジー親子トリオ(父:アキラ,母:アイ,息子:アユム)の全ゲノム配列を高精度に決定し,両親からコドモにゲノムDNAが継承される(遺伝する)際に起きる変化を詳細に解析しました.コドモのゲノムは両親から1対ずつの染色体を譲り受けますが,その際に,親のどちらにもない塩基に変化することがごく稀にあります.図の中では父親由来の染色体に父親とは違った塩基が生じている(父親はT(チミン)であるのに対してコドモはC(シトシン)).さらに,このような変化は,父親由来が母親由来より約3倍高い頻度で起きていることを明らかにしました.このような一塩基の変化やより大規模な構造変化を含め,本研究では1世代のゲノム変化の全貌を高精度に明らかにしました.