生理学研究所年報 第30巻
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動物実験センター

【概要】

1.全般

 平成19年2月23日に機関内規程「大学共同利用機関法人自然科学研究機構動物実験規程」が制定され,2年目の動物実験が実施された。平成20年度の動物実験センターにおける目標として,当初は明大寺地区地下SPF化および明大寺地区新館のクリーン化の二つを掲げ,機関内規程に則った動物実験ができる施設となることを目指した。しかし,実際には明大寺地区地下SPF化,明大寺地区本館・新館施設の清浄化,病原体の定期的モニタリング実施,霊長類遺伝子導入実験室の設置,水生動物室の改修,施設の老朽化対策など諸問題が次々に現れ,これらの対応に多くの時間と労力が向けられた。職員の変更や増員が功を奏し,概ね,適切な対応が果たせたと判断しているが,次年度に引き継ぐ事項もある。

 研究開発業務も軌道に乗りつつあり,皮膚科学および形成外科学領域を中心とした病態モデルの作出,モルモットを用いた妊娠中毒症の研究,伴侶動物の肥満症の病態研究,実験動物飼育管理技術の開発などを進めている。技術職員も各技術課題に取り組める体制をとることができた。

 また,当センターで長年維持し続けてきたHirschsprung diseaseのモデルラット2系統(AR-EdnrbSl/Okkm[cc], LE. AR- EdnrbSl/Okkm)をThe Institute for Laboratory Animal Research (ILAR) に登録し,ナショナルバイオリソースプロジェクト「ラット」に寄託完了した。有用な動物資源を残すことができ,今後多くの方々に活用していただくことを期待する。さらに,ホームページを大幅に改め,利用者にとって役立つものとした。定期モニタリングの状況や講習会の内容,センターからの情報提供,さらには霊長類の取扱い方法に関するDVDの配信などを行った。

2.明大寺地区地下SPF化

 昨年度,明大寺地区地下SPF化計画が完了した。山手地区SPF施設とは異なり,個別換気ケージシステムによるSPF施設と実験室を併せ持つ新しいタイプの動物実験設備である。試験稼働の矢先,明大寺地区に感染症(Mouse hepatitis virus, Mycoplasma pulmonis, Bordetella bronchiseptica )が存在することが判明し,SPF化業務を一時停止せざるを得なくなった。この間,SPF施設の整備さらにケージの充当を図り,来るべきオープンを目指し準備を進めた。ケージの自動洗浄・サーマル殺菌装置を期待していたが導入が難しく,現有のラック4基の範囲で稼働実績を積み上げる方向を選択した。2009年度に本格稼働する予定で最終準備を進めている(なお,2009年6月より稼働している)。

3.明大寺地区本館・新館施設の清浄化

 明大寺地区の普通環境施設における病原微生物・寄生虫の清浄化を目的として,新館3階クリーン化に着手した。ところが,施設の汚染状況を調査したところ,Mouse hepatitis virus, Mycoplasma pulmonis, Bordetella bronchiseptica の感染が本館と新館で見つかった。過去の記録を調べると,これらの病原体が2002年には侵入していたことがわかり,恐らく10年近く以前,施設に定着していたものと推測された。急遽,事故対策委員会を開き,病原微生物の撲滅を図った。感染状況を再度チェックするとともに,感染飼養保管施設の消毒および封じ込め対策を実施した。人・物品・実験動物については動線を定め,病原体の拡散防止に努めた。第一期・二期に分けて,消毒作業を行ったが,感染の広がりはなく,2008年12月末をもって終息を見た。一部,汚染が疑われた研究部門内の飼養保管施設も消毒が完全になされた。今後1年間,注意深く定期的モニタリングを行う予定である。1年間の検査結果が陰性であることが証明できた時点で,完全撲滅宣言としたい。

 センター清浄化事業に約1年間の期間を費やしたが,明大寺地区の清浄度は,普通動物施設でありながら,“国動協の示すSPFレベル(minimum status)+ 蟯虫・一部消化管原虫フリー”をクリアした。国動協のいうところのカテゴリーA, Bの病原体を排除することを想定したが,他大学のSPF施設と同等の清浄レベルに達することができた。生理学研究所および基礎生物学研究所の皆様のご協力に対して,深く感謝申し上げる次第です。今後,この清浄度レベルを維持して,前述の病原体に関して完全撲滅としたい。

4.病原体の定期的モニタリング

 かねてより,山手地区SPF施設では定期的に病原体の検査を行い,SPF環境維持の確認を続けている。上述の明大寺地区地下SPF化および明大寺地区本館・新館の清浄化に伴い,各研究部門内で飼養保管している実験動物についても,病原体の定期的モニタリングを開始した。2008年7月より,動物実験センター本館・新館,明大寺地区(生理学研究所および基礎生物学研究所)および山手地区研究部門の3エリアに分けてモニタリングを順番に進めている。3か月毎の検査であるが,現時点で問題となる病原体は検出されていない。この業務の担当者も1名置き,円滑に仕事を進める手続きをとった。

 当研究機構では,実験動物を飼養保管しているすべての施設で定期的モニタリングを行うこととなり,感染症侵入を未然に防げるのではないかと期待している。また,昨年度より搬入・搬出した実験動物のtraceabilityもとれるようになり,両手段で環境の清浄化維持に努力したい。

5.霊長類遺伝子導入実験室

 「脳科学研究戦略推進プログラム・独創性の高いモデル動物の開発」の遂行にあたり,霊長類遺伝子導入実験室を動物実験センター内に設置する必要が生じた。2008年3月から検討に入り,当初新館4階や3階,はたまた2階など,いくつもの候補地が精査された。しかし,実験室の容積が足りず,感染症の検出やマウス・ラットを研究に用いている利用者の問題もあり,場所の選定に苦慮した。最終的に,本館1階の動物検収室を主体とする112, 113, 114, 115-A, 115-Bおよび115-Cから成る6室を導入実験室に供することとした。

 このため,動物実験センターの機能を他室に移動することとなった。受理室の新設,本館屋上イヌ運動場の改装・倉庫の設置,本館2階215, 216室の改修,マウス・ラット一時飼養保管施設の設置およびMRI用サル一時飼養保管施設の設置が必要となった。今のところ,胚操作関係の仕事や物品の搬入に不都合が生じている。2008年度内に受理室を設置することができず,外気がそのまま侵入する危険にも曝されている。また,霊長類遺伝子導入実験室より出される廃棄物および死体の処理についても結論に達していない状況にある。

6.水生動物室の改修

 基礎生物学研究所の耐震補強工事に関連して,水生動物室の改修工事を行った。従来は大型水槽やイカの円形水槽を主体とした大型魚類用の施設であったが,今次の改修により,メダカ,ゼブラフィッシュの小型魚類およびアフリカツメガエルなどの両生類の飼養保管に耐えうる施設に移行した。水槽や飼育形態を改め,さらに遺伝子組換え生物の拡散防止措置も講じた施設とした。排水は二重のトラップを施し塩素を注入して,使用した水は消毒し,さらに漏れ出た稚魚や卵は殺滅処理を行う。今後,魚類および両生類が実験動物として取り扱われることを考慮した改修工事となった。

 この反面,いくつか予期せぬ問題が生じてきた。水生動物の搬入について報告がなくなり,現在いる水生動物がいつどのような経路で搬入されたのかわからない状況である。また,従来の水槽とは飼育形態が異なるため,利用者に対する徴収金が集めにくくなってしまった。当面は,利用者の占有面積あたりで飼養保管費を負担していただく方向で進める。

7.施設の老朽化

 動物実験センターの開設後,約30年が経過して,明大寺地区施設の老朽化がかなり目立ち始めている。空調機器のトラブル,ボイラーの不具合およびエレベーター・ダムウェーターの障害などが大きな問題である。前任の専任教官から引き継いでから,これらの手直しを図り,機器の延命に努めている。また,人命にかかわる事故などは起こさないように定期点検等をお願いし,小さな修理を繰り返している。空調関係機器の能力がかなり低下し,冬期・夏期において温度・湿度の制御に苦慮している。冷温水をバイパスに繋ぐ等の緊急処置で回避を試み,漸くその場をしのいでいる状況である。実験動物施設として,必要最低限の環境が保持できないことは許されないことではあるが,マスタープラン等の大型設備予算に改善事項を計上し,一つ一つ問題解決を図りたい。その一歩として,エレベーターおよびダムウェーターについては,来年度更新を予定している。特に,ダムウェーターは人が乗り降り可能な小型エレベーターに改修し,動線等も変更して快適な動物実験施設に改善を図る予定である。安全快適な利用しやすい動物実験センターに近づける所存である。

 



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