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素材の種類に依存したニホンザルの行動反応

2018年08月14日 研究報告

 我々の生活環境には様々な素材(例:金属や木材)で作られた物体が存在します。我々はある物体を見ただけで、どのような素材でできているのかを容易に認識できます(素材知覚)。また見ただけで素材を触った感じが大体分かります。このように素材の知覚は異なる種類の感覚(例えば視覚と触覚)が混じりあった性質を持ちます。素材の知覚は日常生活を行う上でとても大事な脳の働きであるために、近年多くの研究が行われるようになりましたが、画像を用いた研究がほとんどで実物体を用いて色々な素材の知覚を比較する研究は今まで行われていません。そこで私たちは様々な素材の実物体への動物の行動を比較しました。


 ニホンザルは人間の視知覚および素材知覚のモデル動物として広く研究に用いられています。この研究ではサルが素材をどのように知覚しているかを知るために、9種類の素材(金属、ガラス、陶器、石材、木目、樹皮、皮革、布、毛)でできた円柱形の実物体を準備し、サルがそれらを握る課題を行っているときの行動反応を分析しました。行動課題では目の前の実物体を握って手前に引くことで報酬としてジュースが与えられます。


 サルの行動反応は素材の種類によって異なり、簡単に触れる素材(金属、ガラス等)と、触れることを避ける素材(特に毛)が存在することが分かりました。素材の種類による行動反応の違いは、過去の経験だけで説明することは難しく、それぞれの素材が持つ生物学的な重要性を反映しているのではないかと考えられます。また、実物体の画像を用いて同様の行動課題(ディスプレイに表示された画像をタッチする)を行った場合には素材の種類の違いによる行動の差はみられませんでした。このことは素材知覚について理解するためには実物体を用いることが重要であることを示しています。


 今回の研究からサルの素材知覚の特性の一端が明らかになったと共に、素材知覚に関わる脳の働きを理解する上で有用な知見が得られたと考えられます。

 

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共同研究情報

橘篤導(獨協医科大学・医学部・解剖学(組織)講座)
南本敬史(量子科学技術研究開発機構・放射線医学総合研究所・脳機能イメージング研究部)
小松英彦(玉川大学・脳科学研究所)
 

科研費・補助金、助成金情報

科研費、COIプログラム(科学技術振興機構)、ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)
本研究で用いられた実物体は岡崎市の芸術家の方々と自然科学研究機構分子科学研究所装置開発室の協力によって作製されました。

リリース元

Title: Dependence of behavioral performance on material category in an object-grasping task with monkeys
Authors: Isao Yokoi, Atsumichi Tachibana, Takafumi Minamimoto, Naokazu Goda, and Hidehiko Komatsu
Journal: Journal of Neurophysiology
Issue: Volume 120, Issue 2
Date: Aug 01, 2018
URL (abstract): https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29718803
DOI: doi.org/10.1152/jn.00748.2017
 

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