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拡散MRIによる脳画像に対するノイズの除去は、緑内障症例データの解析結果にどのような影響を及ぼすか

2025年08月05日 研究報告

概要

MRI(磁気共鳴画像法)は、生きているヒトの脳を安全に計測することができる方法であり、ヒトの脳機能や疾患の研究に広く用いられています。MRIの撮像法の中でも、拡散強調MRI(dMRI)は特に水分子の動きを計測する方法で、ヒトの線維束(脳の離れた場所どうしを連絡する神経線維の束)の構造を調べることができるため、疾患による線維束の構造変化を調べる際にも用いられます。
しかしdMRIデータにはノイズが含まれていることから、dMRIデータから事後的にノイズを取り除くことを目的とした解析手法がいくつか提案されてきました。そこで今回、生理学研究所・総合研究大学院大学の田熊大輝大学院生、竹村浩昌教授、東京慈恵医科大学の小川俊平講師は、緑内障患者のdMRIデータにおいて、ノイズ除去の効果を検証しました。その結果、現在提案されている2種の解析方法でのノイズ除去は、画像がより鮮明になるものの、線維束における組織異常の特定には、ほとんど影響を与えないことを明らかにしました。本研究結果は「Scientific Reports」に掲載されました。

結果

これまでの研究で、緑内障患者における視索と呼ばれる線維束の組織の変性がdMRIによって検出できることが既に示されていました。今回の研究では、dMRI研究で一般的によく使われている2種類のノイズ除去法を用いて、健常者と緑内障患者の視索の組織特性の違いが、ノイズ除去の有無によって、どのように変化するかを検証しました。 その結果、ノイズ除去によってdMRIの脳画像の見た目が変化し、より鮮明な画像になること、推定されたデータの信号対雑音比(S/N比)が向上することが分かりました。しかしながら、視索を対象とした解析を行い、健常群と緑内障患者群の間での差異を評価したところ、ノイズ除去処理によって結果がほとんど影響を受けないことが分かりました。 これらの結果は、現在一般的に用いられているdMRIデータの解析において、現時点でのノイズ除去処理はある側面では良い影響を与えるものの、緑内障に関連した線維束の組織変性の分析に大きな影響を与えないことを示唆します。 これらの知見は、神経科学分野および臨床医学分野において、dMRI解析法をどのように改善すれば良いかを理解するために重要です。どのような処理がどのような解析に効果的かを分析することで、今後dMRIを有効に活用し、神経線維束への疾患の影響をより良く理解することができると考えています。

TagumaJP.jpg
  図.左:研究手法。17人の緑内障患者・30人の健常者から取得されたdMRIデータを用いた。
右:ノイズ除去の影響の評価。
ノイズ除去によって脳画像は鮮明になるが(右上)、緑内障による線維束(視索)の組織異常を検出する解析の結果にはほとんど影響しなかった(右下)。

研究者情報

竹村浩昌(生理学研究所,総合研究大学院大学,自然科学研究機構岡崎連携プラットフォームスピン生命科学コア
田熊大輝(生理学研究所,総合研究大学院大学
小川俊平(東京慈恵会医科大学)

論文情報

Title: Evaluating the impact of denoising diffusion MRI data on tractometry metrics of optic tract abnormalities in glaucoma
Authors: Daiki Taguma, Shumpei Ogawa, Hiromasa Takemura
Journal: Scientific Reports
Issue: 15
Date: 2025/07/16
URL (abstract): https://www.nature.com/articles/s41598-025-10947-6
DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-025-10947-6

助成金

本研究は、以下の研究資金の支援を受けて実施しました。
科学研究費助成事業・特別研究員奨励費 (25KJ1324) (田熊大輝)
科学研究費助成事業・若手研究 (20K18396) (小川俊平)
科学研究費助成事業・基盤研究(C) (22K09841) (竹村浩昌)
科学研究費助成事業・基盤研究(B) (24K03240) (竹村浩昌)
生理学研究所・共同利用研究(23NIPS141, 24NIPS253, 25NIPS202) (小川俊平)
文部科学省共同利⽤・共同研究システム形成事業~学際領域展開ハブ形成プログラム〜 (分⼦・⽣命・⽣理科学が融合した次世代新分野創成のためのスピン⽣命フロンティアハブの創設) JPMXP1323015488 (Spin-L課題番号: spin24XN018,  spin25XN011)
 

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