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NMDA受容体によって誘発される大脳皮質スライスてんかん発射活動とERK1/2-MAPキナーゼの活性制御

2013年02月22日 研究報告

概要

ERK1/2(Extracellular signal-regulated kinase 1/2)は、MAPキナーゼのサブファミリーのひとつで、中枢神経系に多く存在し、様々な役割を担っていることから、その活性化の条件を知ることは重要である。これまでの研究から、てんかん発作を始めとする神経活動の興奮性の増大時や、海馬におけるNMDA受容体依存性のシナプスの長期増強時に、細胞内Ca2+の上昇によってERK1/2の活性化が起こることが知られている。一方、最近の培養細胞を用いた研究によると、NMDA受容体の活性化が必ずしもERK1/2の活性上昇をもたらすとは限らないことがわかってきた。そこで本研究においては、ラット大脳皮質スライスを用いて、生体内におけるNMDA受容体とERK1/2活性化との関連を、神経回路レベルで明らかにしようと試みた。大脳皮質スライスの外液中のMg2+濃度をゼロにしてNMDA受容体を活性化すると、てんかん様発射活動が起こるが、ERK1/2の活性上昇は認められなかった。一方、Mg2+-ゼロと同時にピクロトキシンを加えて抑制性のGABAA受容体を抑えると、ERK1/2活性が大きく上昇し、基質蛋白のリン酸化の増大も観察された。免疫組織染色を行うと、大脳皮質の浅層と深層の神経細胞に、活性化の指標となるリン酸化ERK1/2が強く染色された。この条件下では、神経細胞の脱分極と活動電位のバースト発射が、Mg2+-ゼロ条件下に比べて、はるかに強く観察された。これらの結果から、大脳皮質の神経回路のレベルにおいては、NMDA受容体の活性化は、興奮性のみならず抑制性シナプス伝達をも増強するため、ERK1/2の活性化が起こらないが、NMDA受容体の活性化と同時に抑制性シナプス伝達を抑えると、興奮性シナプス伝達が選択的に増強されるため、ERK1/2の強力な活性化が起こることが判明した。このように、生体内における神経活動と蛋白質リン酸化との関連を解明して行くためには、神経回路レベルでの解析が重要である。

(1)大脳皮質スライスを用いて電気生理学的解析とERK1/2キナーゼ活性の解析を行った。
(2)外液中のMg2+-ゼロ条件下でNMDA受容体を活性化させ、てんかん様発射活動を起こしても、ERK1/2の活性上昇は認められなかった。
(3)さらに抑制性のGABAA受容体をブロックすると、神経活動のさらなる増大と共に、ERK1/2の活性化が認められた。
(4)神経活動依存的なERK1/2の活性制御を理解するためには、神経回路レベルでの解析が重要である。

論文情報

Yamagata, Y., Kaneko, K., Kase, D., Ishihara, H., Nairn, A.C., Obata, K., Imoto, K.  
Regulation of ERK1/2 mitogen-activated protein kinase by NMDA-receptor-induced seizure activity in cortical slices.
Brain Res. 1507: 1-10, 2013.
DOI: 10.1016/j.brainres.2013.02.015

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大脳皮質スライスの外液中のMg2+濃度をゼロにしてNMDA受容体を活性化しても(Mg2+-free)、コントロール(Cont)と比べてERK1/2の活性は上昇しないが、さらにピクロトキシン(PTX)を加えて抑制性のGABAA受容体を抑えると(Mg2+-free + PTX)、ERK1/2活性が大きく上昇した(A、B)。このERK1/2活性の上昇は、NMDA受容体と非NMDA受容体の両方に依存していた(C)。パッチクランプ法を用いて神経細胞の活動を記録すると、Mg2+-ゼロ単独の場合(D)に比べて、ピクロトキシンを加えると(E)、神経細胞の脱分極と活動電位のバースト発射がはるかに増強していた。

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