2026年02月24日
研究成果
[総説] AI for Science時代におけるNMR研究基盤の再構築
Author
加藤晃一, 木川隆則
Journal
Bulletin of the Nuclear Magnetic Resonance Society of Japan, 15, 93-98(2025)
Introduction
近年、科学研究は、計測科学・計算科学・人工知能(AI)が互いの境界を緩やかに溶かし合いながら融合し、新たな研究様式を形成する時代に突入した。いわゆるAI for Scienceの潮流は、単に解析の高速化や省力化の範囲を超えて、研究プロセス全体―仮説生成、実験デザイン、データ取得、解析、そして次の計画立案―を循環的・自律的に最適化する方向へと研究構造を大きく転換させようとしている。この変革は、従来の実験科学がもっていた「測定者の技能」を中心とする構造から、「データ品質とモデル精度の往還」に重点が置かれる構造への質的変化を意味する。この渦中において、NMR分光法は単なる分子構造解析手段ではなく、AIが“学習に耐えうる高密度データ”を供給する基盤計測として、その価値を再評価されている。NMRが本質的に備える多次元性、量子力学的整合性、時空間分解能の柔軟さは、複雑な生体分子・材料系を“動的存在”として理解するうえで極めて重要であり、AIが扱うべき情報のフォーマットとして相性が良い。また、超高磁場化、固体/溶液の枠組みを横断する技術革新、核種選択性の拡張、非標識による高次構造解析、自律型測定(Autonomous NMR)など、NMRそのものも急速に進化している。本稿では、こうした技術動向、国際的研究インフラの再編、日本が抱える基盤的課題、そして国内における先端計測基盤の再構築に向けた取り組みを俯瞰しつつ、NMRの未来像を体系的に論じる。
