News & Topics研究成果

“神経細胞だけではなかった” PSPの脳障害を引き起こすアストロサイト異常を発見

私たちの脳は、神経細胞(ニューロン)だけでなく、アストロサイトなどのグリア細胞と神経細胞が密接に連携しながら、エネルギー代謝や神経伝達といった重要な機能が精緻に調節されています。この神経-グリア相互作用は脳機能の基盤ですが、その破綻がどのように神経変性疾患につながるのかは十分には解明されていません。進行性核上性麻痺(PSP)は、運動障害や認知機能低下を呈する神経変性疾患であり、特定の脳領域が選択的に障害されるメカニズムが大きな課題となってきました。
今回、スピン生命フロンティアに参画する量子科学技術研究開発機構の小野麻衣子主任研究員(筆頭著者)および高堂裕平主幹研究員(生理学研究所客員教授)らの研究グループは、プロテオミクス解析、病理組織学的解析、そしてin vivo磁気共鳴分光法(MRS)を統合したマルチモーダル解析を実施しました。その結果、PSP患者の前帯状皮質において、下記の3点が同時に生じていることを明らかにしました。
 ・アストロサイト関連分子(GFAP、AQP4)の上昇
 ・エネルギー代謝経路の破綻
 ・神経伝達物質サイクルの異常
特に重要なのは、これらの異常が個別に存在するのではなく、「代謝」「クリアランス」「神経伝達」が相互に結びついた形で破綻している点です。本研究は、PSPにおける脳機能障害が単に神経細胞が障害されるだけでなく、アストロサイトを中心としたネットワークレベルの機能破綻と、アストロサイトと神経細胞の「協調関係(クロストーク)」の破綻によって生じる可能性を示すものです。これらの知見は、脳エネルギー代謝と神経-グリア相互作用の観点から、神経変性疾患の新たな理解と治療戦略の構築につながることが期待されます。
本研究成果は、神経科学分野のジャーナル「Acta Neuropathologica」に掲載されました。

 

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