8 技術課

8.1 技術課の概要

技術課は、生理学研究所の推進する先導的研究とその共同研究の技術的支援、共同利用実験等を行う大型実験機器の維持管理及び運用支援、国際シンポジウム及び研究会の運営支援、研究基盤設備等の維持管理、研究活動の安全衛生管理を行うとともに、これらの支援業務等を高度に、円滑に進めるための技術課独自の活動を行い、さらには全国の技術者の技術交流事業を推進する研究支援組織である。

技術課は、課長の下に研究系を担当する研究系技術班(19名)と施設・センターを担当する研究施設技術班(10名)の2班で構成されている。技術課員は各部門・施設・センターに出向し、各自の専門性を背景に研究現場で大型実験装置(超高圧電子顕微鏡、脳磁気計測装置、磁気共鳴画像装置)の維持管理、遺伝子・胚操作、細胞培養、電子顕微鏡、生化学分析、実験動物管理、ネットワーク管理、電気回路、機械工作等の研究支援業務に従事している。また技術課は課長、班長、係長、主任、係員の職階制による運営を行っている。

技術課は、生理学研究所が中期計画目標により進めている研究体制の整備、共同利用等の実施、教育目標の達成、社会との連携と交流事業、広報展開事業、安全衛生管理事業を支援するために、出向体制の整備、組織運営体制の改善、研究活動への技術的支援の強化、安全衛生体制の向上、自然科学研究機構の連携、大学等と連携による新たな技術拠点形成、地域企業との連携、を推進している。

8.2 出向体制の整備

4月に研究体制の組織再編による①点検連携資料室と広報展開推進室の設置、②行動・代謝分子解析センター・行動様式解析室の立ち上げ、③生体膜研究部門の教授の着任があり、課員の異動を行い、研究支援体制の整備を行った。また技術支援員を未配置の研究部部門(6部門)に新たに配置し、広報展開推進室には既籍者の異動を行い、事務支援員を副所長室と点検連携資料室の立ち上げにより新たに配置し、研究支援体制の充実を行った。

8.3 組織運営体制の改善

技術課の業務は、出向先での日常の研究支援業務が主体であるが、その業務を組織的、機動的に進めるために独自の組織運営体制による組織活動を進めた。

(1)技術課ミーティング

毎週月曜日、8時40分より全技術課員が出席し、その週の研究所の動向の報告、技術課の組織運営上の情報交換、技術研修を行う。技術課の重要な活動基盤である。この時間を使い、技術課研修セミナーの開催、技術部会の活動を進めた。

(A)技術課研修セミナー:
毎年3--4月に、岡崎3機関の研究者を中心に招聘し、生理科学分野の最新技術の動向を聴講するセミナーを開催しているが、今年度は岡田新所長による所長講演(4月16日)を、『技術課への提言』をテーマに行い、講演において『実験技術データベース』と『4次元人体機能イメージング』を、点検連携資料室、広報展開推進室と連携し、課プロジェクトとして立ち上げと課員の技術的成果の優れたデータベース化を表彰する所長技術賞の設置の提言があり、その準備を進めた。

(B)技術部会:
研修セミナーから、課の推進すべき技術課題を決め、その課題解決を図る技術部会活動をこれまで進め、活動報告冊子の作成を活動成果としてきたが、この数年、研究所の中期計画目標に沿った技術部会のあり方についても検討を進め、また所長提言を受け、今年度、これまでの部会も含め再編し、下記の部会を立ち上げ、活動を始めた。

①研究所の目標と使命の達成を目的に活動する

(a) 生理科学実験技術データベース・4次元人体機能イメージング作成部会
目標:点検連携室、広報展開推進室とともに研究・教育・技術情報のデータベース化と4次元人体イメージングの構築を目指す。
(b) 生理科学実験技術トレーニング(電気回路・機械工作)・コンサルティング部会
目標:これまでの実積と受講者のニーズを元に生理学に新たな価値を加えた内容の充実を検討し、実施する。所内外の電気回路・機械工作の相談窓口を整備する。
(c) PICプログラム部会(生理科学実験技術トレーニングコース)
目標:トレーニングコースの受講者から要望のあった情報科学のコースとして立ち上げていく。
(d) サイエンスパートナー・産学連携部会
目標:岡崎ものづくり推進協議会との連携実積をもとに今後の計画を企画し、実施する。また核融合科学研究所技術部が実施している工業高校生の受け入れによる電気回路、機械工作講座を検討してみる。
(e)安全衛生巡視推進・安全衛生推進室ホームページ作成部会
目標:研究所に相応しい安全衛生を考え、啓蒙していく。

②全国の技術職員の技術拠点となる

(a)生理学技術研究会・奨励研究採択課題技術シンポジウム部会
目標:地域企業、初等・中等、高等学校のサイエンスパートナーへの参加の呼びかけ、今後の研究会テーマを視野に入れた参加基盤を把握し、研究会の質的転換を図る。

③技術課の活動成果を発信する

(a)技術課報告(30周年記念誌と今後の報告誌)作成部会
目標:技術課の30年の活動を記念誌としてまとめ、今後の課の活動を要覧的、年報的、点検評価的報告書として作成し、発信する。
(b)技術課ホームページ作成部会
目標:要覧的、年報的、点検評価的、技術報告的な内容を枠組みとしたウェブ編集を行う。

④課員個々の研修研鑽に努める 

(a)教育・学習研修部会
目標:機構技術研究会・東海北陸地区技術研修の質的向上と国際研究機関拠点に相応しい英語授業の配信を検討し、整備する。

⑤研究所・課の互助の職場環境を形成する

(a) サプライショップ部会
目標:利便性を考えた運営を行う。
(b)総務部会
目標:課員のコミュニティーを深める企画を検討し、実施する。

(2)技術課業務報告会

課員の出向先での1年間の主要業務報告を、毎年、行い、課員の技術情報の共有化と研究支援力の相互の向上を図り、課員の業務評定を進めている。今年度は報告会に所長、研究総主幹、点検連携資料室と広報展開推進室の准教授に出席を依頼し、研究者側からの業務講評と助言による課外点検評価を行い、個々の業務の理解と活用が研究所内でさらに進むように努めた。また優れた業務報告者3名に所長より表彰があり、技術賞、教育賞、努力賞が授与された。課員の報告内容は、技術課業務報告集として編集している。

(3)班長会、係長会、施設会の開催

技術課の組織運営は、技術課ミーティング以外に、技術課の企画を立案する班長会を随時、企画案の意見交換を行う係長会を月1回行い、進めている。またセンター(脳機能計測センター、動物実験センター)と共通施設(電子顕微鏡室、機器研究試作室)について、現場の管理業務を把握する報告会を月1回それぞれ行っている。 

8.4 研究活動への技術的支援の強化

(1)生理科学実験技術データベースの作成

技術課員の保有する技術的成果を、所内外で活用してもらうために、技術分野を①動物、②形態、③プロトコール、④実習ビデオ、⑤工作、⑥プログラムに分類したデータベースを作成中で、技術課ホームページで所内に試験公開した。

(2)第18回生理科学実験科学トレーニングコース

研究所主催の標記事業(7月23--27日)に、電気回路・工作・プログラミングコースで、『生理学実験のための電気回路・機械工作“PICマイコンによる温度コントローラとバスチェンバーの作製』をテーマに若手研究者(2名)に指導を行った。また今年度は、受講者の希望のあったテーマ『C言語によるPICプログラミング』を新コースとして立ち上げ、若手研究者(1名)に指導を行った。 

(3)日本学術振興会・科学研究費補助金・奨励研究の申請

研究支援力の強化を目的に、課員が自ら企画して技術開発等を行うために、課員が科学研究補助金等の申請を行うことを積極的に奨励している。2007(平成19)年度は、技術課員27 名が科学研究費補助金・奨励研究を申請し、下記の2課題が採択された。

(1)加藤勝己:実験機材制作時の非金属材料選定指針の検討 
(2)佐治俊幸:マウス・ラット用飲水量連続計測装置の開発

また成茂神経科学研究助成基金に採択され、生理学技術研究会開催経費として活用した。

(4)放送大学研修

技術課員の専門性の向上と研究活動の拡充への対応を進めるため、課研修として放送大学を活用し、下記の科目を受講した。実験科学とその応用(2名)、基礎生物学(3 名)、人体の構造と機能(3 名)、人間情報科学とe—ラーニング(1 名)、精神分析入門(1 名)。

8.5 安全衛生体制の向上

生理学研究所の安全衛生体制は技術課が担当している。安全衛生の基本である毎週 の巡視は、昨年度技術係長3名の第1種衛生管理者の資格取得があり、班長(2名)、 係長(3名)による体制に充実させ、安全衛生推進室を設け、毎週月曜日にその週の巡視内容を確認する安全衛生ミーティングと安全衛生担当主幹との月1回の安全衛生に関する懇談会を行い、体制の向上を図った。今年度の巡視では、耐震対策を課題として、ガスボンベ立てと保管庫等の固定を進めた。また職員の安全衛生への意識を高めるために安全衛生講習会(7月13日)を開催し、特に地震防災の理解を深めるために岡崎消防署担当相者による講演を行った。安全衛生推進室のホームページの開設、危機管理マニュアル等の作成を行った。

技術課員の安全衛生に対する認識を深め、実務を担当するために技術課員の資格取得等を計画的に進めた。

(1)資格取得

①第1 種酸素欠乏危険作業主任者技能(1名)

(2)労働安全衛生に関する情報交換会

核融合科学研究所・技術部で行われた情報交換会(3月12日、3名)に参加し、大学等で実施されている安全衛生の事例が研修できた。      

8.6 自然科学研究機構の連携事業

(1)岡崎3機関技術課長会

岡崎3 機関の技術課の活動等の意見交換会を月1 回、3 研究所技術課長、岡崎統合事務センターの総務課長、施設課長を交えて行った。

(2)核融合科学研究所・国立天文台・岡崎3 機関技術会議

核融合科学研究所(技術部長)、国立天文台(技術職員会議代表)、岡崎3機関(技術課長)による各機関の動向、企画事業等の意見交換を各機関持ち回りで月1回開催した。

(3) 自然科学研究機構の技術組織の連携事業である第2回自然科学研究機構技術研究会を、分子科学研究所で、21演題、参加者100名で行った(6月25、26 日)。またその報告書を刊行した。各機関の技術職員の業務の内容の理解が進んだ。次回は核融合科学研究所である。

8.7 大学等と連携による新たな技術拠点形成

大学等の技術職員との技術交流も、大学での技術職員の組織化、技術組織の確立と技術支援業務も高度化されなか、奨励研究採択課題の発表による大学との新たな技術拠点形成を進めるとともに、東海北陸地区の技術職員で進められている技術研修拠点形成への支援も進めた。

(1)第30回生理学技術研究会・第4回奨励研究採択課題技術シンポジウム

第30回生理学技術研究会を基礎生物学研究所技術課と合同(2 月14--15日)で30周年記念講演(1 題)、ポスター発表(40 題)、口演発表(8 題)、参加者120 名で行い、課内から7題発表した。また第4回奨励研究採択課題技術シンポジウムを口演発表(12題)、参加者60 名で行い、課内から2題発表した。この会の開催経費の一部を成茂神経科学研究助成基金から助成を受け、特に女性技術職員演題公募からの発表者の招聘経費に活用した。また奨励研究採択者の名簿を作成し、技術研究会参加の拡大に努めた。また岡崎商工会議所を通して地元企業へも研究会案内の送付を行った。

(2) 東海北陸地区技術職員合同研修:

東海北陸地区では大学の技術職員の連携と技術組織の確立を進めるために、研修会の研修企画と実施を大学等から推薦された技術職員で進めているが、本年はその研修会が浜松医科大学で生物・生命コース(9月5--7日)、静岡大学で情報処理コース(9 月25--27日)があり、課からそれぞれ1名が受講した。岡崎3 機関は来年度(平成20年度)に開催を担当する。

8.8 地域企業との連携事業

岡崎商工会議所では岡崎地域のものづくり事業の活性化のために、岡崎ものづくり推進協議会を設け、産学官連携活動を推進しているが、昨年度はセミナーを開催したが、こうした活動は分子科学研究所技術課でも行われており、分子科学研究所で行われた見学交流会(10月2日)に課からサイエンスパートナー・産学連携部会が参加し、また生理学技術研究会と岡崎商工会議所ものづくりフェアへの相互案内を行い、連携を引き続き行った。

8.9 課題

(1)技術課は、課長、班長、係長、主任、係員の職階制と研究系に対応した技術係で構成 されているが、研究体制の拡充、改編、研究部門の明大寺・山手両地区への分離により、技術係の無い研究系が現れ、従来の研究系単位で構成された技術係が機能しなくなっており、研究活動の実情に応じた技術係の再編と技術係の名称の見直し、職階制特に係長の位置づけの見直しによる業務遂行の明確化が必要となっている。また技術課長は事務センターとの調整業務、また技術班長は部門業務を抱えての研究所、課業務をこなしており、技術課長、班長の専任業務の検討も合わせ必要となっている。

(2)研究体制の流動化、高度化、多様化の中で、技術職員の配置も適材適所が一層重要となっている。これまで技術職員の配置換えは、研究体制の新設や改編、部門責任者の異動、技術職員の1研究部門2名配置から1名体制により行われてきたが、そうした方法による配置換えも、技術職員の異動が研究教育職員のような公募体制のないなかでは、固定化しがちであり、また既籍者を異動させるにしても、本人の専門性と研究部門が必要とする専門性と合わない事例が多くなっている。こうした事例は大型実験動物を扱う研究部門や施設に見られる。こうした実情を見るとき研究所に技術職員必須の教育研修制度を設け、採用ばかりに頼らない人材養成が必要である。また技術職員の平均年齢も上がっており、そうしたことを踏まえ組織運営が必要となっている。

(3)職員の給与は、勤務評定に基づいて決められる。課では、その評定を、技術課業務報告会での課長と係長以上の職階者による業務評定及び技術課長が作成した『業務目標・設計・評価表』による業務の課員各自の自己評価により行っている。また今回の技術課業務報告会に所長等に出席を求め、業務の講評を受けたが、このような講評の評定への反映方法など、技術職員の多種多様な業務の一律の評定が難しいなかで、より公平に評定する方法の検討が必要になっている。

(4)生理学研究所の研究支援体制は、技術課以外に、研究部門に配置され、技術課員とともに、技術補助業務に従事する技術支援員(20人)と研究所の経理や共同研究、研究会の事務を行う事務支援員(12人)にも支えられている。こうした非常勤職員の労務問題を今年度から研究総主幹のもとで進める体制整備が行われ、現在、高齢者雇用のあり方について検討が必要となっている。

(5)研究所の管理体制は事務センターにより支えられている一方で、事務センターと生理 学研究所との地政学的距離から技術課長はその代行役として、また両者の調整役と位置されている。こうした代行役を軽減するために岡崎3機関技術課長会に総務、施設両課長にも参加を依頼し、意見交換を進めているが、研究所の内情をよく理解したものでしか進められない業務も多く、やはり、技術課長を支える課内体制の整備が必要であり、技術課長の本来の位置づけの検討も必要である。