9 基盤整備

9.1基盤施設

研究所の研究基盤には様々な施設・設備があり、それらの設置、保守、更新にはいずれもかなりの財政的措置を必要とするため、基盤整備の計画は長期視点をもって行なわれなくてはならない。特に近年は全国的に建物関係の基盤整備が耐震改修に重点が置かれているため、研究の進歩にともなった施設整備が不十分にしか行なわれていない傾向がある。 今年度も、研究所の研究基盤に係わる問題点を、1. 老朽対策、2. スペースマネジメント、3. 中長期施設計画、4. ネットワーク設備、5. 省エネルギー、6. その他、の観点から報告し、今後の整備計画に資したい。

1. 老朽対策

明大寺地区には研究実験棟、超高圧電子顕微鏡棟、共通棟 Ⅰ(電子顕微鏡室)、共通棟Ⅱ (機器研究試作室)、動物実験センター棟、MRI 実験棟があるが、これら棟は築後25年を越え、建物、電気設備、機械設備、防災・防火設備も経年劣化により、大型改修または機器の更新が必要になっている。山手地区は築後5年ではあるが、維持保全のため、精密点検と整備が必要となっている。

①建築全般:

建物に関わることでは、地震に対する耐震補強と雨水の浸水、漏水がある。前者は、施設課による1981(昭和56)年に制定された新耐震基準により耐震診断調査が行われ、岡崎3 機関には耐震補強を必要とする建物が一部にみられるため、その耐震補強を、1. 早急に、2. 優先的に、3. 計画的に、に3分類し、その耐震補強と改修が基礎生物学研究所から始まっているが、生理学研究所関連では明大寺地区研究実験棟が、3.の“計画的”に分類され、順次耐震補強と改修が進められる事になっている。(実際の工事は2〜3年後に開始される見通し。)後者については、明大寺地区研究実験棟の側面壁からの浸水が強雨の時には起きやすく、その浸水が実験室で時に見られたりする。こうしたなかで生理学研究所の玄関に雨水排水溝劣化による漏水があり修繕を行った。建物劣化によるこうした問題が、今後も増加すると思われる。その場合にはその工事費の支出が大きいだけに費用の確保が引き続き問題となっている。今年度の新たな問題は、築後まだ数年の山手地区においても強雨による機器増設用のスリーブ等からの浸水が見られたことであり、建物の調査が進められた。

②電気設備:

電気設備においては、非常用パッケージ発電機の更新計画がある。この自家用発電装置は動物実験センターの飼育環境の維持や研究部門の試料保存用ディープフリーザー(超低温冷凍庫)等の停電時の緊急用電力供給を行うもので、先年装置の故障が起き、応急処置により、現在も、稼働させている状態で、いつまた再故障が起きてもおかしくない状態である。概算要求を通して早急な更新を計画している。  

それに関連してこの発電機による自家発電系統(G回路)への接続機器はこれまでディープフリーザー等に限られていたが、研究現場によっては、停電時に電力供給を必要とするレーザー機器の発信器のような特殊な機器も増えている。こうした事態に対して既存の系統の融通で対処している。また山手地区では分子、細胞レベルの研究が主をなしている事もあり、ディープフリーザーの保有が増えたことによる自家発電機による停電時の電力供給の容量越えがおきており、接続機器の制限が必要となっている。

こうした設備の他に、施設課の管理下で実験棟地階の変電設備の精密点検と更新が5ヶ年計画で進められているが、この経費も大きな負担となっている。  

③機械設備:

各実験室には、空調機(一般空調機とパッケージ型空調機)、給水、給湯、ガス、吸引、冷却水、純水(イオン交換水)、排水の配管が必要に応じてなされている。特に一般空調機は、居室を含め研究実験棟だけで300 基近くが設置されている。これまでは基幹整備により順次交換されてきたが、現在そうした整備計画も頓挫したままで、経年劣化による故障修理と部品供給の停止による一式全交換が、今年度合わせ14基(全交換 6基、修理 8基)が起き、更新と修理をそれぞれ2基行い、その他は保留としている。こうした経費の支出は、大きな負担となっている。また、パッケージ型空調機(15 基)は、創設時、恒温実験室用として設置されたが、実験機器の改良もあり、こうした室での実験も減少し、今では室の狭隘、利用の障害、不便さのもとになっていることが多い。これらの空調機を天井埋め込み型に更新する必要があるが、その経費も大きく、思うように進まない状況にある。

山手地区の空調システムのうち、オープンラボの実験・研究ゾーンに係るマルチシステム空調機の故障が去年と今年で数件発生した。マルチシステム空調機とは、複数台の室内機が1台の室外機に対応する空冷の空調機である。そのため、施設課と空調機メーカーや施工業者で原因究明のための調査を実施したが、明確な原因把握には至らなかった。メーカーの保証期間も過ぎていること、今後も突発的な故障が考えられること、更には空調機の稼動状況によって、寿命からくる故障も考えられることなどから、継続的な修理経費の支出が考えられ、大きな負担となってくることが懸念される。

この他にも、山手地区にはSPF動物飼育施設など年間を通じ稼動している空調機も数多く、稼働率が高いため劣化が進行し、機器寿命が早まるのが心配される。日常の予防保全に努め、フィルター清掃やグリースアップ、Vベルトの交換等、こまめなメンテナンスにより寿命を延ばすことが重要である。

研究実験棟には各種の配管が全館にくまなく張り巡らされているが、配管漏れや詰まり等の障害が生じた時の対処的な修理の他に、特に給水や冷却水を循環させる稼働ポンプの経年劣化もおおきな問題になってきている。新規交換による安定稼働が必要となっている。その他の設備として、実験棟には低温室を2室設けているが、今年度その1室の扉が腐食化により交換を余儀なくされた。こうした設備については年次的な交換計画が必要となっている。  

④防火設備:

建物の防災・防火設備として自動火災感知器、防火扉、消火栓、消火器、非常照明、非常口誘導灯が備えられている。これらは事務センター・施設課およびエネルギセンターにより毎年定期的に点検整備され、維持管理されているが、今年度消火栓の給水管から経年劣化による漏水があり、こうした設備の劣化も進んでおり、修繕が必要となっている。

2. スペースマネジメント

研究活動の変化に対応した円滑な利用とその効率的な活用が実験室使用に求められているが、岡崎3機関は施設整備委員会を設け、室の効率的な利用を進めている。それに当たり、室の種類、使用人数、使用用途、使用設備、使用者の使用満足度等をWeb上で随時入力できるNetFM施設管理システムを導入し、室の状況のデータベース化から問題点の把握と改善の対応が進められている。こうした結果から、大学院生室(2室)の整備があった。またNetFM施設管理システムにより、使用者からの要望を汲み取りやすくなり、施設整備の年度計画も立てやすくなっている。

3. 中長期施設計画

岡崎3機関では、施設整備委員会のもとに長期計画検討作業部会を設け、長期計画の基本方針と具体的な施設計画を検討しているが、生理学研究所は、その部会に、ヒトを含む霊長類の非侵襲的脳機能計測とMRIを用いた分子イメージングの研究を推進するために実験棟地階実験室の大規模改修、マウスの全館SPF化と霊長類実験を推進するために明大寺地区動物実験センター(機器研究試作室を含む)の大規模改修と改築の計画を提出し、新たな研究活動に対応した基盤整備を目指している。

4. ネットワーク設備

インターネット等の基盤であるネットワーク設備は、研究所の最重要インフラ設備となっている。ネットワーク設備の管理運営は、岡崎3機関の情報ネッワーク管理室を中心に、各研究所の計算機室が連携し、管理運営に当たっている。生理研では脳機能計測センター・生体情報解析室の技術課職員2名が、ネットワークの保守、運用などの実際的な業務を担当している。

ネットワークのセキュリティに関しては、岡崎3機関で共通の対応がなされ、接続端末コンピュータの管理、ファイアウォールの設置、アンチウイルスソフトの配布、各種プロトコールの使用制限などの対応がとられている。

下記が現在の問題点で、機能増強は見送り機能の現状維持を基本に対応せざるをえない。機器、設備の更新、人員の増強が必要となっている。

  1. ネットワークの増速ができない。PCは通信速度1 Gbps対応にもかかわらず、提供しているネットワークは100 Mbpsで10分の1の速度にしか対応していない。これには、2001年度に導入した岡崎3機関で100台を超えるエッジスイッチの更新と、1995年度に導入した100Mbpsまでしか保証できない情報コンセントの改修工事を必要とする。
  2. 6年間24時間運転してきたネットワーク機器の故障率の増加。
  3. 無停電電源装置の電池寿命により瞬時停電に対応できない。
  4. ハードウェア、ソフトウェアのメーカーサポート打ち切り。サービスを停止しないように内部措置にて更新を行っている。
    2006年度:Anti Virus、ネットワーク監視ソフト:2007年2月に更新運用開始
    2007年度:メールサーバ等ワークステーション: 2007年度末に運用開始予定
    2008年度:ファイアウォール機器
  5. 保守すべき機種の増加、新旧機器の協調的運用による新旧機器混在ネットワークの保守作業の増加。
  6. ネットワークインフラや情報量の拡大、ウイルスやスパム等の脅威の増加、これらの対応機器導入等による運用人員不足。

5. その他

上記以外の基盤整備として、明大寺地区の動物実験センターでは、実験室のSPF化、冷水ポンプ等の修繕、地下飼育室の改修、耐震補強、山手地区の実験動物センターでは冷却水用補給水の配管修繕が行われた。また実験棟2階の旧RI室を行動・代謝分子解析センター・行動様式解析室として使用するために空調機の整備が行われた。

9.2 電子顕微鏡室

電子顕微鏡室は、生理学研究所と基礎生物学研究所の共通実験施設として設置され、各種電子顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡、生物試料作製のための実験機器、写真処理・スライド作成に必要な機器が設備され、試料作製から電子顕微鏡観察、写真処理・作画までの一連の過程が行えるように考えられた施設である。電子顕微鏡室は検鏡室、顕微画像解析室、試料作製室、暗室、写真作画室に大別される。明大寺地区(共通施設棟Ⅰ地下電子顕微鏡室)には透過型電子顕微鏡が3台、走査型が1台あり、共焦点レーザー顕微鏡(正立)が1台ある。山手地区(山手2号館3階電子顕微鏡室)には透過型電子顕微鏡が6台設置され、研究目的に応じて利用できるようになっている。

電子顕微鏡の利用率については、3年ぐらい前からよく利用される装置と利用されない装置とに分かれ、利用される装置については利用率の高いときで150時間を越え、使用フィルム枚数も780枚を上回る。利用されない原因は、装置の老朽化と地区による利用部門の偏りがある。電子顕微鏡室で利用申請される年間の研究の総件数は、ここ2年間の平均で43件である。うち30は機構内、7件は国内の大学・研究所で、残り6件は国外の研究者のものである。

電子顕微鏡室の予算が平成15年度から削減されたことに伴い、保守契約費を切り詰め、4台保守契約していたものを2台に減らし、その内容も年2回から年1回の点検とした。また、両地区で1台ずつ保守契約を行っている装置があるようにした。保守契約をしていない装置については原則として部品を取り寄せて自前で交換するようにしている。機器の増設については、利用部門からの設置により充実を図っている。最近では、CCDカメラ付きの電子顕微鏡の設置が上げられる。

昨年度、電子顕微鏡室として問題点を以下の3点上げた。技術職員が1名であるため、山手地区と明大寺地区を往復する為連絡がとりにくく、即時に対応ができない。記録装置のCCDカメラ(2000×2000ピクセル以上)化が必要である。走査型電子顕微鏡が老朽化していて、明大寺地区にしかないため、1台設置すべきである。

しかし、どれも解消されていない。それは、利用者数が年々減少の傾向が見られ、研究課題の中心的役割となっていないことが考えられる。これらを、解消するために、平成19年2月--3月に電子顕微鏡講習会(計9名の参加)を行ったが、さらに継続して電子顕微鏡講習会を開き、処理過程の自動化、マニュアル化を行い、利用における敷居を低くして、利用者を増やす必要がある。

9.3 機器研究試作室

機器研究試作室は、生理学研究所および基礎生物学研究所の共通施設として、生物科学の研究実験機器を開発・・試作するために設置され、1981(昭和56)年5月に洗浄室(地下)とあわせて共通施設棟Ⅱとして完成した。当施設は、床面積400 m2で規模は小さいが、生理学・医学系大学の施設としては、日本でも有数の施設である。最近の利用者数は年間延べ約1,000人である。また、旋盤、フライス盤、ボール盤をはじめ、放電加工機、切断機、横切盤等を設置し、高度の技術ニーズにも対応できる設備を有しているが、機器の経年劣化を考慮して、今後必要な更新を進めていく必要がある。使用する材料は、金属、プラスチック、木材、ガラス、セラミック等と多種類にわたっている。これらの資材の置場および物置を有し、ゆとりのある作業スペースで効率良い作業を可能にしている。

しかし技術職員数は近年非常に限られているため、1996(平成8)年4月以降は機械工作担当技術職員一人で研究支援を行っており、十分に工作依頼を受けられないという問題を抱えている。そこで、簡単な工作は自分でと言う観点から、『ものづくり』能力の重要性の理解と機械工作ニーズの新たな発掘と展開を目指すために、当施設では、2000(平成12)年度から、医学・生物学の実験研究に使用される実験装置や器具を題材にして、機械工作の基礎的知識を実習主体で行う機械工作基礎講座を開講している。これまでに100名を超える参加があり、機器研究試作室の利用拡大にも効果を上げている。2007(平成19)年度も、安全講習と汎用工作機械の使用方法を主体に実習する初級コースと応用コースの二コースを開講し、二コース合わせ生理研7名、基生研2名が参加した。講習会、工作実習や工作環境の整備の成果として、簡単な工作は自分で工作する人が多くなり、ここ数年事故も起こっていないことが挙げられる。

また、生理学研究所では、山手地区に移転した研究室のために、2005(平成17)年4月に工作室を開設し、利用者のための安全及び利用講習会を、毎年機器研究試作室が依頼を受けて実施したり、工作室点検維持の補助を行っている。

最近では、実験手法が変化し、金属材料を使用できない装置や器具も多々あり、情報のあまりない樹脂材料等についての特性についても調査を開始しており、準備が整い次第、順次ホームページの機械工作に関する知識を情報開示していく予定である。

9.4 伊根実験室

生理学研究所伊根実験室は,生理学研究所の付属施設として京都府与謝郡伊根町に1986(昭和61)年に開設された。海生生物を用いた生理学の研究を目的とした臨海実験室として,ユニークな施設である。従来はヤリイカを中心としたイカ類を用いた神経生理学の研究に利用されてきた。現在,ゲノム解析がされた尾索動物や動物性プランクトンの生理学実験にも使用されている。

実験室は若狭湾国定公園と山陰海岸国立公園の境目の丹後半島北西端に位置する。宮津天橋立方面を望む実験室は伊根湾外湾に面し,水質の良い海水に恵まれており,実験室前の海は豊かな漁場となっている。四季を通じて豊富な日本海の海産動物を入手することができ,ヒトデ,ウニ,オタマボヤ,プランクトンなどの採集に適している。

実験室は舟屋で有名な伊根町亀島(旧伊根村)の集落から800 m程離れている。実験室には1階に水槽室,浴室,台所,居室,電気室,2階に電気生理実験室及び準備室,工作室,寝室などが設けられている。生理学研究所の研究者を窓口として施設の利用が可能である(ホームページhttp://www.nips.ac.jp/ine/)。

最近の使用頻度は、下記の表のとおりであり、使用の実績にはあまり大きな変化はない。

年度 2004 2005 2006 2007
利用延べ日数 82 165 66 114
利用延べ人数 19 35   12

課題としては、研究環境の変化による伊根実験室の必要性の低下と老朽化に伴う維持費用の増加があげられる。神経生理学の発展の基礎となったHodgkin & Huxleyの実験はイカの巨大軸索を用いて行なわれた事はよく知られている。イカは人工的に飼育する事が難しく、また神経軸索を材料として用いる場合鮮度が重要なため、伊根実験室は重要な研究拠点であった。しかしcDNAからチャネル蛋白を発現させる技術が一般的になったことも影響し、実験材料としてのイカの重要性は低下し、またイカ神経軸索を用いる研究者数も非常に少なくなっている。海に面した研究所は、海洋プランクトン等の海性生物の研究には必要なものであろうが、生理学研究所のミッションからは外れていると考えられる。また建設後20年を経て建物・施設の老朽化がすすんでいる。使用する研究者数の減少により更に管理は難しくなると予想される。これらの要素を考えると、閉鎖もしくは他大学等への委譲を今後検討していく必要がある。