14 国際交流
14.1 国際戦略本部と国際連携室
生理学研究所を含め自然科学研究機構の各機関は、国際的な研究機関として実績があり、国際交流も盛んに行われている。自然科学研究機構では、機構長、理事、副機構長により構成される国際戦略本部と、その下部に実行組織としての国際連携室が設けられており、これらの組織により機構としての国際交流の推進を図っている。国際連携室は、勝木理事(基生研所長)が室長となり、生理研からは井本教授と永山教授が室員として参加している。国際連携室は、年数回の頻度で会合を持ち、国際連携のあり方及びその具体策の検討を行い、国際戦略ポリシーの策定、国際戦略本部リーフレットの作成、国際交流協定締結に関する手続きの整理等を行ってきた。
国際連携室には、国際アソシエイトという職を設け、協定締結に際する場合などの英文チェックの体制を整えた。このことは文部科学省国立大学評価委員会の年度評価にも取り上げられている。
○ 国際戦略本部は、国際交流協定締結に関する取扱要領を策定し、機構内の国際交流協定に関する情報を一元化する体制を整備した。また、日本語が堪能な英語のネイティブスピーカーを国際アソシエイトとして機構事務局に配置し、各機関における協定締結に必要な支援を行うなど、国際的な研究機関との窓口機能を強化した。
自然科学研究機構は、平成17年度に開始された文部科学省「大学国際戦略本部強化事業」に大学共同利用機関法人として唯一採択された組織であり、この事業の実行にも当たっている。特に平成19年度は中間評価が行われたために、これまでの業務実績報告書の作成等の作業が行われた。中間評価の結果は、「一層の努力が必要」という評価であった。全体的には、20機関の内、「順調に進捗している」が17機関、「一層の努力が必要」が3機関であった。評価の文章をそのまま引用しておく。
機構を構成する各研究所は、もともと強い国際指向性を持っており、それらの活動自体が国際化されていることは理解できる。しかし機構全体としての国際化推進については、新分野創成を目指すという目標に重点があることから、2年間で本事業の具体的成果が見えるまでに至っていないことはやむを得ないものの、残りの事業期間においては、国際化推進のための活動を、シンポジウム開催等に止まらない、具体的な成果につなげることが必要である。この際、各研究所ではなく、機構としての統一的国際戦略が構築・実行されているか再考し、他の機関の参考となるモデルを示せるよう一層の努力を期待したい。また、海外への情報発信のあり方を工夫することも検討されたい。
「大学国際戦略本部強化事業」は、従来の国際研究協力ではなく機構として取り組む事業実績をモデルケースとして求めており、その点でハードルが高かったと考えられる。 今後、本事業としては、ハワイに事業所を有するという特徴を活かし、事務職員等の海外研修などを行う予定である。
14.2 生理学研究所の国際交流活動
生理学研究所の主要な国際交流活動として、まず生理研国際シンポジウムがあげられる。毎年1ないし2回開催され、今年度で37回目となる。生理学研究所の研究教育職員(主として専任教授)が主催し、外国より10-20名、国内からもほぼ同数の当該分野の一流研究者を招聘して行うものである。他の一般参加者はポスター発表を行い、総参加者の平均は100-150名程度に達する。なお、今年度開催シンポジウムの詳細は生理研国際シンポジウムを参照されたい。 国際共同研究も極めて盛んである(国際共同研究を参照)。生理学研究所では常に6名程度の外国人客員研究教育職員の枠を確保しており、これまでにも世界一流の多くの研究者が共同研究を行い生理学研究所に多大な貢献をしてこられた。現在もほとんどの研究室に常に外国人研究者や留学生が在籍しており、近年は総研大に入学して学位を得る研究者が次第に増えてきている。また、研究教育職員あるいは学生の留学も同様に生理学研究所の規模を考慮すれば、非常に多いと思われる。今後、講義、セミナーなどを含む学術活動の英語化が重要な課題である。
今後も上記のような高いレベルの国際交流を継続していくために、研究者あるいは研究室レベルで行われている活動を組織的にサポートすることが重要である。その一助として、研究所レベルあるいは機構レベルで諸外国の大学あるいは研究所全体を対象とした国際交流の枠組みが必要となるだろう。同じ自然科学研究機構内では、国立天文台や核融合科学研究所はその研究の性格上、上記のような国際交流は日常的なものとなっている。岡崎地区では、基礎生物学研究所が近年、EMBL(欧州分子生物学研究所)と緊密な交流を行っている。また機構本部には国際連携室が設置され、協定文のチェック等のサポート体制も整ってきている。生理学研究所としても、研究所の将来構想を明確にして、その実現のために必要な国際交流を行っていかねばならない時期にきている。また大学共同利用機関として、研究者コミュニティーに裨益する国際交流活動を率先して行う必要があり、その具体的な取り組みとして Brain Korea 21に基づく日韓共同研究、日米科学技術協力「脳研究」分野を推進している。
14.3 外国との学術交流協定
Brain Korea 21に基づく日韓共同研究
BK21の一環として昨年度スタートした分子神経生理部門池中一裕教授とDr. Sun Woong との共同研究が、引き続き行われた。Woon Ryoung Kimが2007(平成19)年1月3日から4日まで滞在し研究を行った。池中研究室とDr.Sun研究室との共同研究のテーマは、Control of Programmed cell death and mitochondrial morphology by Bax during embryonic developmentである。
生体恒常機能発達機構研究部門・鍋倉純一教授は、韓国Kyungpook 国立大学歯学部Jang Iison助教授との共同研究で、以下の研究を行った。 対側耳からの音情報を聴覚中経路核外側上オリーブ核に伝達する抑制性終末において、未熟期には代謝型グルタミン酸受容体が発現しており、同側耳からの音情報を伝える経路グルタミン酸入力活動によってヘテロシナプス性にその活動が抑制されている。発達とともに抑制性シナプス終末の代謝型グルタミン酸受容体は発現および機能が消失していくことが共同研究の結果判明した(Nishimaki T, Jang IL,Yamaguchi J, Ishibashi H, Nabekura J (2007) J. Neurosci 26: 323-330)。
また、痛覚中経路脊髄後角細胞において、細胞外カルシウムを除去した条件下で抑制性神経終末を脱分極させると伝達物質の放出が増強した。このカルシウム流入に依存しない伝達物質の放出は、PLCγ、細胞内カルシウムストアー阻害薬および細胞内カルシウムキレーターによって阻害されたため、膜の脱分極による細胞内カルシウムストアーからのカルシウム放出によって起こる新しい伝達物資放出経路である可能性が示唆された。(Ishibashi H, Jang IS, Nabekura J (2007) Neuroscience 146:190-201)そのほか、聴覚中経路における伝達物質のGABAからグリシンへのスイッチングについて、同氏と共同研究を継続している。
14.4 国際研究活動
- 国際学術雑誌での研究発表 (業績リスト参照)
- 国際学会での発表(延べ回数)
- 国内開催 59件
- 国外開催 95件
14.5 生理研国際シンポジウム
生理研が主催する国際シンポジウムは、生理研コンファレンスとして1977年からほぼ毎年1~2回行われてきた。海外からも講演者を招待して行う国際的な会議であることを明確にするために、生理研国際シンポジウムという名称を使用することにした。
第37回生理研国際シンポジウム
Electro-Chemical Signaling by Membrane Proteins: Biodiversity & Principle 膜電位-化学シグナルの新展開:多様性とメカニズム オーガナイザー:岡村 康司(統合バイオ)
4つの国際シンポジウム(総研大国際シンポジウム、生理研国際シンポジウム、阪大蛋白研-統合バイオ連携研究、生理学会サテライトシンポジウム)を兼ねて「膜電位—化学シグナルの新展開:多様性とメカニズムElectro-Chemical Signaling by Membrane Proteins: Biodiversity & Principle」は、自然科学研究機構・岡崎コンファレンスセンターにおいて2007(平成19)年3月14--16日の3日間で開催された。電気情報を化学情報に転換する機構は、エネルギーの産生、神経情報伝達、活性酸素の代謝をはじめとする生命秩序の維持に本質的役割を担っている。ここ数年、イオンチャネルやトランスポーターを始めとする膜蛋白の詳細な動作原理が明らかになり、またゲノム情報との連携により新しい膜蛋白分子群が発見され、細胞膜での電気化学連関機構について新しい研究展開がみられている。特に水素は最も数の多い生体原子であり、その制御はエネルギー産生や生体防御などを始め、生体内環境に本質的な役割を担っている。膜蛋白に関して生理学、構造生物学、細胞生物学、ゲノム科学の複数の分野での研究者を集め、電気化学連関機構に関わる膜蛋白質を中心として学際的融合的な研究・教育の発展を目指した。第37回生理学研究所国際シンポジウム、阪大蛋白研—統合バイオサイエンスセンター「膜蛋白質国際研究フロンティア形成:第2回国際シンポジウム」との共催で行われた。
15名の研究者が口演し、事前登録者150名を含む約200名が参加した(うち企業から5名)。特に参加が多かったのは、阪大蛋白研、京都大学藤吉研究室、名古屋工業大学神取研究室、岡崎統合バイオサイエンスセンターであった。意図したとおり幅の広い研究領域からの参加となり質問や議論も分野の垣根を越えたものであった。ひとつのハイライトは電位センサーの動きに関するセッションで、ここ数年Nature誌などで熱い議論が続いてきた電位センサーの動作原理について白熱した議論が交わされた。1日目、2日目のポスターセッションでは40件ものポスター発表が行われ、また、アメリカナショナルアカデミーの会員でもあるDr. Francisco Bezanilla(シカゴ大学)とDr. Gunnar von Heijne(ストックホルム大学)による特別教育講演も行われた。すべてのセッションで活発な議論が交わされ、特に総研大生をはじめとして学生からの質問が多くなされたのは総研大国際シンポジウムとしても大きな成果であった。
プログラムの詳細は、生理研国際シンポジウムプログラム参照。