15 広報活動・社会との連携

15.1概要

かつては大学や研究所、特に自然科学系の施設は「象牙の塔」とも称され、独立した施設として、世間とは隔絶した存在となっていた。しかし、研究に対する倫理観が厳しく問われるようになり、また血税をもって行われている研究は、当然ながら国民に対する説明責任(accountability)を有している。それはいわゆる「評価」とは別の次元における研究施設の当然の責務である。この点に関しては「広報活動」と「社会との連携」が2つの大きな柱となる。

自然科学研究機構および生理学研究所がどのような活動を行っているかを、一般の方々に広く知っていただく事、すなわち広報活動は、近年非常に重要となってきている。機構では先ずホームページの充実をはかり一定の成果をあげている。さらに「広報に関するタスクフォース」を設置して、自然科学研究機構の存在とそこで行われている研究内容をどのように世間にアピールしていくかを討議している。本年は昨年度パンフレットを作成した「科学技術と基礎技術」と「大学共同利用機関って何?」を 機構ホームページに掲載する際のレイアウトについて検討した。さらに、自然科学研究機構の紹介パンフレットのみならず他の4機構パンフレット作成にも関与した。

岡崎地区では、生理学研究所は他の2研究所と共に市民向けの広報誌「OKAZAKI」を年4回発行し、岡崎地区3研究所の活動をわかりやすく説明している。既に発行開始後6年近くが経過し、岡崎地区の皆さんにも広く知られるようになってきた。

15.2 生理研での取り組み

生理学研究所独自の広報活動を組織的に推進するため、本年度より、広報展開推進室を設置した。その目的は、

『人体の機能とその仕組みを解明する学問としての生理学を研究する生理学研究所から、社会へ向けた適切な生理学研究・教育情報の発信を企画・遂行すること。WEBサイト・ 出版物・シンポジウムなどを通じての情報発信、ならびに人体生理学についての教育・啓蒙などをおこなう。』

ことである。室長(学術情報発信担当主幹・教授)のもと、専任准教授1名、技術職員1名、事務補佐員1名で構成される。専任准教授の赴任(2007年10月1日)より、実質的な活動を開始し、分散して行われてきた広報・社会との連携にかかわる業務を一本化しつつある。具体的な業務内容は以下のように、極めて多岐にわたる。

  1. ホームページの管理・維持
    各研究室の紹介はもちろん、最新の研究内容の紹介、総合研究大学院大学の紹介と大学院生の入学手続きに関する情報、人材応募、各種行事の案内などを行っており、最近はポスターや雑誌での広告などに比して、はるかにホームページを利用しての生理学研究所へのアクセスが増加しており、2004年度に年間1,000万件を超え、さらに増加し続けている(図1)。

    図1. 過去10年間に生理学研究所ウェブサイトへのアクセス数は急激な増加を示している。ここでは年度毎のSuccessful requestsの数を示した(単位は万件)。2007年度の数値は、4月から11月までの数値からの予測値。
  2. 施設見学依頼の受付
  3. 研究成果のデータベース化とWEBによる発信 
  4. 年報・要覧・パンフレット作成
  5. 外部向け「せいりけんニュース」発行
    2008年1月より新たに一般広報誌「せいりけんニュース」を創刊し、7,000部を市内の小中学校や高校、さらに文部科学省や関連諸施設、全国の大学や研究機関に配布した。2008年度も隔月で発行予定である。
  6. 内部向け「せいりけんニュース」掲載情報の自動メーリング配信 
  7. 機構関係者への定期的情報提供
  8. 機構シンポジウム対応 
  9. 人体生理学教育パートナーシップ共同利用プラットホーム
  10. 岡崎3機関広報誌OKAZAKI編集
  11. 岡崎医師会等地域との連携
  12. メディア対応(新聞・TVなどの取材、記者会見など)
    2007年10月の准教授着任時より、地元岡崎市政記者クラブにて、所長の定例記者会見(隔月)ならびに臨時記者会見を開始した。これによって、10月以前は月平均2.2件だった新聞報道も、10月以降、月平均9件にまで新聞報道数が急速に増加した(図2)。

    図2. 新聞発表の件数。 広報展開推進室の発足により、新聞発表が恒常的となり、その数も飛躍的に伸びている。
  13. 機構広報連絡会への参加
  14. 機構内他研究所一般公開への協力
  15. 岡崎地区3機関アウトリーチ活動委員会への参加
  16. 研究所一般公開の開催

15.3 社会との連携

社会との連携について、今年は以下のように様々な方法で社会との連携を行った。

施設見学受入一覧(平成19年度実績)
見学者(団体)名 人数(人) 見学日 備考
1 愛知教育大学 31 5/9  
2 岡崎市役所 5 6/7 山手地区
3 下石陶磁器工業組合(核研) 42 7/18 山手地区
4 豊田西高等学校 3 8/7 職場訪問(生-山手地区)
5 岡崎市立六ツ美中学校 2 8/20~21 職場体験
6 KBSI所長 3 10/5 国研で対応
7 愛知県警  2 11/12 施設視察
8 岡崎市立六名小学校 6 12/11 職場体験
9 科学技術振興機構 2 2/5 施設視察
10 光が丘女子高等学校 36 2/13 施設訪問
11 浜松地域テクノポリス 60 2/15 「ものづくり」見学会
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生理学研究所講師派遣等一覧
年月日 事項 場所 職種 氏名 テーマ
19.2.15 岡崎市出前授業 下山小学校 教授 箕越靖彦 食べた物は体の中でどうなるの —体の不思議な働き—
19.11.26 医師会講演会 生理研 教授 鍋倉淳一 脳機能の発達と回復 -神経回路の再編成-
20.2.5 第92回国研セミナー 生理研 教授 鍋倉淳一 脳回路の発達変化
20.2.5 岡崎市出前授業 東海中学校 教授 深田正紀 細胞の動く仕組み

主催講演会等
年月日事項場所テーマ参加者数
19.5.19世界脳週間2007(愛知県岡崎地区)講演会岡崎コンファレンスセンター脳研究者達の道 —私が歩んできた道、歩んでいる道—134人
20.1.12第1回 せいりけん市民講座岡崎コンファレンスセンターリハビリテーションの科学 --脊髄損傷や脳梗塞と、脳の働き--85人

15.4 世界脳週間 2007 講演会 「脳研究者達の道」

「世界脳週間」とは、脳科学の科学としての意義と社会にとっての重要性を一般に啓蒙することを目的として、国際脳研究機構が世界的な規模で行っているキャンペーンである。日本では、「脳の世紀実行委員会(現・特定非営利活動法人 脳の世紀推進会議)」が主体となり、高校生を主な対象として2000年より参画してきている。

2007(平19)年度の 「世界脳週間」 岡崎地区講演会は、脳の世紀推進会議と生理研の主催で、5月19日(土)、岡崎コンファレンスセンターにて開催された。今年度は、「脳研究者達の道 -- 私が歩んできた道、歩んでいる道 --」 と題して、所長挨拶に続き、5題の講演が行われた。

松井広(生理研・脳形態解析)は、数理的に精神・脳を理解することを目指して、心理学分野から現在の道を選んだことと、研究者の日常について、講演した。東島眞一(統合バイオ・神経分化)は、陸上競技に明け暮れていた学生時代から一転して、脳研究に打ち込むようになった道について講演した。新間秀一氏(阪大・院理)は、素粒子物理から質量分析顕微鏡を用いた脳研究へという大胆な転身について語られた。宮田麻里子(生理研・神経シグナル)は、基礎研究に強い興味があって脳生理学の道を選んだことと、女性研究者をとりまく現況について講演した。等誠司(生理研・分子神経生理)は、神経内科医と基礎研究者を行きつ戻りつしてきた経緯と、臨床に貢献できる基礎研究を目指したいということを講演した。

多数の高校生を含め134 名のご参加をいただき、活発な質問、討論が行われ、熱気に充ちた会となった。プログラムは以下のとおりである。
挨拶 岡田泰伸 (生理学研究所・所長)
講演1「心理学から脳科学へ」
松井 広 (生理学研究所・脳形態解析・助教)
講演2 「ふまじめ大学生から生命科学研究者へ」
東島眞一 (岡崎統合バイオサイエンスセンター・神経分化・准教授)
講演3 「異端児的研究生活 --素粒子物理学から脳科学へ--」
新間秀一 (大阪大学・大学院理学研究科・ポスドク)
講演4 「それでもチャレンジする私の脳
宮田麻理子(生理学研究所・神経シグナル・准教授)
講演5 「神経内科医と脳研究者の狭間を彷徨って20年」
等 誠司 (生理学研究所・分子神経生理・准教授)