7脳機能計測センター

脳機能計測センターは、機能情報解析室、形態情報解析室、生体情報解析室の3室からなり、各室はそれぞれ核磁気共鳴装置、超高圧電子顕微鏡、2光子レーザー顕微鏡の管理・運用を行っている。これらは、大型機器であったり高度に専門的な管理が必要な機器であったりすることから、共同利用のために全国の大学の研究者に解放され、広く使用されている。毎年、公募されている共同利用実験や一般共同研究を通じて所外の研究者と所内の研究者との共同研究が活発に行われている。また、センターでは所内の共通利用のための組織培養室、ネットワークサービス、生体情報解析システムの運用を行っている。これらの共通業務のほか、各室の准教授、助教はそれぞれ独自の研究テーマを持ち、以下のような研究活動が行われている。

7.1形態情報解析室

形態情報解析室は、形態に関連する超高圧電子顕微鏡室(別棟)と組織培養標本室(本棟2F)から構成される。 超高圧電子顕微鏡室では、医学生物学用超高圧電子顕微鏡(H-1250M型;常用1,000kV)を、昭和57年3月に導入して同年11月よりこれを用いての共同利用実験が開始されている。平成19年度は共同利用実験計画が26年目に入ったことになる。本研究所の超高圧電顕の特徴を生かした応用研究の公募に対して全国(外国を含む)から応募があり、本年度は、中途採択の1件を加えて合計13課題が採択されている。このうち5件は、韓国、米国の外国からの研究者を代表または共同研究者に含む課題であり、それぞれの大学に所属する関係部の長と生理学研究所は学術交流協定を結んでいる。これらは、厚い生物試料の立体観察と3次元解析の研究が主である。超高圧電子顕微鏡室では、上記の共同利用実験計画を援助するとともに、これらの課題を支える各種装置の維持管理及び開発、医学生物学用超高圧電子顕微鏡に関連する各種基礎データの集積および電子顕微鏡画像処理解析法の開発などに取り組んでいる。電子線トモグラフィーによる手法には、UCSD-NCMIRによる方法及びコロラド大で開発されたIMOD プログラムでの方法を用いて解析を進めている。装置は、試料位置で10-6 Pa台の高い真空度のもとに、各部の劣化に伴う修理改造を伴いながらも、高い解像度を保って安定に運転されており、11月の時点で、今年度は共同利用実験として5件の英文論文が報告されている。

組織培養標本室では古家園子助手による「メカノセンサーとしての小腸絨毛上皮下線維芽細胞に関する研究」が発展している。今年度は、小腸絨毛上皮下線維芽細胞の中間系フィラメントの発現がcrypt-villus axis に沿って異なっていることをヴィメンチン、デスミン、a-smooth muscle actinなどの各種モノクローナル抗体やポリクローナル抗体を用いて明らかにした。

7.2機能情報解析室

脳の「意志システム」や「運動システム」を神経回路レベルで解明することを目指して、サルの脳活動を大脳皮質フィールド電位記録法や陽電子断層撮影法を用いて解析する研究を行っている。 その一つが前頭葉シータ波活動についての研究である。シータ周波数領域での神経活動は多種多様な状況で観察される。我々の知識は不十分で、この神経活動の意義を統一的に理解できる段階ではない。それでも現在までに多くの努力がなされ、シータ周波数での神経活動のある種のものがヒトや動物において「記憶」や「認知」や「注意」などと関係しているらしいことが示唆されてきた。ヒトの前頭葉周辺で観察されるシータ波はFrontal midline theta (Fmシータ) 波と呼ばれ、「注意集中」を要求される状況下でしばしば観察される。Fmシータ波は「注意」や「意志」を含む脳の基礎的なメカニズムに関係していると考えられ、その発生領域や発生メカニズムなどの生理学的な基盤の解明が期待されるところである。しかし、ヒトを対象としてそれらを解明することは、侵襲的な実験が限られた状況下でしか許されないために、極めて困難であると考えられる。当研究室では、この難点を克服するために、サルにおけるFmシータ波のモデルの作成を試みた。サルのモデルがあれば、単一細胞記録実験、破壊実験、電気刺激実験、薬物投与実験など種々の手法を用いた研究への道が開けるからである。そして、運動課題を行うサルの前頭前野(9野)と前帯状野(32野)の大脳皮質フィールド電位に認められる特徴的なシータ波は、その周波数分布、空間分布、出現状況の類似性から、ヒトのFmシータ波に相同と考えて矛盾ないことを見出した(Tsujimoto et al, 2006)。サルのこの皮質領域は、先に報告した「やる気」に相関して局所脳血流変化を示す大脳皮質領域とも一致する(Tsujimoto et al, 2000)。この皮質領域が「注意」や「意志」のシステムに関係していると解釈して矛盾ない。現在は、このサルのモデルを用いて、シータ周波数領域での皮質間相互作用について研究を進めている。

7.3生体情報解析室

当室は、2光子顕微鏡室と生理学研究所内の生体情報解析用コンピュータシステム、所内情報ネットワークの維持管理を担当することが任務である。2光子顕微鏡室は、新たな広帯域高出力型の近赤外超短光フェムト秒パルスレーザー、顕微鏡用オートコリレーター、レーザービーム分析装置、及びチャープ補正装置の導入を行った。文部科学省科学研究費補助金や科学技術振興機構産学共同シーズイノベーション事業等の支援を受け、生物個体in vivoイメージング用正立型2光子顕微鏡システムを生体恒常機能発達機構研究部門と共同開発を継続した。これらの成果から、平成19年度文部科学省科学技術週間写真展「科学技術の「美」」への出展品が表彰を受け、毎日新聞(平成19年11月2日尾張版、三河版)に記事が掲載された。またカルシウム依存性細胞機能の可視化解析についても研究を進め、特に、開口放出関して新たな知見を得ることに成功した。これらの成果は、

Hatakeyama H, Takahashi N, Kishimoto T, Nemoto T & Kasai H(2007)Two cAMP-dependent pathways differentially regulate exocytosis of large dense-core and small vesicles in beta cells. J Physiol 582:1087-98.

Wei C, Nagai T, Wei W, Nemoto T, Awais M, Niwa O, Kurita R & Baba Y(2007)New advances in Nanomedicine: Diagnosis and Preventive Medicine. Med Clin N Am 91:871-879.

等に報告した。バイオ分子センサープロジェクトの支援を受け、基礎生物学研究所とマウス胚発生の身体左右差決定過程においてCa2+波動の存在を実証した。機構内連携プロジェクトの支援を受け、生体恒常機能発達機構研究部門、分子科学研究所、基礎生物学研究所と共同して新たなレーザーバイオロジーの可能性の検討を開始した。また、関西医科大学、名古屋大学、九州大学との共同研究においては、免疫細胞機能や開口放出の分子機構の解明を進めた。ソニー(株)との共同研究も開始した。また、生理学研究所、基礎生物学研究所、分子科学研究所を横断して若手研究者の参加を募り、月に1回程度の定期的なバイオイメージングセミナーを主催した。