8行動・代謝分子解析センター

8.1遺伝子改変動物作製室

遺伝子改変動物作製室では、ラットにおける遺伝子改変技術の革新、遺伝子改変マウスを用いた脳機能解析を推進すると同時に、これら発生工学技術の提供も行っている。遺伝子改変ラット作製技術に関しては、未だ報告の無いノックアウト(KO)ラットの世界で初めての作製を目指し、精原細胞株を用いて技術開発を行っている。加えて、トランスジェニック(Tg)ラットの高度化にも取り組み、現在まで数多くのTgラットを作製している。遺伝子改変マウス作製技術、とくにKOマウスにおいては、ターゲティングされた遺伝子を生殖細胞にまで伝えたキメラマウスの作製に成功している。以下に2006年に発表した論文6編のうち代表的な1編を紹介する。

Hochi S, Watanabe K, Kato M & Hirabayashi M (2007). Live rats resulting from injection of oocytes with spermatozoa freeze-dried and stored for one year. Mol Reprod Dev (in press).

フリーズドライ (FD) マウス精子の卵細胞質内顕微注入 (ICSI) による産仔作出が報告されて以来、ウサギとラットにおいてもFD精子由来の産仔が得られている。しかし、長期間に渡って顕著な産仔率の低下なしに精子のFD保存ができているのはマウスのみである。そこで、真空度を段階的に制御できる凍結乾燥機を用いてFDラット精子を調製し、1年間異なる温度で保存した後にICSIして産仔作出を試みた。対照区の凍結融解精子をICSIした場合、79%の正常受精率、63%の卵割率、36%の産仔発生率が得られた。FD後の保存温度によって正常受精率に大きな違いは認められなかったが、卵割率は+25℃、+4℃、-196℃保存区でそれぞれ、1、38、36%、産仔発生率はそれぞれ、0、7、14%になり、+25℃保存区での成績低下が顕著だった。FD精子を+4℃と-196℃で保存した場合の産仔発生率には有意差は認められなかった。一方、ICSI卵子の染色体異常 (切断型) の発生頻度は+25℃、+4℃、-196℃保存区でそれぞれ、100、65、35%だったが、凍結乾燥行程を省いた凍結融解精子をICSIしたときも41%の卵子に染色体異常が認められた。以上、冷蔵庫温度 (+4℃) で長期保存したフリーズドライラット精子が正常な産仔発生に寄与できることを証明した。

図. 凍結乾燥ラット精子をICSIした卵子に見られた染色体異常像. (A) 染色体軽度断片化像 (矢印)、(B) 精子由来の重篤な染色体異常像 (上)、卵子由来の正常な染色体像 (下).