5 機構内研究連携

5.1 分野間連携研究事業「バイオ分子センサーの学際的・融合的研究」

2005(平成17)年度に発足した本研究授業は4年目を迎え、バイオ分子センサーの基礎的・多次元的研究を、自然科学研究機構内の各研究所の研究者間の分野連携的な個人提案型計画共同研究を中核にして展開し、これを基礎にして全国の大学や研究所や民間研究機関、更にはマックスプランク研究所やウズベキスタン国立大学などの外国研究機関との学際的共同研究を進めた。そして、岡崎3研究所及び岡崎統合バイオサイエンスセンターの研究者が精力的に解析しているセンサーであるNa+センサー、温度センサー、浸透圧センサー、容積センサー、グルコースセンサー、侵害刺激センサー、アミノ酸レセプターなどのセンサー膜タンパク質を中心に、FRET法、パッチクランプ法、二光子レーザー顕微鏡法、免疫電顕法、動物行動解析法など多彩な技術を駆使して、これらのバイオ分子センサーの構造と機能に関する研究を分野間連携的に展開した。

生理研からは、岡田泰伸所長(機能協関研究部門)、井本敬二教授(神経シグナル研究部門)、永山國昭教授(ナノ形態生理研究部門)、重本隆一教授(脳形態解析研究部門)、鍋倉淳一教授(生体恒常機能発達機構研究部門)、箕越靖彦教授(生殖・内分泌系発達機構研究部門)、富永真琴教授(細胞生理研究部門)がコアメンバーとなり、基礎生物学研究所 野田昌晴教授(統合神経生物学研究部門)、分子科学研究所 宇理須恒雄教授(生体分子情報研究部門)も加わって研究を推進した。研究推進のために数名の特任助教を採用した。

2008年度は、本連携研究推進の研究課題を機構内研究者(共同研究も含めて)から主に設備備品補助を目的として公募を行い、以下の16件を採択して研究を推進した。

また、本連携研究に関わる若手研究者(特任助教、博士研究員、大学院学生)の育成に必要な消耗品費、旅費の支援を目的として公募を行い、以下の7件を採択して研究を推進した。

加えて、本連携研究推進に関連する国際共同研究推進のために、外国人研究員招聘の公募を行い、以下の3件を採択した。本連携研究推進に関連する国際共同研究推進のために、外国人研究員招聘の公募を行い、以下の3件を採択して研究を推進した。

平成20年10月6,7日に岡崎カンファレンスセンターで「センサーの不思議:分子から個体まで」と題したレクチャーコースを開催し、以下の10人の機構内外講演者によるレクチャーの後、活発な討論を行った。(総参加者78名)。

平成20年7月28日-8月1日に岡崎で開催された第19回生理科学実験技術トレーニングコース「生体機能の解明に向けて--分子・細胞からシステムレベルまで--」で、以下の3つのコースを支援した。

「バイオ分子センサー連携研究プロジェク」トレクチャーコース
日程:2008年10月6日 - 7日
場所:岡崎コンファレンスセンター
河野憲二(奈良先端大学) 小胞体ストレスセンサーによる異常タンパク感知機構
養王田正文(東京農工大学) 分子シャペロンの変性タンパク質認識機構
山田勝也(弘前大学) 蛍光グルコースとメタボリックウェーブ
柳澤勝彦(国立長寿医療センター研究所) 糖脂質が形成するアミロイド``場''
鵜川眞也(名古屋市立大学) 内耳蝸牛有毛細胞に存在する機械電気変換イオンチャネル候補遺伝子の同定
黄 志力(大阪バイオサイエンス研究所) 睡眠の分子機構を探る
栗本英治(名古屋市立大学) 味覚修飾タンパク質の構造と機能
青野重利(岡崎統合バイオサイエンスセンター) ヘム含有型センサータンパク質によるガス分子センシングとシグナル伝達
前仲勝実(九州大学) 生体防御に関わる細胞表面での多様な分子認識に関する構造生物学的研究
池崎秀和(インテリジェントセンサーテクノロジー) 人工脂質膜を用いた味覚センサー

5.2 イメージングサイエンス

1. 2006年度より、岡崎3研究を中心として分野創成機構連携研究「イメージングサイエンス」が進められている。2008年度は、4件のイメージング関連研究が採択された。「超高圧位相差電子顕微鏡をベースとした光顕・電顕相関3次元イメージング」(代表 永山國昭教授、統合バイオ)、「大脳皮質の分子神経解剖学」(代表 川口泰雄教授、生理研)、「ナノ光イメージング」(代表 岡本裕巳教授、分子研)、「レーザーバイオロジー-生命活動を理解する新しい光技術-」(代表 鍋倉淳一教授、生理研)である。本年度は、この4者の連携として、各分野でのイメージング成果を社会に発信する仕組み作りを試行した。そのため、天文台で先行している「4次元シアター」を4者それぞれの専門領域にまで拡大し、プラズマ-生体-天体という自然階層をつなぐ「自然階層4次元シアター」の構築に着手した。


2. 実施体制(所属・職名・氏名:代表者は◎)
<機構内>
◎ 統合バイオサイエンスセンター・教授・永山國昭 統合バイオサイエンスセンター・助教・Danev, Radostin
生理学研究所・教授・重本隆一
生理学研究所・教授・川口泰雄
生理学研究所・教授・池中一裕
生理学研究所・准教授・窪田芳之
生理学研究所・准教授・小野勝彦
生理学研究所・助教・深澤有吾
生理学研究所・助教・釜澤尚美
基礎生物学研究所・教授・野田昌晴
基礎生物学研究所・助教・新谷隆史

<機構外>
藤田保健衛生大学・教授・臼田信光
浜松医科大学・教授・瀬藤光利
埼玉大学・准教授・金子康子
韓国基礎科学支援研究所(KBSI)電子顕微鏡部・Youn-Jong Kim

3. 光顕・電顕相関イメージング法の創出を行うことがこの連携研究の目的である。この新手法は、生物試料において、同一サンプル同一視野に対し、動態を光学顕微鏡でとらえ、超微細構造を電子顕微鏡で観察することを目指すものである。2008年度は、過去2年間の研究成果の上に立ち、研究を深化させるため次の目標を置いた。
ⅰ)光顕-電顕相関法の手法開発の継続
ⅱ)光顕-電顕相関染色法の応用探索
ⅲ)細胞内蛋白質の同定のための相関法開発と応用
ⅳ)上記標識剤の代謝的細胞内取り込み法の開発
ⅵ)電顕による電位イメージング法の探究。

対応する課題では、以下の研究が進展した。
ⅰ)光顕-電顕相関法の手法開発の継続
光顕染色剤としての本来の性能(光顕染色能)を変えず、電顕コントラストを高めるため、染色剤中に臭素、沃素などの重原子ハロゲンを導入し、更に電顕の高コントラストを追求する。シアノバクテリアのDNA複製と細胞分裂の相関について、光顕-電顕相関法により新知見を得た(永山、Danev、金子)。
ⅱ)光顕-電顕相関法の応用探索
Hoechst33342を用いてシアノバクテリアDNAの高次構造変化につき光顕・電顕相関イメージングを行った(金子、永山)。
ⅲ)細胞内蛋白質の同定のための相関法開発と応用
細胞内蛋白質の同定のため抗体Qdotを用いた相関法開発と神経細胞系への応用を行った(永山、重本、深澤、釜澤)。
ⅳ)標識剤の代謝的取り込み法の開発
ナノ粒子細胞内取り込みによる質量分析イメージングの高解像化を行った(瀬藤)。
Ⅴ)神経系の光顕-電顕相関観察
アストロサイトからのグルタミン酸放出のイメージングを行った(池中、小野)。 位相差電子顕微鏡による神経軸索伸長過程のin vivo観察を試みた(新谷、野田)。 培養神経細胞,脳組織(マウス)を用いた神経活動変化に伴う細胞内外の形態変化の 光顕-電顕相関観察を行った(永山、重本、深澤、釜澤)。
ⅵ)電位イメージング
新しい位相差手法を開発し、実験を試みている。(永山、臼田)

昨年に引続き、イメージングサイエンスのシンポジウムを共催の形で行った。岡崎で毎年開かれる生理研国際シンポジウムは2008年度で39回目を迎える。今年は代表者の永山が世話人となり、“Frontiers of Biological Imaging --Synergy of the Advanced Techniques”を岡崎にて開催した(2008年11月10日~12日)。「イメージングサイエンス」の4つの連携研究からは、永山國昭、岡本裕巳、根本知己、Radostin Danev、窪田芳之、金子康子、臼田信光らが参加した。

5.3 階層と全体

2005年度より、分子研と核融合研を中心として機構連携プロジェクト「自然科学における階層と全体」が進められている。2006年度以降より、「プラズマ系におけるシミュレーション」と「生物系における情報統合と階層連結」との2つの副課題を設定し、それぞれの内容を分担すると共に、研究成果の報告と議論を行う全体の研究会を開催することによってプロジェクトを推進してきた。生理研からは、久保義弘教授(神経機能素子研究部門)と箕越靖彦教授(生殖・内分泌系発達機構研究部門)がコアメンバーとして参加している。

生体機能の成り立ちを理解するためには、各階層において「階層を構成する素子(エレメント)についての理解」から始まり、「階層内でのエレメントの複合体化と情報のやりとりによる機能創出機構」の解明、さらには「上位階層への連結機構」を明らかにすることが必要である。生物・医学分野において、これらの問題はこれまで、各分野における個別の研究に委ねられ、体系的に議論されてきたとは言い難い。本プロジェクトは、これらの問題の解明に必要な各研究分野に共通する基盤を見出し、これを体系化することを最終的な目標とする。

2008年度は、12月16・17日に愛知県蒲郡にてシンポジウムを開催した。このシンポジウムでは、プラズマ系と生物両系に分かれず、全講演をプラズマ・生物両系の共通のセッションとして行い、分野を横断する討論を行った。生理研からは、重本隆一教授(脳形態解析研究部門)、また生理研が推薦した講師として松岡達特定准教授(京都大学大学院医学研究科)、増田直紀准教授(東京大学大学院情報理工学系研究科)が講演を行った。重本教授は「分子動態とシナプス形態から行動変化まで---記憶の長期定着に関わる階層と全体」、松岡特定准教授は「Kyoto Model: 心筋細胞機能の包括的シミュレーション」、増田准教授は「複雑なネットワークの構造・機能」の題目で講演を行った。今回のシンポジウムでは、“ネットワーク”が一つのキーワードとなり、物理、生物系ともに活発な討論が行われた。プロジェクト参加者の間に、「階層と全体」に関する共通の認識が少しずつ作られつつあるように思われる。講演者のリストを下に示す。

自然科学研究機構「自然科学における階層と全体」平成20 年度シンポジウム
日程:2008 年 12 月 16 日-17 日
場所:蒲郡「ホテル竹島
重本隆一(生理研) 分子動態とシナプス形態から行動変化まで---記憶の長期定着に関わる階層と全体
望月敦史(基生研) 神経細胞樹状突起の自己組織的形態形成
中迫雅由(慶応大学) 細胞の空間階層X線イメージングの現在と未来への期待
平田文男(分子研) 生物階層と分子階層の接点:分子認識
木賀大介(東京工業大学) 理論を欲している実験分野としての合成生物学:生命のサブシステムを組み合わせて階層を登る
山本哲生(北海道大学) 塵も積もれば惑星となる
阿部純義(三重大学) Holistic Approach to the Phenomenon of Earthquake Aftershocks
宇佐見俊介(核融合研) リコネクション現象の連結階層シミュレーション
桜井 隆(国立天文台) 天体物理学におけるself-organized criticality
松岡 達(京都大学)Kyoto Model: 心筋細胞機能の包括的シミュレーション
廣瀬重信(海洋研究開発機構) 破壊、摩擦現象の連結階層シミュレーション
Milos Skoric(核融合研) Simulation of Multi -Scale Physics
増田直紀(東京大学) 複雑なネットワークの構造・機能
松下 貢(中央大学) 複雑系の構造、統計、ダイナミクス