6 国際交流

6.1 国際戦略本部と国際連携室

生理学研究所を含め自然科学研究機構の各機関は、国際的な研究機関として実績があり、国際交流も盛んに行われている。自然科学研究機構では、機構長、理事、副機構長により構成される国際戦略本部と、その下部に実行組織としての国際連携室が設けられており、これらの組織により機構としての国際交流の推進を図っている。

また自然科学研究機構は、平成17年度に開始された文部科学省「大学国際戦略本部強化事業」(平成21年度までの5年間)に大学共同利用機関法人として唯一採択された組織であり、この事業の実行にも当たっている。自然科学研究機構はハワイに事業所を有するという特徴を活かし、事務職員等の海外研修などを行っている。

6.2 ウズベキスタン国立大学との学術交流

自然科学研究機構とウズベキスタン国立大学は、2005年に学術交流協定を結んでいる。2008年11月に岡田所長は、ウズベキスタン国立大学を、その建学90周年のお祝いをするために、公式訪問した。

ウズベキスタン国立大学は、タシュケント市内に広大なキャンパスを持ち、中央アジア最古で、ウズベキスタンで最大で最も有名な大学であり、生物学・農学・物理学・化学・数学・地学・天文学・文学など殆どすべての学問分野における中心的教育研究機関としての役割を果たしている。ウズベキスタンにはその他多数の国立大学があるにもかかわらず、本大学の名称のみにNational Universityと冠せられているところからも、本大学がいかに重要な位置を占めているかが窺える。

岡田所長はウズベキスタン国立大学のG.I. Muhamedov学長を先ず表敬訪問し、90周年への祝意を表した。約1時間の会談の後に、同大学の生物学・農学部を訪れてその施設を見学し、生物物理学教室の研究者達と数時間にわたって交流し、Toychiev副学長主催の夕食会に出席した。翌日には、タシュケント市内の中心近くにあるウズベキスタン科学アカデミーを訪問し、T.Aripov副総裁と会談した。つづいて同科学アカデミー化学・植物性物質研究所を訪問し、S. S. Sagdullaev所長及びN. J. Abdullaev副所長と会談し、同副所長の案内でその施設を見学した。更に、翌々日から2日間にわたってウズベキスタン国立大学と密な人事交流を持ちながら研究に専念しているウズベキスタン科学アカデミー生理学・生物物理学研究所を訪問し、すべてのラボを訪れて全研究者との交流を持った。特に生理研で5年間助教授を務めた後に主任教授として帰国し、生理研外国人客員教授として長年にわたって共同研究を続け、ウズベキスタン国立大学に在籍しながらこの生理学・生物物理学研究所にラボを持つSabirov Ravshan教授とその共同研究者達と、今後の共同研究の展開に関する打合せを行った。

これまでウズベキスタン国立大学と科学アカデミー生理学・生物物理学研究所から岡崎に来て、2ヶ月から11ヶ月にわたって滞在しながら共同研究を行ったのはSabirov博士を含めて研究者7名、総研大大学院生として滞在した者2名の計9名におよび、2008年度にもそれぞれ2名ずつが外国人客員教授とポスドクとして滞在した。また、これらの共同研究の成果はこれまで計30編の英文論文として発表されており、その内の3編が2008年度に発表されている。

このように本学術協定は、多数の研究者・大学院生の派遣を含む強力な共同研究の展開を支えてきたのみならず、今回の岡田所長の訪問を機に永年にわたってその開催が中断されていたウズベキスタン生理学会大会が再開されるなど、コミュニティの再形成や発展にも刺激を与えるという成果をも生み出している。

6.3 生理学研究所の国際交流活動

生理学研究所の主要な国際交流活動として、まず生理研国際シンポジウムがあげられる。毎年1ないし2回開催され、今年度で39回目となる。生理学研究所の研究教育職員(主として専任教授)が主催し、外国より10-20名、国内からもほぼ同数の当該分野の一流研究者を招聘して行うものである。他の一般参加者はポスター発表を行い、総参加者の平均は100-150名程度に達する。なお、今年度は11月に永山教授がオーガナイザーとなり“Frontiers of Biological Imaging: Synergy of the Advanced Techniques”が開催された。

国際共同研究も極めて盛んである。その多くは研究者レベルでの共同研究であるが、下記の外国人客員教育職員の制度を利用している場合も含まれる。国際共同研究の代表的な成果は事例が多いために、国際共同研究による顕著な業績以下に掲載した。

生理学研究所では4名の外国人客員研究教育職員(客員教授2名と客員研究員2名)の枠を確保しており、これまでにも世界一流の多くの研究者が共同研究を行い生理学研究所に多大な貢献をしてこられた。外国人客員教授には共同研究の傍ら、若手研究者の教育や研究所の評価活動にも協力していただくことが多い。今年度の外国人客員教育職員のリストは外国人客員教授研究員に掲載。

現在も多くの研究室に常に外国人研究者や留学生が在籍しており、近年は総研大に入学して学位を得る研究者が次第に増えてきており、今後も外国人留学生の占める割合は増加していくものと予想される。

6.4 今後の取り組み

今後も上記のような高いレベルの国際交流を継続していくために、研究者あるいは研究室レベルで行われることが多い活動を組織的にサポートすることが重要である。その一助として、研究所レベルあるいは機構レベルで諸外国の大学あるいは研究所全体を対象とした国際交流の枠組みが必要となるだろう。例えば、日韓の交流は、これまで韓国のプロジェクトであるBrain Korea 21を土台として相互訪問とシンポジウム開催を行っており、長期的な企画が望まれる。

生理研の将来にとって、外国人研究者を受け入れて行くことは不可欠なことである。しかし外国人研究者にとって生活しやすく研究しやすい環境の整備は、事務手続きを含めた様々な事柄の英語化と関係しているため、実現化にはかなりの労力と出費が予想される。生理研では英語化をすこしずつ進めており、昨年度より総研大の講義は原則的に英語を使用することにしている。現在、通常のセミナーはほとんど日本語で行われているが、英語化の検討を始めてもよい時期であろう。事務的な書類を含めて、このようないろいろな事項について、英語化へのアクションプランを作成することが必要であると考えられる。

6.5 第38回生理研国際シンポジウム「シナプスにおける機能分子のフローとストック」

生理研国際シンポジウム“Stock and ow of functional molecules in synapse”は、総研大国際シンポジウムと合同で、2008年3月17日-19日の3日間に、自然科学研究機構・岡崎コンファレンスセンターにおいて開催された。シナプス機能分子の動態は現在、最先端の光学顕微鏡的方法でリアルタイムに一分子が観察できるようになっている一方、電子顕微鏡レベルでは分子数のカウントが可能になってきている。これにより今まで未知であった機能分子のダイナミックな調節について、多くの新しい事実が次々と報告されている。

その中でも、パイオニア的存在の研究者達(Antoine Triller博士(École Normale Supérieure)、Daniel Choquet博士(Bordeaux Univ., France)、柳田敏雄博士(大阪大学)、楠見明弘博士(京都大学)、Stephan Sigrist 博士(Universität Würzburg, Germany)、河西春郎博士(東京大学))や電気生理学的、形態学的方法でシナプスの実体に迫る研究をされているPeter Somogyi博士(Oxford Univ., UK), Michael Hausser博士(University College London, UK), Nigel J Emptage博士(Oxford Univ., UK), Gina E Sosinsky博士(University of California San Diego, USA), 林康紀博士(RIKEN-MIT, USA), 渡辺雅彦博士(北海道大学)、真鍋俊也博士(東京大学)に生理研からは、山肩葉子、深田正紀、重本隆一の3名を加え活発な論議が行われた。

シナプス分子の動きに関しては一分子イメージングの強力な側面が再認識される一方、すべての分子のフローとストックを全体として把握する重要性が示された。受容体やアクチンなどの細胞骨格分子の動きだけでなくそれらの分子を蛋白的に修飾するリン酸化、脱リン酸化酵素の働きと動態、さらに新たに重要なタンパク修飾として注目を集めるパルミチル化の意義、さらにシナプス機能の統合によってもたらされる回路機能の動態まで広範囲な側面から最新の成果を発表していただいた。日本の若き神経科学研究者や院生達も加わり、活発な質疑応答が交わされた。総数百名ほどの参加があり、非常に有意義なシンポジウムであった。なおプログラムの詳細は生理研年報(第29巻)に掲載されている。

6.6 第39回生理研国際シンポジウム「生物イメージングの最前線―最先端技術の連携」

生理研国際シンポジウム「生物イメージングの最前線―最先端技術の連携」(11月10-12日)は、第7回岡崎統合バイオサイエンスセンターシンポジウム(12日夕-13日)とリンクして開催された。イメージング法は技術革新の著しい分野の一つであり、特に生体系に関し、分子、細胞、組織、そして個体の各階層に応用されている。イメージング手法としての顕微鏡の活躍はめざましく、電子顕微鏡、光学顕微鏡、各種走査プローブ顕微鏡などが研究の先端を切り拓いている。従来こうした顕微鏡は独立の領域を形成し、相互連携は弱かったが、近年こうした手法間の横断的利用が試みられるようになって来ている。本シンポジウムのオーガナイザである永山教授は2003年に第30回生理学研究所国際シンポジウム“Frontiers of Biological Electron Microscopy”を主宰しているが、今回は顕微鏡分野の最近の発展を受け、電子顕微鏡、光学顕微鏡、プローブ顕微鏡の協調の道を探り、イメージング手法の将来を基礎づけることを目標とした。