4 多次元共同脳科学推進センター

脳科学の対象とする範囲が急速に拡大しており、生理学や神経科学以外にも工学や心理学など幅広い学問領域の連携とそれらの知識の統合が必要とされてきている。多次元共同脳科学推進センター(以下、多次元脳センター)ではこのような多分野の全国の脳科学研究者とネットワークを組みながら、有機的に多次元的な共同研究を展開する場を提供すため、平成20年度4月に設置された。多次元脳センターでは、センター長、特任教授(1名)のもとに脳科学新領域開拓研究室、脳内情報抽出表現研究室、霊長類脳基盤研究開発室、NBR事業推進室を置き活動を開始した組織図参照)。

脳科学新領域開拓研究室では、医学・生物学・工学・物理学など多くの領域にまたがった脳科学を系統的に習得させる体制を整備するため、異分野連携若手研究者脳科学養成プログラムの設計を行っている。生理研の教授2名に本プログラム客員教授・准教授8名(東北大学、NTT、名古屋大学、沖縄科学技術研究基盤整備機構、京都大学、東京医科大学、自治医科大学、東京大学)が加わり、脳科学研究の動向調査や新しい研究領域を検討し、また、脳科学研究者養成に関わるプログラムとして2回の公開シンポジウムを開催した。4月に開催したキックオフシンポジウムでは、ブレイン・マシン・インタフェースや霊長類の遺伝子改変の研究の現状と将来の方向性について議論されたほか、将来のレクチャーコース開催に向けての準備として模擬講義が行われた。また今後の活動方針に関する意見交換を行った(プログラムは多次元共同脳科学推進センターキックオフシンポジウム プログラムに掲載。12月東京で開催したシンポジウムでは、大学院生・若手研究者をターゲットとしてモデル講義が行われた(プログラムは5.2多次元共同脳科学推進センターシンポジウムに掲載)。一般参加者の内訳を検討したところ、生命科学を専門とする方が54%、人文・社会科学21%、工学19%であり、異なる専門性を有する院生や研究者が、こうした脳科学の幅広い人材育成プログラムに関心を有していることが確認された。

脳内情報抽出表現研究室は、生理研教授2名と客員教授・准教授4名(順天堂大学、近畿大学、東京大学)で構成され、脳内の神経活動から運動制御、意思決定などの情報表現を抽出し、外部機器を制御するなどの技術(ブレイン・マシン・インタフェース)の開発に向けて、神経生理学、工学、計算論的神経科学、臨床医学、脳神経倫理学など様々な分野の研究者の共同作業を開始した。

霊長類脳基盤研究開発室は、生理研教授1名、基生研教授1名、客員教授3名(福島県立医科大学、理研 発生・再生科学総合研究センター、東京都神経科学総合研究所)からなる。高次脳機能や神経疾患に研究を進めるために分子生物学的な手法をヒトに近い霊長類の神経科学に導入することが必要であり、本室では遺伝子導入などの分子生物学的方法を霊長類にも応用できるよう開発し、高次脳機能や神経疾患の研究に供しようとしている。

NBR事業推進室は、生理研教授1名、特任准教授1名、専門研究職員2名により、ナショナルバイオリソースプロジェクト「ニホンザル」の事業の円滑な運営を担当した。平成20年度はニホンザルを21の研究グループ(理研、新潟大学、生理研、放医研、京都大学、東北大学、東京大学、大阪大学、岡山大学、弘前大学、東京医科歯科大学、産総研、国立精神・神経センター)に51頭を供給した。また、ニホンザルの生理学的、生化学的データや行動の特性、またこれまでにどのような研究に用いられてきたか等、ニホンザルに関する調査とデータベースの作成を行った。(1-18参照)