5   4次元脳・生体分子統合イメージング法の開発

高い3次元空間分解能と時間分解能を持つイメージング法によって、脳に発現している生体分子の動態を可視化しようとする技術については、現在世界中で活発な開発競争が繰り広げられている。生理学研究所では、特に複数の方法を組み合わせて統合的に脳機能を理解することに重点をおいて、いくつかの部門において共同して開発が進められてきた。例えば、永山、重本、川口各研究室においては、光学顕微鏡情報と電子顕微鏡情報を統合する最適な方法として、同一試料、同一視野を2つの手法で同時観察する事を目指して、新しい光顕・電顕相関顕微鏡法の開発を始めている。特に永山グループはCREST研究において、光・電子ハイブリッド顕微鏡と言う新しい手法を開発しており、これは一つの顕微鏡に光顕と電顕を組み込み、同一視野を同時観察するものである。特に蛍光法と電顕の組み合わせは、前者が特定生体分子の高速検出、後者が同一対象の高分解能検出と完全に相補的になっており、従来の色々な難問を解決し得るポテンシャルを持っている。

具体的には、永山グループを中心とした共同研究による超高圧位相差電子顕微鏡をベースとした光顕-電顕相関法の手法開発、細胞内蛋白質の同定のための蛍光Qdotを用いた相関法の開発と神経細胞系への応用などが行われている。従来、超高圧電子顕微鏡による生体試料の観察についてはコントラストが弱いことが問題点であったが、位相差板の導入と光顕染色剤としての本来の性能(光顕染色能)を変えずに電顕コントラストを高める臭素、沃素などの重原子ハロゲンの染色剤中への導入により、シアノバクテリアのDNA複製と細胞分裂の相関について、光顕-電顕相関法による新知見を得ている。さらに永山グループと重本グループの共同研究による神経系の光顕-電顕相関観察として、位相差電子顕微鏡による神経軸索伸長過程のin vivo観察がある。無染色の培養神経細胞,脳組織(マウス)を用いた神経活動変化に伴う細胞内外の形態変化の光顕-電顕相関観察を行った。今後はこれらの方法をさらに活かすために、光顕、電顕両方で検出が可能な遺伝子タグの開発を進めていく。また、機構内の分野間連携としてイメージングサイエンスが進行しているが、その中で重本研と分子研の岡本グループによる新しい金三角プレートを用いた二光子顕微鏡観察の成功が報告された(Jiang et al., Advanced Materials, 2009 in press)。

一方、ヒト脳機能イメージングとしては、解析手法について一段の進歩がみとめられた。機能的MRIはヒトの高次機能局在を明らかにする強力な手法であるが、同時に画素ごとの時系列データを得ることが出来る。局所間の関連性(effective connectivity)を解析するツールとして多変量自己相関解析に基づくAkaike causality modelを開発し、fMRI時系列データへ適用した。その結果、脳局所間関連性について、両手協調運動の運動形態による安定性の相違の神経基盤を明らかにすることが出来た(Maki et al. Neuroimage, 2008)。このモデルは、機能的MRIによる脳機能局在と統合の研究に大きく資するものである。

Jiang Y, Nishizawa N Nishizawa Horimoto, Imura K, Okamoto H, Matsui K, Shigemoto R (2009) Bio-imaging with two-photon induced luminescence from gold triangular nanoplates and nanoparticle aggregates. Advanced Materials, in press.

Maki Y, Wong KF, Sugiura M, Ozaki T, Sadato N (2008) Asymmetric ontrol mechanisms of bimanual coordination: an application of directed connectivity analysis to kinematic and functional MRI data. Neuroimage 42:1295-1304.